指神経麻痺(ししんけいまひ)

指先がしびれるという症状が気になって外来へ来られる方は多いのですが、
なかには、「自分は脳梗塞の初期症状ではないか?」とか、
「指先がこの後不自由になるのではないか?」などという心配で来院される方がおられます。

しかし、実際に診察してみて、原因を突き止めると、
「なるほど、こういうことだったのか!」と御納得いただき、
帰って行かれる方を良く見かけます。

その疾患の多くは、今回のテーマである「指神経麻痺」であることが多いのです。

では、「指神経麻痺」とはどういった疾患であるのかということを御説明したいと思います。

下の左の絵で緑になっている部分が「指神経麻痺」が良く出るところです。
この絵では親指ですが、他の指に出ることもあります。

写真は、実際の患者さんの手です。

写真で斜線が入っている部分がしびれています。

また、×印が付いている部分は叩くと強く指先が響くポイントです。

では、どうしてこのようなところがしびれるようになったのかと、
日常生活についてお伺いしてみると、
この方はボーリングのコーチをしておられて、
週3回40年間ボーリングをしておられたそうです。

ボーリングの指を入れる穴が指の神経を圧迫して、
それが原因で指先がしびれていたのだとわかりました。

どのようにして神経が圧迫されているのかを示したのが下の図です。

母指には指の腹の感覚を担当する神経が2本枝分かれして走っています。

これを「指神経」といいます。

×印の部分で指神経が刺激を受け続け、感覚障害が出てきたのだと考えられます。

この指神経は皮膚表面の感覚をつかさどる神経なので、
指の動き悪くなったり、筋肉が痩せて来るなどの問題は起こりません。

先ほどの例は、親指のしびれがあったのですが、他の指でも起こりえます。

指神経は手首の方からきた神経から枝分かれして、
それぞれの指の両端を走っていきます。

先ほど述べたように、この神経は感覚をつかさどる神経なので、
症状としては指先がしびれるだけです。

もしも、物がつまみにくいとか、

手首を良く使う動作でしびれが増強するという場合には、

他の神経の疾患を疑います。

では、以下で実際の患者さんの事例を御紹介します。

〜症例1〜

21歳の女性です。

右手の親指の先がしびれるということで来院されました。

しびれる場所は親指の斜線が入った部分だけで、

特に指が動かしにくくなるとか、

力が入らなくなるということはありませんでした。

親指の部分を詳しく見ると、×印の部分で軽くたたくだけで、

斜線部分のしびれ感が強くなることがわかりました。

原因は何なのかということを問診でいろいろたずねて行くと・・・・。

じつは、来院される数日前から、天神祭りでお囃子の竹をならす練習をしておられたそうです。

どういった動作でするのかを再現していただいたのがこちらの写真です。

すると、竹の角で指神経が圧迫されていたのがわかりました。

竹が当たって指神経を圧迫しているのが原因だということがわかり、納得してお帰りになりました。

〜症例2〜

57歳の女性です。

左の人指し指の痛みを訴えて来院されました。

3日ほど前から、人差し指の先だけがはっきりとしびれ出し、

痛みも強くなったので、気になって来院されました。

こういった指のしびれ感を自覚するのは今回が初めてだそうで、

指の動かしにくさや、朝のこわばりなどの症状はありませんでした。

最近どういった事をされたのかを問診でお伺いすると、

食器の汚れがひどかったので、いつもより時間をかけて左手で強く押さえつけて洗っていたら、

しびれ出してきたそうです 。

写真の×印のところで食器を押さえていたのが原因だとわかり、納得してお帰りになりました。

〜症例3〜

14歳の女性です。

1週間前から、左の中指がしびれはじめたため、気になって来院されました。

手のひら側から状態を確認すると、
中指の真ん中あたりにタコのように皮膚が硬くなって腫れているのがわかりました。

また、×印のところを叩くと、斜線部分の指先がしびれることがわかりました。

問診で、どうされていたのか詳しく尋ねてみると・・・。

彼女は吹奏楽部で、夏休みになり、

1週間前からトロンボーンを毎日9時間練習していることがわかりました。

楽器を持つ動作を再現してみると、左の中指が楽器に当たって いることがわかりました。

これが原因だったということがわかり、納得してお帰りになりました。

〜症例4〜

54歳の女性です。

右の中指の先がしびれるということで、来院されました。

1か月前よりしびれ出したそうで、お仕事はデスクワークです。

御本人は、この指先がしびれるという症状から、
脳梗塞ではないかと心配され、来院されました。

しかし、診察では指先に力が入らないとか、
物をつまむ細かい動作がしづらいなどの所見はありませんでした。

×印の部分あたりを叩くと、指先の斜線部分がしびれるということがわかりました。

問診で原因を探してみると・・・・。

デスクワークでペンを持つ動作が多くて、しかも強くペンを持つ癖があるそうです。

実際にペンを持っていただくと、×印の部分にペンが当たっていることが確認できました。

ですので、指先のしびれの原因は、ペンによる指神経の圧迫だったのだとわかりました。

原因がわかり、納得してお帰りになりました。

〜症例5〜

35歳の女性です。

右の親指の先がしびれるということで来院されました。

2週間前から痛みが強くなって、親指の付け根あたりを押さえるとしびれが増強するそうです。

問診で原因をつきとめてみると・・・。

この方は病院で栄養士をしておられて、

2週間前から書く作業が多くなり、

それ以来、指がしびれ始めたそうです。

実際にペンを持っていただくと、

上の写真の×印のところに強く力をかけて書いておられることがわかりました。

ということで、この方も、原因がわかり、納得してお帰りになりました。

〜症例6〜

50歳の女性です。

右手親指の先がしびれるということで、来院されました。

5日前よりしびれ始めて、×印の部分を押さえると、しびれ感が増強するということでした。

原因はどういったことか、問診してみると・・・。

この方はバトミントンを週に3日、2時間ずつ行っておられました。

ラケットを持つ際に、ラケットの持ち手(6角形)の角が、×印のところに当たるということがわかりました。

ということで、この方も原因がわかり、納得してお帰りになりました。

指先がしびれるという訴えがあって、
検査をしても、重大な疾患がない場合、
日常生活から、その原因となることを突き詰めていくことが大切です。

問診で、日常生活を振り返ってみると、
指神経麻痺という診断ができる場合が多々あります。

指がしびれるということで、
重大な疾患であるのではと心配になり、

来院される患者さんが多いのですが、その原因がわかると、

原因を取り除くことで、しびれは徐々になくなるとわかり、安心してお帰りになります。

ですので、指先のしびれ感が心配になられた時には、
早く病院へ行かれることをお勧めします。

日常生活のちょっとした動作を変えるだけで、
しびれ感は徐々に消えていきます。

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