足根管症候群(そくこんかんしょうこうぐん)

足の裏がしびれる原因の一つに「足根管症候群」と呼ばれる疾患があります。

これは手でいうところの手根管症候群に似ていて、足にあるトンネルの中を通る神経が圧迫されて起きる疾患です。

手根管症候群ほど良く聞かれる疾患ではありませんが、
坐骨神経痛や、足の血流障害と思われていた足のしびれが、
良く調べて見ると足根管症候群であったということがあります。

このページでは、足根管症候群がどのような疾患かということを御紹介し、
症例についても御覧いただきたいと思います。

足根管症候群が起こる場所

上の図は足の内側を見た図です。

下腿の方から足の方へ向って下りてきた後脛骨神経は、足の内くるぶしの付近で枝分かれをして、足の裏の感覚をつかさどります。

内くるぶし付近では、足根管というトンネルが存在して、後脛骨神経がその中を通ります。

そこで圧迫を受けると、足の裏がしびれるというのが足根管症候群の原因です。

上の図は、足根管の構造を示したものです。

後脛骨神経は内くるぶしの後ろを通ります。

その内くるぶしと、踵骨をまたぐ屈筋支帯と呼ばれるバンドの中を後脛骨神経が通ります。

その屈筋支帯と骨との間で構成されたトンネルを「足根管」といいます。

足根管の中は、足の指を曲げる腱や、足を内側に動かす筋肉の腱が存在します(水色の部分)。

また、動脈や静脈も後脛骨神経の傍を走っています。

何らかの原因で足根管の中が窮屈となり、後脛骨神経が圧迫されるようなことが起こると、
足の裏がしびれるという症状が起こります。

これを「足根管症候群」といいます。

上の図は、足の裏の感覚を司る神経の支配域を表したものです。

全て、後脛骨神経からの枝分かれした神経です。

それぞれ担当する領域が違って、内側足底神経は主に足の裏の親指側、外側足底神経は小指側、
また踵周辺は内側踵枝が担当しています。

足根管部分でも、圧迫される場所によって、しびれる領域が多少違います。

また、足根管とは違う場所で圧迫が起こっていた場合でも、しびれる範囲が変わってきます。

圧迫されている場所が、どこなのか、この神経領域の範囲で、おおよその見当がつきます。

上の写真は、足根管症候群の患者さんの実際の写真です。

絞扼部位を軽くたたくと、その響き渡った刺激は、しびれる範囲に強くひびきます。

この所見をTinel Signといいます。

しびれる範囲が主に内側足底神経の領域であったことから、原因となる部位は足根管部分と考えました。

では以下で、実際の患者さんについて御覧いただきたいと思います。

〜症例1〜

69歳の男性です。

3か月前、ゴルフに行ってから右側足底に痺れが出現したそうです。

近隣の整形外科を数件受診されたそうですが、腰からくる痺れだといわれたそうです。

しかし、ご自身で色々調べられた結果、足根管症候群ではないかという事で、当院を受診されました。

こちらの写真は、初診時のものです。

赤色矢印の部分を叩くと、足先に痺れが強く出るそうです。

足裏の母趾側の黒く囲んだ所の感覚で知覚低下が認められました。

こちらの外観写真は、初診時のものです。

両方の足裏を比べてみると、右足の赤色矢印で示した母趾外転筋の筋委縮が認められました。 

足趾を広げてもらうように、お願いしたところ、左足はちゃんと開きますが、右足は開くことができませんでした。

https://youtu.be/1aWLrbfOdA4

こちらの動画は、実際に足趾を実際に広げている所です。

左では容易に足趾を広げていますが、右足では足趾を全く開くことができないことがわかります。 

こちらのエコー画像は、初診時のものです。

足根管部分を観察するため、エコー検査を行ったところ、ガングリオンが脛骨神経を圧迫している像が認められました。

以上のことから、ガングリオンが原因である足根管症候群とわかり、ガングリオンを穿刺して、神経の圧迫を取り除く処置を行いました。

こちらのエコー画像は、穿刺から3日後のものです。

ガングリオンは消失しており、脛骨神経の圧迫は無くなっており、痺れも少しずつ改善してきているとのことでした。

〜症例2〜

43歳の男性です。

左足底のしびれを訴えて、来院されました。

1か月前より、左足底のしびれが出現し、歩くと痺れが強く出るそうです。

赤色矢印で示した左足関節の内果部に触れると、痺れが増悪するそうです。

こちらの外観写真は初診時のものです。

足底の斜線部分の所に痺れを訴えておられました。

また、知覚低下も生じていました。 

こちらのレントゲンは、初診時のものです。

レントゲン画像では、骨がくっついている足根骨癒合症などは認められませんでした。 

こちらの写真は初診時のエコー画像です。

触れると痺れが増悪するといっていた部分をエコー検査してみると、ガングリオンが脛骨神経を圧迫していることがわかりました。

このことから、ガングリオンが原因の、足根管症候群であることがわかりました。

処置としては、ガングリオンを穿刺しました。

こちらの写真は、穿刺約1ヶ月後のエコー画像です。

初診時の画像と比較してガングリオンが小さくなっており、脛骨神経は圧迫されていないことがわかります。 

知覚低下の範囲は初診時に比べ、小さくなっており、歩いても痺れが強く出ることがなくなったそうです。 

〜症例3〜

60代の男性です。

左足の内側がしびれるということで来院されました。 

仕事上、トラックの運転をしなければならず、クラッチを踏んだときに痛むのが困るとのことでした。

×印を付けた部分に押さえると腫瘤があり、痛みもありました。

しびれる領域を確認すると、足の親指から足底の約半分のところがしびれていたということから、足根管にあるガングリオンが原因で神経が圧迫されていたのが原因で、足の裏がしびれていたのだとわかりました。

治療としては、注射によってガングリオンをつぶす処置をしました。 

すると、翌日には痛みとしびれが軽快し始め、2ヶ月後には、ガングリオンが消失したことも確認でき、4ヶ月後に来院された時には、痛みとしびれが消失していました。 

〜症例4〜

70代の女性です。

左足の裏がしびれるということで来院されました。

1か月前からしびれ感が強くなり、歩くと左足全体が突っ張り、長く歩けないという訴えもありました。

間欠性跛行もあり、腰痛もあることなどから、腰部脊柱管狭窄症も疑いました。

しかし、しびれる範囲や、足首周辺の所見をとってみると、Tinel Signもあり、足の裏のしびれる領域を詳しく見た結果、足根管症候群と考えました。  

エコーでガングリオンの存在を確認してみたところ、足根管周辺にはガングリオンはありませんでした。

しかし、この方には、静脈瘤が認められ、エコーでそれを確認できました。
(赤色矢印の部分)

ですので、足根管症候群になった原因は静脈瘤であると考え、外科的手術はしない方針で経過を見ることとしました。 

〜症例5〜

60代の女性です。

左足の裏の外側がしびれるということで来院されました。

約2週間前から足がビリビリとしびれ、朝気がつくと足の裏の外側だけがしびれていたそうです。 

お仕事は清掃業で、しゃがんだり歩いて移動などが多いので、痛みが強くてたまらないので仕事上困るとのことでした。

×印のところに腫れと、Tinel Signがありました。

しびれる領域を確認してみると、こちらの写真の斜線部分のようでした。

このことから、足根管部での神経の圧迫が原因で、足底のしびれが生じたと考えました。 

しびれる領域を確認してみると、こちらの写真の斜線部分のようでした。

このことから、足根管部での神経の圧迫が原因で、足底のしびれが生じたと考えました。 

エコーを撮ってみると、足根管部にガングリオンと思われる画像が確認できました。

治療としては、局所の麻酔薬の注射を行い、痛みを和らげると同時に、ガングリオンをつぶすような処置を行いました。

そして経過をみることとしました。

その後、経過は良好でした。 

〜症例6〜

61歳の男性です。

左足裏の内側のしびれを訴えて来院されました。

約3か月前よりしびれ感が生じ始め、歩くと痛みが増強し、夜中にも痛みが生じるということがありました。

こちらの写真のように、足関節の内側付近に軽い腫れと、×印のところに、Tinel Signがありました。

感覚が低下していた領域は、足の親指から土踏まずのあたりだったので、足根管症候群ではないかと考えました。

エコーを撮ってみると、足根管部に明らかなガングリオンの画像を認めました。

このように、足の痺れ感を訴える原因は足根管部でのガングリオンによって、内側足底神経が圧迫を受けていたのだと判明しました。

〜症例7〜

20代の男性です。

左足底の痺れ感と痛みを訴えて来院されました。

約半年前から、外傷もなく痺れ感が出てきたそうです。

歩くと痛みが生じ、趣味でしておられるバスケットボールのプレーで、走れない場面もでてきたとのことでした。

左右の足を比べてみると、患側の左足の母趾外転筋がやや萎縮しているのがわかります(赤矢印の部分)。

こちらの写真のように、足の内くるぶしの部分(×印の部分)を叩くと、足底の内側に放散痛が生じます(斜線が入った部分)。

詳しくお話を伺うと、約1か月前から内くるぶしの付近に、腫瘤ができていることに気がついたそうです。

そこで、腫瘤をエコー検査してみたところ、内くるぶしのそばに、ガングリオンの存在が確認できました。

そのガングリオンのある場所は、上の写真で示した×印の部分とちょうど一致しました。

このことから、ガングリオンが原因で足根管内を走る内側足底神経が圧迫されて、痺れ感が生じているのだとわかりました。

足根管症候群以外の疾患がないか、レントゲンを撮影して確認しました。

確認したところ、変形性関節症や、距踵関節癒合症なども見られず、原因となるものはガングリオン以外に考えられないとわかりました。

そこで、ガングリオンを穿刺して、小さくする処置を行いました。

こちらの写真は穿刺後約1ヵ月半のものです。

痺れ感の生じている範囲は、以前に比べて縮小していました(斜線の部分)。

また、萎縮していた母趾外転筋も、徐々に回復してきていました(赤色矢印の部分)。 

母趾を外側に開くような動作でも、改善がみられて、ご本人も、足に力が入りやすくなったと実感しておられました。 

また、足底内側に存在する筋肉の萎縮も軽快しつつありました。

こちらの写真のように、母趾の屈曲力も回復してきました。 

エコー検査でも、以前に比べて、ガングリオンの大きさが小さくなっていました。

以前は痛みがあったのですが、現在は痛みもないとのことでした。

穿刺から2ヶ月後の写真です。

母趾外転筋の萎縮はまだ少し残っていますが、以前ほど力が入りにくくはないそうです。

また、痺れ感の生じている範囲も母趾と2趾、3趾の先だけになりました。

このように、日を追うごとに痺れ感の範囲は狭まって行きました。

穿刺から4ヶ月後の写真です。

以前、萎縮していた母趾外転筋も徐々に改善してきました。

ご本人も、走りやすくなったとおっしゃっていました。 

別の角度から見てみると、筋肉のレリーフがはっきりとしてきて、徐々に回復していることがわかります。

エコーを撮ると、ガングリオンは消失していました。

このように、穿刺をしてから約4カ月で、症状が改善して、治療も終了となりました。 

症例で御覧いただいたように、足根管症候群の原因はガングリオンによる神経の圧迫や、静脈瘤によるものが多く見られます。

中には、スポーツによって生じるものもあります。

足の裏がしびれていつまでも変わらない場合、腰椎由来の原因の場合もありますが、
足根管症候群も疑ってみてください。

またそういった場合には、早い目に整形外科を受診されることをお勧めします。

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