大腿骨頚部骨折は上の絵にもあるように、転倒の際に股関節を打って生じることの多い骨折です。
この骨折を起こして困る点は、ギプスや安静だけで治らない点で、放置しておくと歩けなくなる点です。
ほとんどの場合で、手術療法がおこなわれていて、なるべく入院期間を短くして、
なるべく早く日常生活に復帰していただくことが最重要課題です。
大腿骨頚部骨折の術後、自宅へ帰ってこられて、リハビリ先がないなどで、
お困りの場合はこのページを参考にしていただければと思います。
大腿骨頚部骨折とは、どこの骨折ですか?
下の図は、股関節を前から見たものです。
主に、大腿骨頚部骨折といわれるのは、①で示すように、骨頭と大腿骨の骨間部にあるくびれたような所です。
股関節を打つと、高齢者にみられる骨粗鬆症が災いして、力学的に脆弱となった頚部で骨折が生じてしまいます。
他にも多い、高齢者の骨折として、②の大腿骨転子間骨折があります。
①と②の骨折は、いずれも手術療法を必要とする骨折ですが、
①の場合は、人工関節に置き換えてしまうという場合が多く、
②の場合は、プレートやねじで固定する手術がおこなわれる場合があります。
上の写真は、大腿骨頚部骨折の方の手術後のレントゲン写真です。
左端の写真の術式は、骨折した大腿骨頚部に釘(ハンソンピン)を用いて折れた骨同士をつけています。
手術侵襲が少なくて、筋肉や関節の可動域の回復が早いことが特徴です。
真ん中の写真と右端の写真は、人工物に置換する手術を行っていますが、骨頭の部分だけを変える手術と、股関節全部を変える手術の違いがあります。
いずれの手術も、手術後は早期のリハビリを行い、歩行能力を早期に獲得することがリハビリの目的になります。
大腿骨頚部骨折後に、最も問題になることは、
日常生活のかなめとなる「立ちあがる」とか、「歩く」などの動作が以前のように自由にできなくなるということです。
その結果、元の活動量にまで戻らなくなって、
自信を失って、閉じこもりがちな、後ろ向きな生活になってしまう可能性があります。
そこで、日常生活で、活動レベルの維持ができるように、積極的にリハビリしていくことが必要です。
大腿骨頚部骨折後のトレーニングはどこを鍛えればいいの?
筋肉の主な作用と、トレーニングのポイント
筋肉名 | 作用 | この筋肉が弱くなった時の特徴 | トレーニングのポイント |
---|---|---|---|
大臀筋 | 歩くときに前に推進する力を発揮する。 | 小股歩きになって、躓きやすくなる。 | 歩幅をなるべく一定にするように心がける。 |
中臀筋 | 歩くときに左右の安定性を保つ。片足立ちの際、骨盤を支える。 | 歩行時に、バランスがとりにくくなり、側方へ転倒してしまう。 | 手すりにつかまるなどしながら、片足立ちを意識する。 |
腸腰筋 | 太ももを持ち上げる。 | 膝を高く上げることができなくなる。すり足気味になる。 | その場足踏みの際、膝を心もち高くあげる。 |
大腿四頭筋 | 立ち上がりや、階段昇降の際、体重を支える。 | 椅子からの立ち上がりに時間がかかる。座る際に、どんと座ってしまう。 | 椅子からの立ち上がり練習と、座る際に、ゆっくり座る意識を持つ。 |
ハムストリングス | 膝を曲げる。足を後ろに引いて、加速をつける。 | 歩くスピードが落ちる。推進力が出ないので、後方荷重になってしまう。 | しっかり蹴りだす。前へ足を運ぶ意識で歩く。 |
大腿筋膜張筋 | 歩く際、振り出した足が外へ向かないように調節する。片足立ちの際、骨盤を安定させる。 | 膝が完全に伸ばしきれず、伸ばしきったときに外側に痛みが出る。 | なるべく膝の方向と足趾の方向が同じになるように意識を持つ。 |
大腿骨頚部骨折後、身体機能を維持するために主要となる股関節周囲の筋群を上にご紹介しました。
座ってできる運動もあります。
筋力が弱ってきたときの徴候があれば、早い目にトレーニングを始められることをお勧めいたします。
トレーニングの実際
スクワットエクササイズ
手すりにつかまって、立ちあがり動作を繰り返します。
後ろにいすを置いて行ってもかまいません。
自宅で簡単にできる足腰を鍛える筋トレの一つです。
レッグプレス
座ってスクワットに似たような動作を繰り返すマシーントレーニングです。
スクワットの時と比べて、腿の後ろ側の筋力を主に使う事になります。
ゆっくりと数を数えながら行う事で、体に無理なく運動ができます。
膝をまっすぐ伸ばす時に痛い場合には、軽く曲げた状態でも大丈夫です。
エアロバイク
有酸素運動として行います。
サドルの高さを調節することで、膝や股関節に体重をかけずに運動ができます。
自転車をこぐという、身近な運動なので、きっかけがつかみやすいという特徴もあります。
竹踏みエクササイズ(座位)
椅子に座ってその場足踏みをする運動です。
ただ単に足踏みをするだけでなく、竹を踏むことで足底筋の刺激にもなります。
また、つま先を上げる意識を持って行うので、
歩行時につまずきにくくなります。
ラダーエクササイズ
梯子のような道具を足元に置いて、それを跨ぐようにして歩いていきます。
意識してつま先を上げないと、つまずきますし、枠の中に足を入れていかないと黄色い敷居を踏んでしまう事になります。
なので、歩幅の維持につながります。
上の動画は、実際に大腿骨頚部骨折をされた方が、術後の運動として行っておられる物を集めました。
ご覧になって、実際にやってみようという気持ちになっていただければ嬉しいです!