大腿骨の疲労骨折には、太ももの真ん中あたりで痛みが生じる「大腿骨骨幹部疲労骨折」や
股関節周辺で痛みが生じる「大腿骨頸部疲労骨折」があります。
今回ご紹介する「大腿骨顆上部疲労骨折」は膝周辺(膝よりやや上あたり)に痛みが生じる疲労骨折です。
大腿骨骨幹部疲労骨折に比べると、比較的まれであるといわれています。
このページでは、実際の症例をご覧いただきながら、大腿骨顆上部疲労骨折についてご説明していきたいと思います。
大腿骨顆上部疲労骨折で痛みを感じる部位は?
大腿骨顆上部疲労骨折では、以下の写真で示した×印の部位に痛みを訴えます。
赤×印がついた部分に押さえて痛いポイントがあります。
体重をかける動作(歩いたり、階段の上り下り)で痛みが生じ、痛みが強い場合は疼痛性跛行を呈することもあります。
しばらくスポーツを行っていなかったものが、急に激しい運動を行った場合に生じやすく、
陸上競技や、マラソンなどの長距離走を行う方に多く発生するといわれています。
なぜ大腿骨顆上部に疲労骨折がおこるのか?
大きな原因は2つあります。
1つは、以下の図で示すように、骨の形状にあります。
解剖学的に、大腿骨顆上部が前弯の最も強い部分に近く、荷重線に対して前方に位置しているため、
ストレスが集中しやすいことが原因とされています。
2つめは、以下の図で示すように、筋肉の作用にあります。
大腿骨顆上部には内転筋、腓腹筋が付着しており、スポーツによる繰り返される牽引力に加え、
筋疲労によるそれぞれの筋の力作用に不均衡が生じることが原因とされています。
大腿骨顆上部疲労骨折の治療
治療は基本的にスポーツの中止などによる、保存療法で骨折部は治ります。
スポーツ中止期間は、2ヶ月が一つの目安になりますが、
定期的なレントゲン画像と、臨床症状を見ることが大切です。
症状を確認する方法としては、押さえて痛みがあるかどうかということや、
患側での片足ジャンプなどで痛みがないかどうかを判断基準にすると良いかと思います。
レントゲンで、はっきりとした骨折像や、転移が見られるものは、
手術が必要な場合がありますので、我慢してスポーツを継続することは禁物です。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
〜症例1〜
13歳の男性です。
右膝上部の痛みを訴えて来院されました。
陸上部に所属しており、1週間前より右膝上部に痛みが出現したそうです。
既往歴として、他のけがで5ヶ月間スポーツを中止しており、2週間前よりランニングを再開したばかりでした。
こちらの写真は、初診時の外観です。
赤色×印で示した部分が、押さえていたい場所です。
こちらのレントゲン画像は、初診時のものです。
痛みを訴えている部位を両側比べても、特に骨の異常が見られなかったのですが、痛くて走れないということでしたので、スポーツ中止をしてもらいました。
1週間後のレントゲン画像でも、特に異常は見られず、3週間経過しても、大きな症状の改善が見られなかったため、大腿骨顆上部の疲労骨折を疑い、再度レントゲン検査を行いました。
こちらの写真は、それぞれのレントゲン画像を比較したものです。
3週間後のレントゲン画像では、大腿骨大腿骨顆上部の内側に骨膜反応が認められました。
大腿骨顆上部疲労骨折であると判明したため、スポーツ中止を継続しました。
こちらのレントゲン画像は、受傷5週間後と7週間後のものです。
受傷5週間後のレントゲン画像では、赤色矢印部分に仮骨が見られたため、部活でのウオーキング、ジョギングを短い時間から許可しました。
受傷7週後のレントゲン画像では、仮骨が旺盛で、痛みも消失したため、ランニングなどスピードを徐々に上げて、競技復帰を許可しました。
運動強度を急に上げたり、トレーニング量を急に増やしたり、運動していない方が急に運動することで、大腿骨顆上部疲労骨折は生じます。
膝上部の骨の痛みなどで、走るのが困難な場合など、この疾患を疑い、
スポーツ中止をし、お近くの整形外科へ受診されることをお勧めいたします。