物を持つと肘の外側が痛い! 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)

手の使い過ぎや、テニスなどのスポーツによって、肘の外側が痛くなる病気に上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)があります。

この病期は比較的に容易に診断でき、治療によって症状は軽減できます。

しかし、中には、なかなか痛みがとれず、症状が増悪する場合もあります。

このページでは、上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)の原因や、治療法、
また、治りにくい理由などを詳しくご説明していきたいと思います。

上腕骨外側上顆炎とは?

上腕骨外側上顆炎とは、肘の外側の部分が手の使い過ぎなどによって痛みが起こる病気です。

以下の写真で示した赤色矢印の部分に痛みを覚えます。

痛みの原因となっているのは、上腕骨外側上顆で、筋肉(前腕伸筋群)と骨の付着部(写真の×印の所)です。

原因となっている筋肉(前腕伸筋群)は、長橈側手根伸筋(ちょうとうそくしゅこんしんきん)短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)・尺側手根伸筋・総指伸筋があります。

その中でも、最も痛みの原因となる筋肉は、短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)といわれています。

下の左の図は、4つの筋肉の走行を示しています。

4つの筋肉は、上の図の右側で示したように上腕骨の外側上顆から筋肉が起こっていることがわかります。

4つの筋肉は、指を伸ばしたり、手首を返す動作や、掌を上に向けるように回旋させる作用があります。

スポーツや、お仕事で、このような動作を頻繁にされる方に、多く見られます。

上腕骨外側上顆炎の症状と診断

上腕骨外側上顆炎の具体的な症状は、手ぬぐいやぞうきんを絞る動作や、重たい荷物を上から持ったりすることで痛みが生じます。

診断するためのテスト法に以下の図で示す3つの方法があります。

1つ目は、トムセン(Thomsen)テストといい、手首を反す動作に抵抗を加え、肘の痛みが生じるか確認する方法です。

2つ目は、チェアー(Chair)テストといい、上から重たいものを持ち、肘に痛みを確認します。

3つ目は、中指伸展テストといい、中指を伸ばす動作に抵抗を加え、肘の痛みを確認します。

これは、短橈側手根伸筋が中指の付け根から、上腕骨外側上顆に付着しており、
最も傷めやすい筋肉に障害が出ていないかを確認しています。

上腕骨外側上顆炎であれば、肘の痛みを訴えることはもちろん、痛くて力が入らないと訴えることが多く見られます。

上腕骨外側上顆炎の治療と対処法
炎症を抑える注射
作業中の痛みを軽減させるためのエルボーバンド
痛みを緩和させるためのストレッチ

注射は、ステロイドの局所注射を痛い部位に行い、炎症を押さえます。

エルボーバンドは、仕事中などの肘の痛みを軽減させることができます。

その作用機序は、短橈側手根伸筋の筋腹を圧迫することにより、指や手関節の伸筋腱の滑走を制限し、
筋付着部にかかる力を減らすことです。

痛みがある時や、再発予防をするには、前腕伸筋群のストレッチをすることが大切です。

肘関節を伸ばし、前腕伸筋群を伸ばすように手首を曲げ、少し親指を内側に入れるようにストレッチを行います。

痛い部位が伸ばされている感じの状態で、10~20、秒持続的にストレッチし、それを2~3セット行うようにしてください。

また、日常生活では、以下の図で示した荷物の持ち方に気をつけないといけません。

前腕伸筋群を強く働かせてしまう、上から物を持つ持ち方(左の図)はできるだけ避け、
下から荷物を持つ(右の図)のような持ち方をしていただくと痛みが出ません。

上腕骨外側上顆炎がなかなか治らない・・・
(synovial fringe impingement syndrome)

上腕骨外側上顆炎の痛みがとれず、長期化する場合があります。

その原因は、短橈側手根伸筋腱の付着部で炎症が続くことで、
腱の部分断裂や隣接した関節の袋(外側関節包)に断裂が生じたりします。

炎症による肥厚性変化で、滑膜ひだが2次的に形成され、
腕橈関節で滑膜ひだが挟み込まれ、腕橈関節での接触圧に変化をもたらます。

最終的には、上の写真のように、滑膜ひだの挟み込みによって、肘関節の伸展制限が生じることがあります。

下の図は、橈骨頭を輪切りにして、上からのぞいて見ている図です。

図のように、腕橈関節での滑膜ひだはたとえて言うならば、膝関節に構造や運動形態が類似しており、
滑膜ひだは、半月板機能と似ているといわれています。

この滑膜ひだは、慢性的な炎症がおこると、外側や後方部分の滑膜が肥厚し、
肘関節の伸展を妨げ(impingement)、滑膜炎が慢性化し、難治性になるといわれています。

6ヶ月~1年程度保存療法を試み、それでも症状の改善が見られない場合は、
手術療法の適応となることもあります。

以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。

〜症例1〜

37歳の女性です。

右肘外側の痛みを訴えて来院されました。

1か月前に、引っ越しで重い物を運んでから痛むようになったとのことです。

今は、タオルを絞ったり、物を持つ動作で痛く、夜間痛もあるそうです。

この写真は、初診時の外観です。

赤色矢印で示した×印の部分に、圧痛が認められ、トムセンテストも陽性でした。

左のレントゲン画像は、初診時のものです。

赤色矢印で示した部分(上腕骨外側上顆)が痛みを訴えている場所です。

レントゲンでは、左右ともに異常は見られません。

左の写真は初診時のエコー画像です。

赤色矢印で示した上腕骨外側上顆部での伸筋腱付着部に低エコー像が認められ、腱の変性断裂が示唆されました。

この方は、注射とエルボーバンドによる保存療法で経過をみることにしました。

〜症例2〜

45歳の男性です。

右肘の痛みを訴えて来院されました。

3日前、テニスをしていて急に痛くなり、ラケットが持てなくなったそうです。

この写真は初診時の外観です。

赤色矢印で示した部分に圧痛が認められ、トムセンテストでも陽性でした。

このレントゲン画像は、初診時のものです。

赤色矢印で示した部分に痛みがありますが、レントゲンでは異常は見られませんでした。

このエコー画像は、初診時のものです。

赤色矢印で示した上腕骨外側上顆部の伸筋腱付着部の低エコー像が確認できました。

以上のことから、腱の変性断裂と考え、注射とエルボーバンドによる保存療法を行いました。

〜症例3〜

49歳の女性です。

右肘外側の痛みを訴えて来院されました。

3年前より、右肘外側の痛みがあり、近隣の整形外科で上腕骨外側上顆炎と診断を受けたそうです。

2ヵ月に1回の注射と、湿布などによる治療を行っていましたが、症状は改善するどころか、痛みが強く右肘関節が伸びきらなくなってしまったという事で来院されました。

この写真は初診時の外観です。

赤色矢印で示した部分に圧痛が認められました。

この写真は、肘関節がどれぐらい伸びないかを健側と比較したものです。

注射した後の写真のため、右肘関節は少し伸ばしやすくなったとおっしゃっていました。

しかし、それでも健側に比べて、患側の肘関節が伸びきっていないことがわかります。

今回の注射は、腕橈関節(わんとうかんせつ)での障害と考え、関節部分に注射を行いました。

このレントゲンは初診時のものです。

赤色矢印で示した部分が痛みを訴えていた場所で、腕橈関節(わんとうかんせつ)の変形性関節症も疑い、左右を比較しましたが、特に異常はありませんでした。

治療の選択は、痛みの期間が1年以上という事、肘関節が伸びないという事から、滑膜(かつまく)ひだの肥厚(ひこう)に伴う挟み込みが生じているものと考え、手術をお勧めしました。

しかし、この方は、もう少し注射とエルボーバンドによる保存療法を続けたいと希望されましたので、それでしばらく経過をみることにしました。

〜症例4〜

49歳の女性です。

右肘の痛みを訴えて来院されました。

約1年前から、右肘に痛みがあり、近隣の整形外科で注射をし様子を見ておられました。

しかし、痛みが引かず、約半年前にも注射を行ったそうです。

ところが、痛みが引くどころか段々痛みが強くなってきたため、当院を受診されました。

この写真は初診時のものです。

赤色矢印で示した部分に痛みを訴えておられました。

また、写真で見る通り、肘を完全に伸ばすことができない状態でした。


このレントゲンは、初診時のものです。
赤色丸印で示した部分に、痛みと肘を伸ばした時のひっかかり感のようなものを訴えておられました。
レントゲンでは、特に異常は見られませんでした。
理学所見と、症状から上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)に伴う滑膜(かつまく)ひだが2次的に形成され、腕橈関節で滑膜(かつまく)ひだが挟み込まれて痛みが出ているのではないかと疑い、MRI検査を行う事にしました。

この画像はMRI画像です。

赤色矢印で示した部分に(左はT1強調像、右はT2強調像)滑膜(かつまく)ひだが確認できました。

滑膜(かつまく)ひだが関節内に挟まることで、肘が伸ばせず痛みが出ていることがわかりました。

痛みが約1年ほど続いていることから、手術を目的に大きな病院へ紹介となりました。

テニス肘という言葉は、日頃よく耳にします。

そのため、比較的簡単に症状も無くなったり、あまり重篤なものではないという認識があると思います。

確かに、手術をせずに治療を行っても、ほとんどの方が症状の軽減が見られます。

しかし、痛みが長期化すると、肘が伸ばせなくなったりしてしまい、手術の適用となることもあります。

肘の外側が痛くなったときは、早めにお近くの整形外科を受診されることをお勧めいたします。

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