指が固まったかのようになって、動かし辛くなり、手のひらのあたりには皮膚がひきつれて、
瘤のようなものができる疾患があります。
一見、腱鞘炎のようにも思えますが、実は全く違う病気なのです。
この疾患を「デュプイトラン拘縮」といいます。
なかなか聞きなれない疾患名ですが、このページでどういった病気なのか説明させていただきたいと思います。
上の写真は、当院に来られた患者さんの実際の手です。
中指と小指の腱が浮き出ているのがわかります。
これはあえて浮き立たせようとしているわけではなく、
そのような形で固まってしまい、完全に指が伸ばせない状態になっているのです。
しかし、痛みがあまりないというのがこの疾患の特徴です。
上の図は、実際にデュプイトラン拘縮になっている手のひらの皮膚の下で、どうなっているのかを示したものです。
入り乱れるように、手ひらのすぐ下の組織が肥厚していますが、
1本の指だけで考えてみると、腱や腱鞘は正常で、その周囲にある組織が肥厚し、癒着しているような状態です。
それが皮膚の下で、索状物としてふれます。
罹患指で多いのは、薬指と小指で、母指は最も少ないと言われています。
ですので、母指が罹患する指として最も多いばね指とは、ちょうど逆の関係になります。
上の図は、索状物として触れるとされる部分の名称です。
指には様々な索状組織があります。
それらは普段は緊張を保ち、時には指の動きに合わせて伸び縮みをする組織なのですが、
いったん病的状態になると、それらが複雑に関与して、右の図のように緊張し、肥厚してしまいます。
上の右の図は、手のひらを赤い線の部分で輪切りにした図です。
手のひらを構成する中手骨のすぐ表面には、屈筋腱や虫様筋が存在します。
さらに、皮膚表面に近いところには、手掌腱膜や、腱索が存在します。
この皮膚に近いところの組織が、この疾患で悪くなるのですが、詳しい原因はわかっていません。
しかし、この疾患は60歳以上の高齢の男性に多く見られ、
一説には、糖尿病や、高脂血症などの疾患をお持ちの方に多くみられるとも言われています。
ですので、女性に多いとされるばね指とは対照的な罹患率と言えます。
他の疾患との区別を測るためのテストとしては、上の図の「Table-top test」があります。
テーブル上などに手を置き、上から圧をかけても、関節の屈曲拘縮のため、
テーブルと手の間に隙間ができる場合、この疾患であると考えられます。
では、実際の患者さんの例を御覧いただきたいと思います。
70歳の男性です。
もともと、左中指の腫れと運動制限があり、当院を受診されていましたが、その後、親指の部分での運動制限があるので、再び来院されました。
左右で確認してみると、赤丸印の部分の親指の側面に、
索状の組織が浮き出ていました。
左右を比較してみると、その違いが明らかです。
ところが、経過を診ていますと、
左手では母指球部と中指にも索状の組織が確認でき、
指が開きにくい状態になっていました。
また、右手も親指の側面に索状組織が浮き出ていました。
この方は、手の手術も可能な病院へ御紹介したのですが、
保存療法で経過を診て行くこととなりました。
69歳の男性です。
左指の曲げ伸ばしが辛いということで来院されました。
10年前から、指の曲げにくさは出ていて、左の写真にあるように、
握りこみが完全にできない状態になっていました。
手のひらを伸ばした状態でも、完全に指が伸びきらない状態でした。
手のひらをみてみると、薬指の下の部分に索状組織が浮き出ていました。
別の角度から見ても、手のひらに索状組織がはっきりと浮き出ています。
この方は、糖尿病の治療も6~7年前から受けておられて、
そちらの治療も並行して保存療法を行うことになりました。
69歳の男性です。
小指が曲がったままになって、伸びないことを気にして来院されました。
特に電車の手すりを放そうとすると、ひっかって離れないことがあるそうです。
小指は完全に曲がっていますが、他の指や手をみてみると、
赤矢印で示したところに索状組織が見られました。
レントゲン写真を撮ってみると、
関節の変形やリウマチにみられるような骨の変化はありませんでした。
ですので、完全に右手の小指が伸びないという状態を
スタッフが手で押さえて確認し、
デュプイトラン拘縮であると判断し、
手の専門外科を御紹介しました。
79歳の男性です。
数年前から、左の小指が曲がってきたことに気が付いていましたが、御本人が様子を見ておられて、
徐々に状態が悪化してきたので来院されました。
特にズボンのポケットに手を入れると、
引っかかるという不便さを感じておられたようです。
赤矢印で示したところに、索状組織が見えます。
別の角度から見ても、索状組織がはっきりと浮き出ています。
手術をお勧めしましたが、御本人がしばらく様子を見たいとのことでした。
しかし、日常生活に支障が出てこられたので、
再び来院され、手術を決意され、
手の専門病院を御紹介しました。
デュプイトラン拘縮は、痛みを訴えてこられることは少ないうえ、
指の機能で曲げることはさほど障害を受けないので、
すぐには受診されない患者さんがほとんどです。
ですので、不自由さにはかなり個人差があるので、
絶対的に手術になるということはありません。
ただ、職業上や、日常生活上での支障が著しく出て、
御本人も苦悩されている場合には手術適応になる場合がありますが、
ほとんどの場合が保存療法となります。
デュプイトラン拘縮は、ばね指とは罹患指や男女比が異なっていることも特徴的な疾患です。
最初のうちは腱鞘炎かなと思って様子をみる方が多い疾患ですが、
様子がおかしいと思われた場合には、整形外科を受診されることをお勧めします。