アキレス腱骨化症(アキレス腱が痛い!)
アキレス腱の痛みには、アキレス腱そのものに痛みが出るものと、
アキレス腱が付着する踵骨の後方部分で痛みが生じる場合の2つに分かれます。
アキレス腱が痛み、レントゲンではあたかも骨が増殖しているように写る疾患があります。
これを「アキレス腱骨化症」といいます。

上のレントゲン写真にあるように、アキレス腱の走行に沿って、骨化した腱の画像が写ります(赤丸で囲んだ部分)。
一般には、男性に多いといわれ、好発年齢は、中高年であるといわれています。
症状としては、アキレス腱の痛みになりますが、慢性化して、なかなかすっきりしないということが多いようです。
そこで、レントゲンを撮ってみると、骨化が見つかるという場合もあります。
では、どうして痛みが出るのでしょうか?
それについては、以下でご説明したいと思います。
アキレス腱骨化症の病態

上の図は、アキレス腱が踵骨に着くあたりをあらわしたものです。
赤丸で示した腱付着部に繰り返しストレスがかかり続けると、アキレス腱には微細な損傷が生じます。
この部位では線維軟骨組織でできているため、損傷に対する修復能力は低いとされています。
さらに、繰り返す牽引ストレスがかかると、腱の付着部では腱の変性が起こると考えられています。
これが腱付着部での炎症がおこる病態であるといわれています。
アキレス腱の石灰化は、このアキレス腱にかかるストレスから修復しようとする治癒過程で、
カルシウム成分がコラーゲン線維に沈着し、その結果起こると考えられています。
また、内科的な疾患の関与もあるという説もあり、
糖尿病や腎不全などと合併して骨化が生じやすい条件があるのではないかともいわれています。
アキレス腱骨化症の分類
以下の図は、アキレス腱骨化症の分類を示したものです。
TypeⅠ、Type2は腱付着部型、TypeⅢは腱体部型に分けられています。
TypeⅠ

踵骨から連続する骨隆起が見られる
TypeⅡ

踵骨から約3cmまでの踵骨と分離した骨化
TypeⅢ

TypeⅡよりも近位でアキレス腱体部での骨化
それぞれ生じる場所によって分類されていますが、
いずれも骨化が起こっている部位での腱の変性が基盤になると考えられています。
治療としては、以下の写真のようなヒールパッドを処方し、靴の中に入れていただいて踵にかかる負担を経験します。

以下で、実際の患者さんについて見ていただきたいと思います。

50代の女性です。
左アキレス腱の痛みを訴えて来院されました。
4日前から、思い当たる誘因がなく痛みが生じはめたそうですが、3年前にも左のアキレス腱痛があったそうです。
お仕事は、調理場での作業をされており、
スポーツはとくにされていないそうです。

踵をあげると、左のアキレス腱の踵骨付着部付近に痛みが生じます。
アキレス腱付着部炎を疑ってレントゲンを撮ってみたところ・・・。

左右のアキレス腱に骨化が確認できました。
現在痛みのない、右側にも骨化がありました。
そこで、アキレス腱骨化が確認できたので、
処置としてアキレス腱の負担を軽減することを目的として、
ヒールパッドを処方しました。
その結果、約1ヶ月後にはアキレス腱の痛みも消失して、
お仕事も問題なく出来るようになりました。

60代の男性です。
右下腿部後面の痛みを訴えて来院されました。
2週間前にサッカーの試合でボールを取ろうとしたとたんに
右下腿が痛くなったそうです。
近くの病院を受診されて、アキレス腱の部分断裂という診断で、
手術をすすめられていたそうです。
圧痛部は、腓腹筋にあり、皮下出血も認められたため、
腓腹筋損傷が疑われました。

アキレス腱の状態を確認するために、
まず健側の足のアキレス腱の形を見てみました。

次に、患側を見ると、腫脹と皮下出血のため、
アキレス腱の形態は不明瞭でした。
しかし、完全にアキレス腱が断裂しているような
明らかな腱の陥凹はありませんでした。

圧痛は、アキレス腱体部よりも、
やや近位の腓腹筋移行部あたりに ありました。
結果として、アキレス腱自体の損傷ではないと判断しました。

レントゲンを撮ってみると、右側のアキレス腱体部に
骨化像が認められました(赤色矢印の先に示した部分) 。
左足のアキレス腱付着部にも、骨化像がありましたが、
こちらは無症状でした。
このことから、かつてアキレス腱体部に骨化がおこるような
変性断裂があったものと考えられました。
そのために、アキレス腱にゆるみが生じて、
トンプソンテストが陽性となり、
アキレス腱断裂と間違われたものと考えられました。
以下で、確定診断に至ったテスト法を御紹介します。
下の動画のような方法でアキレス腱が断裂していないことを確認しました。
上記の動画は初診時につま先を伸ばす動作をしていただいたものです。
しっかり、つま先が上に向かって伸びていて、つま先立ちの肢位になったときも、アキレス腱がしっかり触れています。
このことから、アキレス腱が断裂していないことがわかります。
上の動画は初診から2週間後のものです。
この画像だけをみると、アキレス腱が断裂しているかのように思えますが、
初診時の動画でも確認できたように、アキレス腱は断裂していません。
経過としては、蹴りだす力は多少弱くなっておられましたが、
特別、歩くことなどには支障なく、日常生活に戻られました。
この方の例は非常に稀な例といえます。
アキレス腱骨化症は、アキレス腱付着部での炎症が原因となり、痛みが生じるので、
対処法としては、ヒールパッドで十分対応できます。
しかし、アキレス腱に必要以上のストレスをかけないためにも、
下腿の筋の柔軟性が必要になってくるので、
リハビリとしてはストレッチを中心に行っていきます。
慢性的なアキレス腱の痛みでお悩みの方は、一度ご相談ください。
関連する参考資料
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