Hoffa病(膝蓋下脂肪体炎)膝の曲げ伸ばしを繰り返すと 膝の前面が痛い!

Hoffa病(膝蓋下脂肪体炎)は、

あまり聞きなれない疾患名ですが、

膝の痛みの原因となりうる一つの疾患です。

膝の手術の後で、膝の動きがスムーズにいかなかったり、
膝の怪我をした後で、なかなか痛みが引かなかったりする事があります。

それらの原因の一つとして、膝蓋下脂肪体がきちんと機能していない場合があります。

このページでは膝蓋下脂肪体炎とは、どのようにして起こり、膝の痛みが発生するのかを、
実際の患者さんの例を踏まえてご紹介したいと思います。

膝蓋下脂肪体とは?

膝蓋下脂肪体は、膝蓋腱(膝蓋靭帯)の深層にある脂肪の塊です。

下の図は、膝関節を側面から見たものです。

青色部分に膝蓋下脂肪体が存在し、大腿骨、膝蓋骨、脛骨の間にあり、空間を確保しています。

膝蓋腱(膝蓋靭帯)直下にある、

表層の脂肪体は動きが少なく、

深層で膝関節の動きとともに大きく形を変化させます。

膝蓋下脂肪体は半月板や靭帯などのように膝関節の主要な構成要素ではありませんが、

内部に繊細な線維を含み、膝蓋骨の血流を仲介する主要な経路の一つであり、

重要な役割を果たしています。

膝蓋下脂肪体の役割

膝蓋骨下脂肪体は、膝関節の動きに同調し、下の図で示したように形を変えます。

膝伸展位で、脂肪体は膝蓋骨とともに引き上げられ、屈曲位で関節内に押し込められる状態となります。

関節の空間(膝蓋骨ー大腿骨ー脛骨の隙間)を確保するための器具のようなスペーサーとしてはたらき、
大腿四頭筋の生み出した力を効率的に脛骨粗面に伝達しています。

膝蓋下脂肪体の役割は、大きく分けて、5つあります。

1、外力に対するクッション  

2、表面を覆う滑膜による関節液の分泌、あるいは潤滑作用

3、関節軟骨面の清掃

4、摩擦や刺激に対する防御機構

5、膝蓋骨、あるいは膝蓋下脂肪体の血流に対するpumping action(ポンプ作用)

以上のように、膝蓋下脂肪体は膝関節にとって、大切な役割を担っています。

Hoffa病(膝蓋下脂肪体炎)はなぜ起こるの?

膝蓋下脂肪体炎は以下の図のような過程で痛みを生じるといわれています。

膝蓋下脂肪体は膝関節の外傷や、繰り返される機械的刺激が加わることで、

脂肪体自体に小出血や炎症性細胞の浸潤が生じます。

そうすることで、膝蓋下脂肪体に炎症(結合織性の増殖による腫脹)が生じ、

脂肪体の線維化が起こり、脂肪体の柔軟性が低下します。

結果として、大腿脛骨関節や、膝蓋大腿関節で脂肪体の挟み込みが生じ、痛みとして症状が出現します。

診断のポイントと症状

膝蓋下脂肪体炎の診断は、以下の写真で示すように、

膝蓋下脂肪体部の腫脹と、赤色矢印で示した部分に圧痛がみられます。

また、特徴的な所見として、下の写真で示すHoffa signを確認することで、診断の一助となります。

Hoffa signとは、

膝蓋靭帯の両側から、膝蓋下脂肪体を圧迫しながら膝90度屈曲位から伸展させ、

痛みを誘発させるテストです。

特に、膝伸展の終末期により痛みが誘発されやすいといわれています。

Hoffa病(膝蓋下脂肪体炎)のエコー画像

膝蓋下脂肪体炎はエコー検査が有用です。

エコー検査で確認できることは、

脂肪体自体が炎症(出血や浮腫による炎症性細胞の浸潤と結合織の増殖)を起こし、

脂肪体の肥厚が見られることです。

以下が、実際のエコー画像です。

緑色の矢印でし示した部分が膝蓋靭帯直下にある膝蓋下脂肪体です。

向かって左側の患側では、

赤色矢印で示した部分に炎症(小出血、または浮腫)による低エコー像が見られます。

また、膝蓋下脂肪体自体の厚みも健側と比べ患側では大きくなっていることがわかります。

以上のような、臨床症状と、エコー画像が一致していれば、膝蓋下脂肪体炎であると診断できます。

以下で実際の症例をご覧いただきたいと思います。

〜症例1〜

22歳の男性です。

左膝の痛みを訴えて、来院されました。

5日前に、バレーボールをしていて、左膝が痛くなったそうです。

2日前、急に左膝が伸びなくなったそうです。

左の写真は初診時の外観です。

赤色矢印で示した×印の部分に圧痛が認められました。

上の写真は、初診時のレントゲン画像です。

膝の正面のレントゲンや、側面のレントゲンでは、
骨には異常は認められませんでした。 

圧痛部位と、臨床症状から、膝蓋下脂肪体炎を疑い、
注射を行いました。

注射直後、痛みが消失したことから、
膝蓋下脂肪体炎による痛みであったということがわかりました。

〜症例2〜

59歳の男性です。

左膝の痛みを訴えて来院されました。

5日前、座っていて立ちあがったとき、左膝が痛くなったそうです。

それより歩行痛があり、階段の上り下りでも痛みがあるそうです。

しかし、自転車をこぐ動作では、痛みがないとのことです。

上の写真は、初診時の外観です。

赤色矢印で示した部分に圧痛が認められました。

上の写真は、初診時のレントゲン画像です。

膝の正面や側面のレントゲン画像では、
特に骨に異常は認められませんでした。 

外観で、健側と比較しても、
青色矢印で示した健側に比べて、
赤色矢印で示した患側が腫れていることがわかります。

腫脹のある部位をエコーで観察した画像が上の写真です。

健側と比較して、

患側では、膝蓋靭帯下部(膝蓋下脂肪体)の赤色矢印で示した部分に炎症性腫脹が見られます。

緑色の矢印で示しているのが脂肪体です。

脂肪体の肥厚により、健側に比べ、
患側では厚みが大きくなっていることがわかります。

圧痛部位と、エコー画像から、膝蓋下脂肪体炎と考え、
注射を行いました。
注射直後、痛みが消失したとのことでした。

Hoffa病(膝蓋下脂肪体炎)は、膝の痛みを訴える疾患です。

膝蓋下脂肪体は膝関節を動かすのに、さまざまな役割を担っています。

膝蓋下脂肪体は、膝関節周辺もしくは膝関節内に病変があり、

膝蓋下脂肪体の働きが悪くなり、痛みが発生します

ですので、膝蓋骨の下付近が痛い場合には、
膝関節内などに異常が出ていないかどうかを診てもらうために、
一度、お近くの整形外科を受診されることをお勧めいたします。

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