「筋トレ」とは筋力トレーニングを省略した言葉ですが、
老若男女を問わず、聞いた事のある言葉ですね?
では、筋力トレーニングは効果があると思われますか?
率直に申し上げますと、
「筋力トレーニングは効果があります!」
では、どんな効果があるのでしょうか?
このページでは、
高齢の方を対象に、筋力トレーニングがどういう効果をもたらすのかということについて、
ご説明したいと思います。
なぜ、筋力トレーニングが必要なのでしょうか?
スポーツ選手はパフォーマンスを上げるために日々練習をして、筋力をつけています。
高齢者の方にとっても、同じことが言えます。
しかし、目的は日常生活動作につながるトレーニングを行う事にあります。
なぜ筋力トレーニングが必要なのかといいますと、
筋力と骨格筋の量は年齢を重ねるとともに徐々に変化が起こってくるため、
その変化をできるだけ小さく緩やかにすることを目的としています。
上のグラフにもあるように、年齢が上がるに従って、筋力は低下していきます。
50歳から70歳までの20年間で、筋力が15%程度、骨格筋の量が10%程度減少するといわれています。
そこに転倒をきっかけに、入院することになったり、
退院してからも転んだことによる不安感からの閉じこもりが続いて活動性が低くなると、
環をかけてさらに身体機能が低下するという悪循環が考えられます。
このような問題は、ひいては要介護状態になるような悪いサイクルに陥ってしまう事になります。
上の図にあるように、加齢に伴う筋量の減少は、
筋力を低下させ、活動性の低下を引き起こし、
やがて、身体的に虚弱な状況をつくってしまいます。
こういった悪循環を断ち切るために、
サイクルの始まりでもある「筋量の減少」を
食い止めるため筋力トレーニングを行う必要があります。
では、なぜ筋力低下が起こるのでしょうか?
筋力低下の原因
筋力低下の要因には、加齢に伴って低下すること、
神経学的な要因によるもの、形態学的な要因(筋委縮)によるものがあります。
加齢による要因とは?
上の図は、骨格筋を作る上で、筋肉のタンパクの合成と分解のバランスを示すものです。
若い人では、このバランスがほぼ一定に保たれているのですが、
高齢者ではたんぱくの合成に関与するホルモンの血中濃度が減少し、合成されにくくなります。
一方で、タンパクの分解の分解に関与する炎症性サイトカインや、
酸化ストレスの増加によって、分解力が増加します。
結果的に、骨格筋量は減少することとなります。
これが、筋力が減少する原因です。
神経学的な要因とは?
神経を介して筋力低下が起こる要因には、
主動作筋(動作を遂行するために使う筋肉)が
やせてしまう事があげられます。
主動作筋がやせてしまう原因として、以下の3つがあげられます。
(1)大脳の興奮水準の低下
通常の場合、神経と筋肉の間は一つの運動単位を持っています。
結合部では、神経伝達物質のやり取りが行われています。
ところが、ベッド上で安静が続くことで、
生じる廃用症候群や、加齢による脳の興奮量の減少が起こると、
神経伝達物質が減少して、筋活動が減少します。
脳からの刺激が少なくなると、運動単位数の減少し、筋力の低下につながります。
上の図にもあるように、脳からの刺激が少なくなることが原因で、
神経そのものも発火する頻度が少なくなり、
本来できていた動作がしにくくなってしまいます。
(2)痛みがある
術後の痛みや、変形性関節症などがあって、
関節が痛みによって動かしづらくなっている状態が続くと、
痛みを感じるため、動きを抑制してしまうようになります。
その結果、使用頻度の少なくなった筋肉は自然と萎縮していき、筋力の低下につながります。
(3)関節の腫脹がある
関節内に水がたまった状態が続いても、筋力低下が起こることがあります。
膝を例にあげると、上の図にあるように、
膝関節内に水腫が生じると、関節内圧が高まります。
すると、関節内のレセプターが反応して、
脳・脊髄神経路を介して、大腿四頭筋の活動に抑制がかかります。
腫脹がある状態で筋力を発揮しようとすると、
さらに関節の内圧が高まってしまうので、
より抑制がはたらき、筋力の低下につながります。
形態学的な要因(筋委縮)とは?
最大に発揮される筋力は、筋肉の断面積と相関があるといわれています。
すなわち、筋肉が太く、体積が大きい場合には、筋肉は力を強く発揮することができます。
しかし、加齢に伴って、筋肉のボリュームも落ちてきます。
その結果、萎縮した筋肉では、十分な筋力が発揮できなくなります。
これが筋力低下の原因です。
では、筋力を増加するには、どうしたらいいのでしょうか?
筋力増加のメカニズム
筋力トレーニングによって、筋力の増加をもたらすことができますが、
ではどういった要因で筋力増加が起こるのでしょうか?
筋力が増加する要因にも、神経学的な要因と、形態学的な要因の両方があります。
神経学的要因による筋力の増加とは?
(1)トレーニングによる学習効果
上の動画は、ラダー上を繰り返し歩くトレーニングです。
姿勢を保持して、バランスを保つことで、転倒予防につながる運動です。
このように、繰り返し筋力トレーニングを行う事で、
その動作を神経を介して脳が学習することになります。
筋力トレーニングは、単に筋肉を使って動くというだけでなく、
バランスをとったり、姿勢を保ったりという、
日常生活に必要不可欠なことも同時に学習するという効果があります。
(2)クロスオーバー(交差性)トレーニング効果
上の動画にあるように、片方の膝の可動域を改善するために、
膝を曲げるハムストリングスの筋力トレーニングを兼ねて、
ボードの上で膝の曲げ伸ばしを行っています。
すると、同時に健側の筋力トレーニングも行う事になります。
片方の筋力トレーニングをすることで、
反対側の筋力も増加するという効果(クロスオーバー効果)があります。
また、一側の関節周囲筋をトレーニングするとき、
他の部位の筋肉も共同筋として使う事になり、
筋力アップにつながるという効果があります。
(3)イメージトレーニング効果
実際に、どの部分の筋肉を使っているのかという事を意識することで、
筋力アップ効果がさらにアップしてきます。
上の動画では、大腿直筋の筋力をつけるため、
マシーンを使った筋力トレーニングを行っています。
事前に、トレーニングする前に、筋肉を手で触わって、
意識を筋肉に対して向けていただいてから、運動します。
形態学的要因による筋力の増加とは?
筋力トレーニングによって、筋肉のサイズが増加します。
この場合のサイズとは、筋肉の断面積が増えるということです。
研究報告の結果では、筋力トレーニングを開始してから、筋力トレーニングを継続することで、
筋肉の肥大は右肩上がりに増加し続け、6カ月間続けることで、
運動開始当初から10%断面積が増えたという報告があります。
部位によって、筋力トレーニングの効果には違いがあります。
上肢の筋と下肢の筋では、上肢の筋の方が筋力トレーニングによる筋肉の肥大は、
より効果があるといわれています。
その理由は、下肢の筋肉は筋肉の多くが重力に抗している筋が多く、日常生活の中でいつも負荷がかかっているからです。
筋力の増加を断面積だけで考えたときには、上肢を鍛えるとすぐに効果が見られますが、
日常生活動作につなげるという意味では、
日頃から重力に抗している下肢の筋力トレーニングを行うことが重要です。