トリガーリスト〜手首で起こるばね現象〜(ばね指と間違われやすい弾発手首)

指の弾発現象で一番頻度の高いのは「ばね指」と呼ばれる手のひらを通る指を曲げる腱の障害です。

ですが、非常にまれに手首の部分に弾発現象が起こり、
指の屈伸運動がぎこちなくなる疾患があります。

それを「トリガーリスト」といいます。

このページでは、当院で経験した手首での弾発現象を確認した症例をご紹介します。

下の図は手のひら側から見た解剖図です。

青いのが屈筋腱腱鞘と呼ばれる腱の滑走をスムーズにするトンネル部分です。

「ばね指」と呼ばれる腱鞘炎はそれぞれの指の腱鞘部分で生じますが、
「トリガーリスト」はそれらの腱が束になっている「横手根靭帯」付近で生じます。

病態としては、靭帯部分を通る「屈筋腱腱鞘部」での弾発現象であると考えられます。 

手首付近を輪切りにした図が下の絵になります。

中でも、「浅指屈筋腱」と「深指屈筋腱」呼ばれる
指の曲げ伸ばしに必要な腱の束が重要になってきます。

これらは手首の靭帯の下をくぐり、指先にそれぞれ分かれていくわけですが、
束になっている部分では、他の神経や血管とともに狭いトンネルの中をくぐるようにして走っています。

これら屈筋腱の束の周りで炎症が生じ、
狭いトンネルの中で屈筋腱がスムーズに通れなくなると、弾発現象が出てしまいます。

その原因としては、屈筋腱に発生した腫瘤によるものや、
手首でのトンネルの中で筋肉の異常が生じたもの、
あるいは関節リウマチによる滑膜炎などが報告されています。

以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。

では、実際の手首での弾発現象を見ていただきます。

37歳の男性です。左手関節の痛みと中指のバネ現象による痛みを訴えて来院されました。

お仕事でパソコン作業など手を使うことが多くなり、9ヶ月前に小指のバネ現象が出現し、その後、2ヶ月たってから中指のバネ現象まで出現したそうです。

そのとき、近隣の医院でバネ指と診断され、バネ指の手術を受けたにもかかわらず、症状が改善しないため、当院を紹介され、来院されました。

左の映像で、指を曲げてから伸ばすときに、
スムーズに指が動かないのがわかりますか?

このバネ現象は一見、指の部分で起こるように見えますが、実は、手指を使う作業が格段に多くなったことで手首の腱鞘の部分で炎症が起こり、腫れあがった組織がひっかかったものと思われます。 

手首の付近に注目してみていただくと、
小さなコブのように腫れた部分が何かにひっかっかるように見えるのがわかります。

そこで、患部が内部でどうなっているのか見るために、エコーを撮りました。

エコーを撮ると、赤の点線で囲んだ部分の腱周囲組織に肥厚が見られました。

この方は、肥厚した部分に注射を2度行って、
初診から1ヵ月後に、弾発現象と痛みが消失しました。

注射によって腱鞘周囲の炎症が消えて、症状が改善したものと考えられます。

若干、腫瘤が残ってはいますが、日常生活上支障が無いので治療を終了しました。

69歳の男性です。

3ヶ月前に手指のしびれ感を訴えて来院されていました。
その当時も物が握れないなどの症状があり、
手根管症候群であるとして治療しました。

その後、約1ヶ月前より指のひっかかり感を感じたため、
ご自宅で温めるなどのケアーをしておられましたが、
症状が改善されないため再び来院されました。

再来院時には、曲げ伸ばしの際に指がスムーズに動かないということと、手首周辺に痛みがありました。

左の動画では、一見スムーズに動いているように見えますが、
画像の最後の方にもあるように、一旦指を深く曲げきってから伸ばそうとすると、痛みと、弾発現象のためスムーズに指を伸ばすことができません。

手首周辺に注目すると、腫れて、指を曲げ伸ばしする際に、
小さな腫瘤が動くことがわかります。

今回の弾発現象が出た原因としては、
内科的疾患をわずらっておられるところに加え、
手根管症候群を生じてしまうような手首の炎症が腱鞘炎を併発するぐらいまでになってしまったのではないかと考えられます。

治療として、手首周辺の腫脹の見られるポイントに注射を行いました。 

左の動画は1週間後に再び来院されたときのものです。

指で押さえている部分に若干腫瘤がありますが、
指の動きはスムーズになっています。

炎症が治まっていますが、少し腱の肥厚が残っています。

ご本人の感じる症状は改善してきており、このまま経過を見ることとなりました。 

トリガーリストは非常に稀な疾患なので、報告例も少ない疾患です。

指の弾発現象が原因だと思い治療を続けていても変化が無い場合、
実は原因は手首だったという場合があります。

指の弾発現象が治療しても長引いているというときには、
一度この「トリガーリスト」ではないかと疑ってみることも必要です。

手首の痛みや、指の弾発現象が長引いているときには、
早い目に整形外科を受診される事をお勧めします。

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