股関節の疾患では、スポーツで発生するとすれば、筋腱付着部の障害が多く、
オーバーユースが原因ではなく、関節の構造そのものが原因で起こる疾患も近年研究されてきました。
そのような疾患の一つにこのページでご紹介する「大腿臼蓋インピンジメント」があります。
このページでは、この疾患の発生機序を中心にご紹介したいと思います。
股関節の構造
上の図は右の股関節を前から見た図です。
股関節は大腿骨頭と骨盤の寛骨臼で形成されますが、今回のFAIで問題になってくるのは大腿骨頚部と寛骨臼の関係です。
股関節の安定性を得るためには、寛骨臼という受け皿の中に大腿骨頭がうまくおさまっていないといけません。
上の図は股関節の断面図です。
寛骨臼の周囲には、より股関節を安定させるために軟骨の組織が存在します。
それを関節唇と言います。
関節唇が存在することで、関節軟骨どうしがしっかりと引き寄せられ、関節の安定性が高まります。
また、股関節を動かしたときに、大腿骨頭が寛骨臼が収まって、軸がぶれることなく股関節をスムーズに動かすことができます。
FAIって何でしょうか?
上の図は、正常な股関節と比べた形態異常のある股関節を示した図です。
FAIはこの形態異常が発生の原因であるとされています。
その形態異常には、寛骨臼側の形態異常とされる「ピンサータイプ」と、
大腿骨頚部側の形態異常とされる「カムタイプ」の二つが存在します。
ピンサータイプは、臼蓋が被覆が過剰な場合に多く関節唇が挟まれたり、
寛骨臼の辺縁と大腿骨頚部がインピンジすることで軟骨の損傷が起こります。
カムタイプは大腿骨頚部が張り出しているため、臼蓋と衝突して軟骨損傷が起こります。
この二つのタイプがそれぞれ進行していくと、2つのタイプを併せ持った状態に変化していきます。
FAIが生じるとどんな影響が生じるのか?
股関節にみられる関節症は主に以下の図のような過程を経て生じると考えられています。
先に述べたFAIという大腿骨頚部側と臼蓋側の形態異常によって、
下の左の図のように股関節運動中に繰り返し衝突動作(インピンジメント)が起こる事で、
臼蓋縁の関節唇および軟骨に損傷が生じます。
将来的に変形性股関節症に移行する可能性があると言われています。
一方で、上の図の右図のような臼蓋形成不全に伴う関節唇損傷は、
臼蓋が浅いので、それを補おうとする関節唇や軟骨に圧力がかかるため、
その結果、関節唇損傷が生じ、やがて関節症へ移行する過程もあります。
このように変形性股関節症に至る原因には、上記2つの過程があると言われています。
FAIによる臨床症状
FAIにより繰り返される衝突(インピンジメント)が起こると、
股関節の前方部分(鼠径部)や大腿外側部、坐骨部に痛みを感じます。
長時間座っていると、痛みが強くなったり、乗用車の乗降時、足を組む際の瞬間的な痛みなどが特徴的な訴えといわれています。
また、股関節の可動域制限も見られ、痛みが強い例では、痛みのために歩き方がおかしくなる場合もあります。
FAIのレントゲン画像
正常なレントゲン画像
この写真は正常な股関節です。
左の青い矢印が示している大腿骨頚部と丸印の部分が示している臼蓋に注目してください。
カムタイプのレントゲン画像
カムタイプの場合は正常なレントゲン画像に比べて、赤色矢印が示す大腿骨頚部のくびれが無くなっているように見えます。
これは、いわゆる「ピストルグリップ変形」といわれており、この画像はカムタイプの典型的なレントゲン画像です。
ピンサータイプのレントゲン画像
ピンサータイプのレントゲン画像は正常なレントゲン画像に比べて、赤色矢印でしめした臼蓋が大腿骨頭を多く覆っているのが見られるのが特徴です。
こちらのレントゲン画像は大腿骨頚部のくびれが消失しているカムタイプの特徴も見受けられます。
このようにピンサータイプとカムタイプが混合している場合もあります。
MRI画像からわかる事
こちらのMRI画像は股関節の正面の画像です。
MRIの検査では、なかなか股関節唇がきれいに描出されない場合もあります。
しかし、左右の股関節を比べてみると、左側の股関節の赤矢印で示した部分に水がたまっていることがわかります。
以上のことから、左の股関節に何らかの異常があるということがわかります。
そこで、股関節唇に焦点を絞ってMRI撮影をおこなうと、赤丸矢印で示した関節唇がはっきりと見え、このようにして、関節唇の損傷を疑います。
以上のようにFAIを疑い、理学所見と画像所見を踏まえて股関節でどのような病態があるのかは
整形外科診療所で十分に診ることができます。
しかし、股関節唇損傷がどの程度なのか、他に損傷している所があるのか否かなど、
より詳細な情報を得るには、専門医のいる病院で精査し、
治療の方向性を見出す必要性があると思われます。
ですので、まずは、激しい股関節痛によってスポーツができないとか、
仕事ができないなどの支障がある場合には、
整形外科を受診されることをお勧めいたします。