小・中学生の野球による肩の障害のなかで多いのが
この「リトルリーガーズ・ショルダー」といわれる障害です。
成長期の肩関節はまだ完全に骨が出来上がっているわけではないので、
どうしても軟骨部分が弱く、度重なるストレスに負けてしまいます。
この疾患も肩の使い過ぎによるものですが、
どの部分が使い過ぎなのか、
また、予防方法について御覧頂きたいと思います。
左の写真は、実際の小学生のピッチャーが投げるシーンです。
赤丸で囲んだ肩の部分はボールを投げる力をためている状態です。
投球のどの時点で痛みが生じるかによって傷めている個所も違います。
今まさにボールを前に投げようとする直前です。
水色の棒が腕の軸を表しています。
赤い矢印がその腕にかかっているストレスの方向を表しています。
加速がついて棒の周りをねじる力がかかっていることがわかります。
この瞬間はほんのわずかですが、
ボールに加速を加えるために腕が後ろから前にしなって出ていきます。
水色の棒が腕の軸と体の軸を表しています。
今度は赤い矢印がボールを前に投げるために、
後ろから前にねじる動作に変わっています。
しかも、肘を前に出すので、肘から先にも負担がかかっています。
ボールをリリースして、フォロースルーに近くなってくると、 腕が前に振り出されてしまうので、 それを止めようとする反作用の力がかかります。 (水色の二つの矢印)
そして、肘から先もボールを投げるために、 一連の動作の中で、 |
成長期の少年たちの肩関節で
投球時にどんな力がかかっているのかを表したのが左の図です。
骨端線の部分を境にして、
引っ張る力とねじる力が加わっていることが
お分かりいただけると思います。
成人になっていくにつれて骨端線が無くなるので、
そうなった時には、骨の部分ではなくて、
筋肉や靭帯に負担がかかることになります。
つまり、大人が肩を故障するということと、
子供が肩を故障するということは原因が違うのです。
リトルリーガーズ・ショルダーは左の図のように3つに分類されます。
骨端線の部分の広がりの度合いによって3つに分けられています。
この病名は「骨端線離開」といいますが、
その所以はこの図のように骨端線が開いてくるからです。
主にⅠ型とII型がほとんどです。
肩が痛くなった時点でレントゲンを撮ってみると、
どの段階にあるのかすぐにわかります。
レントゲン検査では、両肩を見比べます。
赤い丸で囲んだ右肩の部分と、
青い丸で囲んだ左肩の部分を見比べると、
骨端線の開き具合が違っています。
診断時には、比較のためにこのように両肩のレントゲンを撮ります。
診断時には、さらに両肩の外観も見比べます。
投球時に肩が痛む場合、診るポイント
診察はレントゲンを撮るほかに、
肩の動きがどれだけ制限されているのかも診る必要があります。
左の写真のように肩のひねりの角度も重要なので、
良い方の肩と、悪い方の方のひねりの角度も測って比較します。
肩関節はいろいろな方向に動きます。
ですので、いろいろな方向から肩関節の可動域を測り、
左右の差を比較します。
また肩関節だけでなく、
腰や股関節など一連の運動に必要な箇所の柔軟性も評価します。
左の写真は肩甲骨の位置異常から
肩関節の柔軟性がどれだけ損なわれているのかを見ています。
両肩を床につけるように指示しても、
悪い方の肩は床につきません。
こういう肩を治療するには、
背中に枕を入れて、ゆっくりと息を吐きながら、
胸を広げ、さらに肩を広げていきます。
痛みのない範囲で、ゆっくりとストレッチしていきます。
疲労がたまると、このように肩関節が硬くなるので、
ゆっくりと伸ばしていきます。
次に腕を上げた状態で見てみると、
肩関節を取り巻く筋肉の緊張や肩甲骨の位置異常によって、
左右の肘の位置が違ってきているのがわかります。
こういった場合には、肩の関節だけでなく、
広背筋を伸ばすために、腰から肩にかけて、
広く伸ばしていきます
また、肩関節の周辺をストレッチすることで、
無理な力が肩にかからなくなる効果が見られます。
特に肩の後ろの部分は伸ばしにくいので、
左の写真のように横に寝て、
腕を床に向かってゆっくりとストレッチしていきます。
肩の後方の筋肉や靭帯などを伸ばすのは、
立って行うと腕の重みで腕が下がってしまうので、
横に寝て写真のように床と腕が直角になるようにストレッチします。
こうすることで、肩の後ろ周辺の筋肉や靭帯を
効果的に伸ばすことができます。
実際の患者さんの症例を見ていきましょう。
13歳の硬式野球部所属の方です。
ポジションはショートです。
来院時に外観の写真を撮らせていただいたところ、
圧痛が右肩の黒い線に沿ってありました。
また、若干右肩が下がり、脇が開く姿勢になっていました。
レントゲンを撮ってみると、先ほどの黒い線に沿って、
骨端線が開いていることがわかりました。
タイプとしてはII型で、
良い方の肩と比べると全周にわたって骨端線の開きがありました。
治療としては、投球の中止を1ヶ月間行い、
その間に肩周辺のストレッチを指導しました。
約1か月後のレントゲンでは、
骨端線の開きが改善され、
痛みも消失していたので、
徐々に練習に復帰するように指導しました。
一般に、このリトルリーガーズ・ショルダーの治療は
投球を中止して、2~4週間の間に圧痛や運動痛が消失したら、
肩のストレッチングを積極的に行って、
投球以外の野球の練習には参加していただいてかまいません。
Ⅰ型とII型の場合、初診時から1~2カ月で投球が可能となり、
3~6カ月の間に骨端線部分の修復も得られるので、
後遺症を残すことはあまりありません。
13歳、軟式野球部所属の方です。
ポジションはピッチャーで、
1か月前から本格的なピッチング練習を始めたそうです。
1週間前より、投球の際に痛みを感じていたそうですが、
毎日80球を投げていたそうです。
初診時のレントゲンでは赤色矢印の先の部分で、
骨端線が広がっていることがわかります。
1か月後のレントゲンでは、
骨端線の一部分が修復している傾向にあり、
圧痛も消失し、運動痛もなかったので、
塁間のキャッチボール程度から始めてもらって、
徐々に投球数を上げてもらうように指導しました。
ところが、3カ月後再び投球時に痛みが出現したため、
1ヶ月間の投球中止を指導しました。
なぜ再び痛くなったのか調べてみる必要があったので、
投球フォームを調べてみることにしました。
実際にボールを投げてもらって、
投球フォームを評価してみました。
正面から投球フォームを見てみました。
グローブが下がり、早く身体の正面が見えてしまいます。
足と膝の向きは正面を向いておらず、
結果として身体の開きが早くおこってることがわかりました。
後ろから見ると、
本来、投球時にはステップした足の先が
キャッチャーの方を向いていなければなりません 。
しかし、写真のように、ステップした足の先は、
キャッチャ-とは違う方向を向いています。
結果として、無駄な方向に力がかかってしまい、
肩や肘の周辺を使ってボールをコントロールしなければならないので、
肩に負担がかかっていることがわかります。
ボールをリリースする瞬間には、
無理やり腕の力で方向転換をして、
ストライクゾーンに向かって
ボールをコントロールしているのだとわかりました。
ステップの方法を指導して、
肩の負担をなくすように指導しました。
結果として、高校3年まで野球を続けることが可能でした。
リトルリーガーズ・ショルダーは投球をしばらく中止して、
様子をみることで経過も良好な疾患です。
しかし、ただ単に休むだけでなく、
その間にできる野球の練習はたくさんあります。
投げることだけを中止して、
下半身のストレッチなど、
別メニューで練習に参加することもできます。
治療中に投球フォームを評価し、
無理な投げ方をしないように修正することで、
再発も防ぐことができます。
もちろんフォームだけが原因ではなく、
投球回数や、その他の原因がある場合もあります。
ですので、スタッフと一緒に治療を行いながら、
原因を探ることで、再発を防ぎ、
野球への復帰を目指しましょう!
少年野球をやっていて肩が痛くなったら、
念のために「リトルリーガーズ・ショルダー」を疑ってみてください。
早期発見で早期治療に入り、
原因となることを無くすことで、
再発を防ぎ、
長く楽しく野球を続けることができるようにしましう!