有鉤骨骨折・鉤骨折(野球によるてのひらの痛み!)

手関節を構成する手根骨と呼ばれる積み木のような骨の中で、
スポーツ外傷が比較的起こりやすいのが今回御紹介する有鉤骨です。

この骨は有鉤骨鉤(ゆうこうこつこう)と呼ばれる突起が存在する特殊な骨で、
その部分が折れてしまうことがよくあります。

このページでは、その骨折について御説明させていただきたいと思います。

上の図のように、手のひらの小指側(×印のところ)を押さえて痛い場合に有鉤骨鉤骨折を疑います。

右図の赤い線で囲んだ骨が有鉤骨です。

青い丸で示した部分が有鉤骨鉤と呼ばれる突起の部分です。

有鉤骨鉤というのは、上の図にあるように、
手を輪切りにしたCTの画像で見ると、
角のように骨が突起状になって突出している部分のことです。

それが、下の図のように折れてしまうことがあります。

赤い丸で囲んだ部分が有鉤骨鉤の骨折部分です。

一回の外力で折れてしまうケースもありますし、
繰り返しかかるストレスで骨折する場合もあります。

どういう場合に骨折が起こるか

上の図のように、テニスのラケットを持った際や、野球のバットを握りしめた状態で、
衝撃を手のひらに受けた場合に、この骨折が起こります。

テニスのような、繰り返しボールの衝撃やグリップエンドから受ける圧力が手のひらにかかり続けると、
疲労骨折として、この骨折が起こることがあります。

また、野球のファールチップを打った際に、
バットにボールが当たった衝撃が、手のひらのグリップエンドの当たる有鉤骨部分にかかって、この骨折が起こります。

こういったケースは、スポーツ外傷の中ではよく起こりうる外傷です。

上のCT画像は野球のバットのグリップエンドが当たってできた有鉤骨鉤骨折(赤丸で囲んだ部分)です。

繰り返しバットを振ることで、有鉤骨鉤に圧がかかっていて、
ファールチップを打つことが引き金になり、痛みが出て骨折が生じたと思われます。

治療としては、新鮮時は、癒合の可能性があるので、ギプス固定をすることもありますが、
手のひらに違和感を覚え、再発することもあるので、骨片の摘出術を選択する場合が多く見られます。

有鉤骨鉤骨折の合併症

有鉤骨鉤骨折の受傷時は患部が腫れて皮下出血もあります。

同時に、手のひらの小指側がしびれたり、小指がしっかり握れなくて握力が下がったりという現象がみられる場合があります。

これは、有鉤骨鉤が骨折した場合、その周辺を走る尺骨神経が麻痺していることによって生じている合併症です。

上の図にもあるように、肘の方から来た尺骨神経は有鉤骨鉤と豆状骨の間で構成される

尺骨神経管(Guyon管)と呼ばれるトンネルの中をくぐります。

そして、トンネルをでた尺骨神経は、小指側の感覚を司り、枝分かれした神経は親指の方にも向かって走っていきます。

ですので、この尺骨神経管付近で骨折が生じた場合、尺骨神経麻痺も起こることになります。

しかし、これは骨折が治っていくとともに徐々に改善していきます。

症状が長引くような場合は、骨折部が偽関節になっている状態か、変形性関節症に陥っている場合があるので、注意が必要です。

以下で、実際の患者さんについて御覧いただきたいと思います。

60歳の女性です。

右手のひらの痛みと腫れを訴えて来院されました。

1週間前からタオルを絞るときに痛みが生じて、
しっかりと絞り切れなくなったそうです。

明らかな外傷の既往歴はなかったのですが、
有鉤骨鉤の部分に押さえると圧痛があったので、
レントゲンで確認したところ、
有鉤骨鉤の骨折後、骨癒合せず、
偽関節になっていたことがわかりました。
(赤色矢印で示した部分。) 

別の角度から見たレントゲン写真です。

骨折線の入っている部分はすでに骨片が丸みを帯びていて、
新鮮骨折ではないと判断できます。 

上の写真を拡大したものが左の写真です。

赤色矢印の先で示した部分が、偽関節となった部分です。

この方は、今回来院されるずいぶん前に、怪我をされましたが、
お仕事上ギプスをしたり、
手を休めるということができなかったので、
このような状態になってしまわれたのだと思われます。

治療としては、今もお仕事を続けておられ、
簡単に休むということができない状況だったので、
手術は希望されませんでした。

そこで、痛みが誘発されるきっかけとなった原因を考えて、
鉤の部分に刺激を与えないようにすることで、
痛みは徐々に消えて行きました。 

42歳の女性です。

右手のひらの痛みを訴えて来院されました。

転倒した際に、手のひらを強く打ちつけて受傷されたのですが、
圧痛部位などから有鉤骨鉤骨折を疑いました。

レントゲンでははっきりわからなかったので、
CTを撮って確認しました。

すると、有鉤骨鉤ではなく、有鉤骨体部に亀裂が入っていました。
 

別角度から見たCTの画像です。

骨折線が明らかに有鉤骨体部に入っていることがわかります。

このように、有鉤骨体部が単独で骨折することはまれです。

この方は、痛みが落ちつくまでギプス固定を行い、
経過をみたところ、問題なく治りました。 

14歳の男性です。

野球部に所属していて、ポジションは内野手です。

野球の練習中から手のひらに痛みが生じ、
あるとき急に痛くなって、来院されました。

初診時は左の写真の赤色矢印の先で示した部分に強い圧痛がありました。 

この方は、右打ちであることから、
バットのグリップエンドが左手の有鉤骨鉤の部分に当たって、
繰り返し衝撃がかかり続けていたところに、
ファールチップ時の衝撃がかかって、
痛みが生じた様です。 

以上のような所見から、有鉤骨鉤の骨折を強く疑いました。

レントゲンを撮ってみると、
有鉤骨鉤の根元付近で骨折が見られました。
(赤色矢印の先で示した部分。) 

別の角度からレントゲンを撮ってみると、
骨折部分は新鮮例には見えなかったので、
CTを撮ることになりました。

CT画像では、有鉤骨の鉤ははっきりと折れていました。

しかし、骨折線がシャープではなく、
骨片が一部丸みを帯びているように写っていたので、 
以前から繰り返し同じ部分に衝撃が加わって、
今回の外傷によって骨折が判明したのではないかと思われました。

別の角度からのCTでも、赤い丸で囲んだように、
骨折部分はひろがっていて、骨癒合は期待できませんでした。 

ですので、手術によって骨片を摘出することになりました。

左の写真のように手術を行い、骨片を摘出しました。

術後1~2週間は患部保護のためギプスをしました。

しかしその後は、術部に圧が加わらなければ、
特に運動制限は設けず、
元の状態に持っていくようにリハビリを行って、
運動復帰できました。

その後も、高校・大学と野球を続けておられ、
何の問題もなく過ごしておられます。 

有鉤骨鉤骨折は、その受傷機転や圧痛部位ですぐわかります。

できるだけ早期に発見して、患部の状態を的確に判断すれば、摘出術後の経過も非常に良いと言われています。

ですので、特にスポーツ時に手のひらの小指側が痛くなったら、
早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします!

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