骨盤や股関節は足からの衝撃を受け、ストレスがかかる場所でもあります。
足を支える本幹ともいえる場所なので、ひとたび骨脆弱性骨折が起こると、痛くて歩けないぐらいになります。
上の図の青色矢印は足から伝わってくる衝撃です。
足からの衝撃は骨盤の下の部分を通ります。
上半身の重みは赤矢印で示したようにそれぞれの股関節に分散されます。
そして、大腿骨頚部で上半身と下半身の重みを支えることとなります。
上の図の大腿骨頚部(ピンクの○で囲んだ部分)は上下からの重みを受け止めることになります。
ですので、大腿骨頚部と呼ばれる股関節の大変重要な部分です。
また、恥骨・坐骨の境界付近(緑色の○で囲んだ部分)は骨盤の動きに連動してたわみます。
さらに、腹筋や内転筋の収縮によって恥骨・坐骨結合部分にストレスがかかります。
しっかりした骨であれば、こういったストレスをものともしないのですが、
骨が脆弱な場合には、度重なるストレスがかかることによって骨盤や股関節周辺に骨折が生じます。
脆弱性骨盤骨折の分類
骨盤は、いくつかの骨が合わさって骨盤輪という一つの輪を形成しています。
左の図にあるタイプⅠaは、片側の恥骨坐骨骨折です。
Ⅰbは、両恥骨坐骨骨折です。
これらのタイプは、骨折部のズレがみられず骨盤輪が安定している骨折です。
左の図は、後方の骨盤輪が骨折しているタイプを示したものです。
先に示したタイプⅠと比べると重症度が高くなりますが、骨折部の安定性は保たれています。
これらのタイプⅠ・Ⅱは、骨粗鬆症の治療をしながら経過をみていくことで、骨折部が完治しやすい骨折です。
左の図は、前方骨盤輪の損傷に加え、後方骨盤輪の損傷部位が不安定な骨折です。
このタイプは、腸骨や仙骨などの骨盤輪のなかでも重要な箇所が破綻しているので
不安定型骨折に分類されます。
左の図は両側の後方骨盤輪が破綻している骨折です。
完全に骨盤輪の支持性が失われるので、不安定性骨折に分類されます。
タイプⅢ・Ⅳの治療としては手術を選択されます。
以下で
当院に実際に来院された患者さんを紹介したいと思います。
〜症例1〜
77歳の女性です。
恥骨部の痛みによって歩くのが非常につらいということで来院されました。
この方は、以前に腰の痛みを訴えて来院された時、
骨粗鬆症と診断し、治療薬を投与した後、
3週間後に腰痛が消失したので、お薬を飲むのをやめておられました。
しかし、それから2ヶ月後に来院された時のレントゲンがこちらのものです。
はっきりと骨折線が入っているわけではありません。
MRIを撮ってみると、 赤矢印の先に示したように、右の恥骨部に白い色調の変化が見られました。
同じ画像を違う条件で撮ってみると、上の写真と同じ部位が今度は黒く写っていました。
以上のことから、恥骨の骨脆弱性骨折だと判断しました。
初診から3ヵ月後に再びレントゲンを撮ってみると、恥骨部で骨がずれたように写っていました。
しかし、痛みは消失して歩くのも問題なくできておられましたので、骨はついたものと判断しました。
この方は、以前に腰痛を訴えて来院されていました。
その当時のレントゲンでは、
腰椎は複数の椎体が変形し、骨全体が薄く写っているところから、
骨粗鬆症が明らかでした。
ですので、骨折の治療とともに骨粗鬆症に対する治療も並行して行いました。
治療に入る時点では、こちらの写真の骨代謝を示す値が非常に高くなっています。
しかし、治療後には、骨代謝を示す値は下がり、骨盤部の痛みも軽快しました。
〜症例2〜
次は74歳の女性です。
特に転んだなどの原因もなく、骨盤部が痛いということで来院されました。
もともと以前から骨粗鬆症があって、治療も続けておられました。
そういった背景から、骨脆弱性骨折を疑いながら経過をみていました。
すると、3週間後のレントゲン写真では、
赤矢印で示したあたりに、恥骨の少しのずれが生じ、仮骨も確認できました。
このことから、骨脆弱性骨折であると確認できました。
この時点で、骨折は治ったと判断できました。
この方の血液検査データも、最初は骨代謝を示す値が高くでていて、
骨粗鬆症の投薬治療も、骨折の治療と並行して行いました。
治療後のデータが、こちらの写真です。
骨代謝を示す値が低くなり、骨粗鬆症も軽減されていることがわかります。
〜症例3〜
82歳の女性です。
以前に上腕骨の骨折でリハビリを行っておられました。
1か月ほど前から、骨盤部の痛みが出現して、歩くことに支障が出てきたため、入院となりました。
この時点でのレントゲンでは何も写っていませんでした。
治療として、特別なことはせずに、安静にすることで、痛みは和らいできました。
入院してから20日後、痛みが和らいできた時点でレントゲンを再び撮ってみると、
赤矢印で示した部分に仮骨の形成が見られました。
ですので、骨脆弱性骨折であったと確定診断できました。
別の角度でレントゲンを撮ってみると、仮骨がはっきりと写っていました。
この時点で骨折は治ったと判断できました。
〜症例4〜
90才の女性です。
介護施設にて歩行途中で休憩しようとした際、イスに座りそこねて右側に転倒しました。
写真は、翌日来院されたときのものです。
目立った骨折線はなかったのですが、
症状として右足を上げることができないくらい痛みが強かったので
骨折を疑いながら経過をみていくことにしました。
左のレントゲン写真は、初診から2週間が経過した時点のものです。
右の恥骨上下枝に骨折線が明らかに認められました。
この時点で痛みは、なかったのでイスに座った状態で足を動かす運動を始めていただきました。
その後、初診から一ヶ月の時点で骨癒合を得ました。
症状は軽減し痛みなく歩けるようになりました。
このように安定型の骨脆弱性骨盤骨折であれば入院をすることなく経過をみていただくことで治ります。
〜症例5〜
次は75歳の男性です。
以前から股関節痛があり、リハビリを続けておられましたが、痛みが軽減せず、
レントゲンを撮ってみても、異常は見当たりませんでした。
あまりに痛みが続くので、MRIを撮ってみることにしました。
すると、赤丸で囲んだ部分に色調の変化が見られました。
同じく、違う条件で撮影したMRI画像でも、
周囲と比べて赤丸で囲んだ部分に色調の違いが見受けられました。
外傷がなくて、今回のように長引く痛みがあったのは、
大腿骨頚部での、骨脆弱性骨折であると判断できました。
別の角度からのMRIでも、大腿骨頚部の変化が確認できます。
このように、男性で、しかも外傷もなく、大腿骨頚部に骨折がおこることは珍しい事です。
ですので、骨の中で、何らかの血流の減少などが生じ、それが影響して、
一番荷重のストレスがかかる大腿骨頚部で、骨脆弱性骨折が起こったのではないかと推察しました。
骨盤・股関節部での骨脆弱性骨折では、歩くのが辛いということで来院される方が多く見受けられます。
転んだとか、そのほかの外傷もなく、こういった痛みが生じたときには、
骨脆弱性骨折を疑ってみる必要性があります。
また、そういった場合には、痛みを我慢せず、
整形外科を受診されることをお勧めいたします。