「第一肋骨疲労骨折」はスポーツ活動をされている中・高校生にみられる疾患で、背中の痛みが主訴であることが多いので、診断がつきにくい疾患です。
肩や肩甲背部の痛みは、頚椎部が原因である場合が多いのですが、
レントゲンを撮影しても異常がないと言われる場合があります。
それでもなお、痛みが続く場合には、稀ではありますが、肋骨部での疲労骨折も原因としてあげられます。
そこで、このページでは、「第一肋骨疲労骨折」についてご説明します。
第一肋骨周辺の構造
第一肋骨周辺は、いくつかの筋群が頚椎や肩甲骨と連携をしています。
①の図は、第一肋骨に付着する筋群を示しています。
頚椎から第一肋骨の前方に「前斜角筋」が付着し、同じく第一肋骨の中央付近に「中斜角筋」が付着しています。
②の図は、胸郭を横からみたものです。
第一肋骨から第九肋骨の中間から後方にかけて「前鋸筋」が付着しています。
例えば、サッカーのヘディングのような動作が繰り返し続いた場合には、第一肋骨に負担がかかります。
どうして第一肋骨に骨折が生じるのか?
上の図は、第一肋骨疲労骨折の発生機序を示したものです。
前斜角筋は後上方に、中斜角筋は内上方に第一肋骨を挙上しようとします。
一方、前鋸筋は第一肋骨側面から後外側に、肋間筋は下方に向かうように作用します。
これらの筋肉による作用が、元から第一肋骨の弱いとされる部分にストレスがかかり、疲労骨折が発生すると言われています。
また、姿勢に関する要因もあります。
上の写真は、第一肋骨疲労骨折と診断された方の外観写真です。
本骨折の発生要因の1つとして、なで肩体型や猫背姿勢があります。これは、斜角筋の牽引するベクトルが大きくなる姿勢であるとされ、こういった姿勢に加え、第一肋骨に過負荷がかかると、疲労骨折が発症すると考えられています。
でも、なぜ背中の痛みになるの?
第一肋骨疲労骨折では、肩甲背部の痛みを訴えておられる方がほとんどです。
では、なぜ胸側にある肋骨の病変が、背中の痛みとして出るのでしょうか?
上の図は、第一肋骨周辺の解剖図で、主に神経の走行を示したものです。
頸椎から枝分かれして存在する、頚神経の中でも「第8頚神経」と「第1胸神経」は肩甲背部を支配領域としています。
それらの神経は、第一肋骨と接しており、骨折部が刺激となって神経を介して肩甲背部への関連痛が生じると言われています。
これが、第一肋骨疲労骨折の痛みが肩甲背部に発症する理由であると考えられています。
疲労骨折を起こさないための予防法
第一肋骨疲労骨折は、斜角筋の付着部周辺で発生していますので、筋肉をストレッチすることが大切です。
また、胸郭ならびに肩甲骨周囲の柔軟性を獲得して、姿勢に注意をすることも必要です。
以下に、ストレッチの方法を示しますので参考にしてみてください。
上の写真は、斜角筋のストレッチを表しています。
まず、ストレッチをかけたい側の反対側の手で頚部を傾けます。
前斜角筋は、頚部を傾けた位置から顎を上げます。
中斜角筋は、そのまま頚部を傾けたままにします。
後斜角筋は、頚部を傾けた位置から顎を引きます。
それぞれの姿勢で、10秒ほどストレッチをかけます。
上の写真は、肩甲骨のエクササイズを行なっている場面です。
まず、背筋を伸ばして姿勢を良くします。(黄色の点線)
次に、肩甲骨を引き上げるようにゆっくり肩を挙上します。(赤矢印の方向)
この時に、腕や頚部に力が入らないように注意しましょう。
挙上した後は、ゆっくり肩を下ろします。
このエクササイズは、10回を目安に行います。
上の写真は、胸郭を広げるためのストレッチをしている場面です。
背筋を伸ばして、座位姿勢をとった後、
胸を前に突き出すようにします。(赤矢印の方向)
息をこらえないように、吸いながら行うとで
胸郭が広がりやすくなります。(赤の点線)
さらに、ストレッチ効果を高めるために、
ストレッチポールを用いて行うのも良いです。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
12歳の女性です。
右肩甲部の痛みを訴えて来院されました。約1ヶ月前より、右肩の運動時痛が生じ、2週間前からは、胸背部の痛みも現れてきました。
この方は、テニス部に所属しており、部活動はできていましたが、笑うと痛みが増強します。
肩関節のレントゲン写真では、異常所見は認めませんでした。
しかし、痛みのある箇所とは異なる胸郭周辺のレントゲン写真を確認すると、第一肋骨に骨折線を認めました。(赤矢印の部分)
さらに、患部の状態を確認するためにMRIを撮影しました。
骨折部と思われる部分に、輝度変化を認めたので、新鮮骨折であると判断しました。
さらに、CT撮影を行いました。
第一肋骨内側から斜めに骨折線が入っているのがわかります。
別の角度から見ても、骨折線は明らかでした。
治療としては、重たいリュックをかけることを避けたり、痛みを誘発する動作をしないようにしていただくことをお伝えしました。
左の写真は、初診から3週間が経過した時点のレントゲン写真です。
仮骨形成がみられ、日常生活上も痛みはありませんでした。
左の写真は、初診から6週間が経過した時点のレントゲン写真です。
前回の画像と比べて、より仮骨が明瞭になっていました。
今回ご紹介した、「第一肋骨疲労骨折」は非常に稀な骨折です。
本骨折は、スポーツ活動を熱心に行なっている中学生ならびに、高校生に発症することがあります。そこで肩甲背部痛を訴える方に対しては、本骨折も念頭におく必要があると思われます。
頚椎由来の症状がなく、肩甲背部痛が続いている方は、この骨折を疑ってお近くの整形外科を受診してみてください。