母趾の裏がしびれる(母趾趾神経麻痺)

足の裏がしびれる疾患には、

足根管症候群に代表される足関節周辺で神経が絞扼され足底の広い範囲でしびれ感が生じるものがあります。

しかし、母趾の裏側周辺に限定してしびれ感が生じる疾患もあります。

このページでは、靴などによる物理的圧迫が原因でおこる、

母趾の裏側周辺の「母趾趾神経麻痺」をご紹介します。

母趾裏周辺の神経の走行

足底をつかさどる神経の本幹は、下肢の後面を通り、下腿から足部にいたる脛骨神経が主となっています。

この神経は、足関節内果(内くるぶし)の後面を通り足底に向かいます。

そして、さらに枝分かれをして、母趾の裏側の感覚や、母趾の筋肉をつかさどる内側足底神経に分枝します。

内側足底神経のうち、母趾の裏の感覚を支配する神経は「固有足底趾神経」と呼ばれています。

この神経が何らかの機械的刺激を受けた時に、母趾の裏がしびれるという症状がでます。

では、どこで障害されるのでしょうか?

神経が圧迫される部位

前に述べた通り、固有足底趾神経は母趾の関節部を通り、母趾裏内側の皮膚領域を支配しています。

(上図の水色の部分)

この神経が、つま先立ちのような肢位により母趾裏で圧迫を受けると、

しびれ感や知覚鈍麻が母趾裏内側に生じます。(上図の×印の部分)

また、靴底が硬くて常に母趾裏に機械的刺激が加わりつづけることでも母趾趾神経麻痺は生じます。

では、発生する要因を詳しく説明します。

母趾趾神経麻痺が発生する要因

①靴による圧迫が原因で起こる

底の硬い革靴などを履きつづけると、

足底趾神経は、皮下に近いところを走行しているため絞扼されてしまいます。

下の写真は、右母趾のしびれ感を訴えてこられた方の外観です。

靴を履くと痛くしびれるということで、しびれ感が生じる肢位を再現していただいたところ、

蹴り出す肢位が最もしびれるということでした。

このように、靴が原因で神経が圧迫を受ける事が要因であると考えられます。

②足底板による圧迫

足部の外傷などによって、足部アーチの均衡が崩れるために、

アーチを保持する目的で作成した足底板が原因で神経が圧迫される場合が考えられます。

下の写真は、踵骨骨折の手術後、

足底のアーチを支えるために作った足底板のエッジ部分が圧迫を受ける事が要因であると考えられます。

以下で、実際に母趾趾神経麻痺と診断された方々をご紹介いたします。


症例1

57歳の女性です。

右母趾、足底側の痛みしびれを訴えて来院されました。

10日前より右母趾裏がしびれが出現したそうです。

3日前より痛みがあり、歩行時の痛みがあるとのことです。

写真が、初診時の外観です。

斜線の部分がしびれ感を訴えておられる範囲です。

今回のしびれ感の原因は、裸足での痛みは軽くて、靴を履くと痛みが増強することから、靴に由来する部分があるのではと考え、普段履いておられる靴をみせていただきました。

写真は、普段履いている靴です。

実際の靴は伸縮性が少なく、足底がゴムで硬いため×印の部分で母趾趾神経が圧迫されて、しびれ感が出現したものと考えました。

この患者さんには、靴の変更を指導しました。


症例2

47歳男性です。

右母趾のしびれを訴えて来院されました。

お仕事上、営業で毎日一万歩歩いているということで、靴を履くと痛くなり、しびれ感も増強すると訴えておられました。

写真が、初診時の外観です。

右側の母趾裏の部分にしびれ感を訴えておられました。

レントゲン写真では、母趾二分種子骨がみられますが、圧痛もなかったことから今回の症状の原因ではないと考えました。

本人の訴えに、靴を履くと痛みが生じるということから、実際にお仕事上で履いておられた靴をみせていただきました。

実際に靴を履いていただいて、痛みの出る肢位を再現していただいたところ、

蹴り出し時に母趾裏がしびれるということでした。

以上のことから、靴底がゴム製で硬くて薄い靴を履いておられる事に加え、毎日営業でよく歩いておられる事が原因と考えました。

処置としては、荷重がかかって神経が圧迫されると考えられる部位に、免荷パッドを処方しました。


症例3

62歳の女性です。

右足のしびれ感を訴えて来院されました。

約半年前に、他院で右踵骨骨折の手術を受けられて、その後はリハビリを続けておられました。

しかし、右母趾の足底側がしびれていて、回復しないために当院を受診されました。

写真のように、母趾の足底内側部分にしびれ感を認め×印の部分で圧痛がありました。

レントゲンを撮影したところ、

他院で行われた手術は踵骨の体部に数本のスクリューで固定する術式である事が分かりました。

母趾周辺に関しては、

骨性の問題は認められませんでした。

実際に痛みの生じている箇所を確認したところ、踵骨骨折後の足底アーチの低下を防止する目的で、作成した足底板のエッジが、母趾底足部に当たっている事がわかりました。

以上のことから、今回発症した母趾の痛みとしびれ感は、足底板を改善することで症状は軽減しました。

足裏のしびれ感や痛みの原因は様々ですが、今回ご紹介したように靴が原因で発症する場合も多く見られます。

母趾の裏周辺が、しびれる場合は母趾趾神経麻痺を疑ってみて靴を変えてみてはいかがでしょうか。

それでも症状の改善が見られない場合は、近隣の整形外科を受診してみてください。

PAGE TOP