自転車やバイクのハンドルを握ったまま転倒した場合、
握りこんだまま親指の付け根を打ちつけて、骨折する場合があります。
このケースで、生じた手の親指の根元の方で起こる骨折を
「第一中手骨基部骨折」といいます。
中手骨は全ての手指にありますが、
どうして「第一中手骨基部骨折」が問題になるのかというと、
物を握るとか、コップを持つなどの動作のときに重要な働きをする親指の関節に関わる骨だからです。
できるだけ元の形に戻せるよう、
ギプス固定療法中に工夫をして、当院では保存療法を行っています。
では、以下で当院で行っている第一中手骨基部骨折の治療について御覧いただきたいと思います。
第一中手骨基部骨折の種類
第一中手骨基部骨折の種類には、まず関節にかかっていない骨折型は主に上の3つの種類があります。
骨折線が横に入るタイプ。骨折線が斜めに入るタイプ。子どもさんの場合に生じる骨端線部での骨折タイプがあります。
これらのタイプは、親指の付け根の関節に骨折線が至っていないので、
ギプス固定での治療で治すことができます。
関節部に骨折線が入る場合
親指の付け根の関節に骨折線が至った場合は、
手術適応になることが多いのです。
大きく分けてそのタイプは下の2つに分かれます。
Bennett骨折
骨折線が親指の付け根の関節に入り、
関節で脱臼が生じているタイプの骨折です。
Rolando骨折
骨折線が親指の付け根の関節に入り、
なおかつ、複数の骨片が存在するタイプの骨折です。
どうして手術適応になる場合が多いのかというと、
以下のような理由があります。
関節内骨折は骨がずれやすい
上の図は、Bennett骨折が生じた時のものです。
折れた第一中手骨は長母指外転筋の作用で青色矢印の方向へ引っ張られて斜め下にずれます。
また、母指内転筋の作用で青色矢印のように横に引っ張られてずれます。
骨折した部分は小さな骨片を残していて、この骨片は靭帯によって第二中手骨や他の骨としっかりとつながっています。
ですので、ずれにくい小骨片と、ずれやすい第一中手骨の間でギャップが生じ、
そのために骨折部の安定性が得られにくいということになります。
第一中手骨基部骨折の徒手整復方法
上の図にあるように、第一中手骨を外側から圧迫し、押さえこむのがポイントになります。
また、中手骨の反対側から支持をして、この押さえこむ力に対する抗力をかけます。
上の図では、Bennett骨折をモデルにしていますが、基本的に整復操作はどの骨折でも同じです。
さらに当院では、母指に持続的な牽引力をかけて、
第一中手骨を愛護的に元の位置に戻すことで、第一中手骨基部骨折を治療しています。
以下で、当院の治療について御覧いただきたいと思います。
フィンガートラップ牽引整復法
まず、フィンガートラップという
針金のような素材でできた指キャップを親指の先に付け、
上から牽引します。
患者さんはベットに横になった状態で牽引しますので、
余計な力がかからず、楽に骨折部分の骨をもとに戻すことができます。
約10分から15分この状態を保持して、
そのままの状態で徒手整復に移ります。
赤矢印で示した牽引力はそのままにして、
緑矢印で示した3点で支持をします。
骨折部分はやや外側から圧迫をすることになるのですが、
反対側から抗力をかけることで、骨折部分が元の位置に戻ります。
徒手整復後、下の写真のようにギプス固定します。
ギプスを正面肩見た写真
ギプスを横から見た写真
整復前のレントゲン写真
整復後のレントゲン写真
フィンガートラップ牽引法で骨が元の位置に戻っていることがお分かりいただけると思います。
ギプス固定期間は約4~5週間です。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
23歳の男性です。
バイクに乗って通勤途中、交差点を横切ろうとした乗用車の
後ろドアにハンドルを握ったままぶつかって受傷されました。
赤矢印で示した左手の親指の付け根あたりに痛みがありました。
別の角度から見て見ると、明らかに腫れていて、
痛みのために親指はあまり動かせませんでした。
レントゲン写真を撮ってみると、
第一中手骨の基部に骨折が見られました。
(赤丸で囲んだ部分です。)
別の角度からレントゲンを撮ってみると、
骨折部は不安定で、骨がずれていました。
そこで、徒手整復を行い、その後、ギプス固定しました。
ギプス固定時に赤色矢印で示した部分に圧をかけることで、
骨がまっすぐになり、元の位置に戻っていることがわかります。
別の角度から見たレントゲン写真です。
指の骨がまっすぐなライン上に乗るような形で
元に戻っていることがわかります。
ギプス固定を約4週間した後、
リハビリを行い、無事に回復されました。
17歳の男性です。
手の痛みを訴えて来院されました。
レントゲンを撮ってみると、第一中手骨基部に骨折が発見されました。
徒手整復を行った後、赤矢印の部分に圧をかけながら、
ギプス固定を行いました。
圧をかけて3点で支持を行うことで、
骨が元の位置に戻ってまっすぐになっていることがわかります。
ギプス固定の外観です。
赤矢印のところに圧をかけた状態でギプスを巻いています。
ギプスの矢印で示した部分がへこんでいることがわかります。
約4週間のギプス固定を行った後、撮ったレントゲン写真です。
骨折部分が治っていることがわかります。
指を使うことを許可して、リハビリに入っていただきました。
受傷から6週間後のレントゲン写真です。
良いほうの右手の骨と比べて見ても、
ほぼ変わりないくらい骨折部分がきれいに治っていることがわかります。
この時点で、しっかり治ったことを確認して、
通院終了となりました。
転倒により、左手の親指を強く打って受傷され来院された女性です。
近くの病院で麻酔をせずに徒手整復手技をして、
ギプス固定の処置を受けられましたが、
ギプスの中で再びすれてきたために、
心配になって当院を受診されました。
レントゲンを撮ってみると、
赤丸印で囲んだ第一中手骨基部がずれていることがわかります。
別の角度から見て見ると、
ギプスをした状態の中で、第一中手骨基部(赤丸印で囲んだ部分)がすれていることがはっきりと見えました。
当院で再び徒手整復を行い、ギプス固定をしました。
赤矢印の部分に圧をかけて、3点で支持固定しています。
整復によって骨が元の状態に戻っていることが確認できます。
当院でギプスを巻き直してから約1ヶ月後のレントゲン写真です。
骨折部がきれいに治っていることがわかります。
この時点でギプス固定を解除し、リハビリを開始しました。
その後の経過も良く、問題なく日常生活を過ごされています。
67歳の女性です。
前日、夜に自転車で走行中にハンドルを握ったまま転倒し、
受傷されました。
来院された時のレントゲン写真で、
赤丸印のところにある第一中手骨基部の斜骨折を認めました。
徒手整復を行ってギプス固定を行いました。
赤丸印の中に見られるように、
骨が元の位置に戻っていることが確認できました。
しかし、初診から10日経過した時点で、
ギプスの緩みが生じるとともに、
骨折部がずれてきていることがわかりました。
そこで、初診時から10日たっていることもあって、
骨折部に余計なストレスをかけないように
フィンガートラップ牽引法を用いて愛護的に牽引しながら
再び徒手整復を行いました。
フィンガートラップ牽引法を用いて徒手整復を行った後のレントゲンです。
骨が以前よりも良い位置に保たれていることが確認できました。
初診から約4週間後のレントゲン写真です。
若干、骨折部分は骨が短縮していましたが、
骨癒合は得られていました。
その後のリハビリも経過は順調に進みました。
その後、指の動きも問題なく通院終了になりました。
18歳の男性です。
転倒し、左親指の付け根の痛みを訴えて来院されました。
レントゲンを撮ってみると、Bennett骨折でした。
まずは、徒手整復を行って、
どこまで元の位置まで戻せるかということを試みました。
ところが、徒手整復した直後のレントゲン写真は左のように
完全には元に戻っていませんでした。
ギプス固定で、骨折部もある程度安定しているので、
その後、経過を見ることにしました。
数日後、再びレントゲンを撮ったところ、
骨のずれが初診時と変わらない状態であったので、
手術療法に切り替えました。
手術後のレントゲン写真です。
まずは、徒手整復を行って骨を元の位置に戻した後、
鋼線で骨を固定する手術を行って、その後ギプスで固定を行いました。
手術後の写真です。
親指はギプスでしっかり固定されていますが、
他の指は、できるだけ動かせるようにギプスを切ってあります。
親指は鋼線で固定してあるので、
リハビリでは早期から他の指や腕などを動かしていきます。
初診から約6週間後のレントゲン写真です。
鋼線を抜いて、その後も経過は良好で、
完全に骨が癒合していることが確認できました。
この時点でリハビリも終了して、通院の必要もなくなりました。
第一中手骨の基部はいろんな折れ方のタイプがありますが、
多くの場合、ギプス固定療法でなおります。
しかし、中には骨折部がずれて変形してしまい、後に関節に影響を及ぼすような関節内骨折の場合もあります。
親指の付け根は日常生活でもよく使う場所です。
なるべく早く受診をしていただいて、適切な方法で治療を行い、
しっかりと治していただきたいと思います。