転んで手をついたり、肩から落ちて骨折をしたというときに多く見られるのが「上腕骨近位端骨折」です。
高齢者の転倒によって生じる4大骨折の一つでもあります。
肩を上げることができないという辛い症状がでたりしますが、リハビリをすることでかなり回復が期待できます。
このページでは、上腕骨近位端骨折について御説明し、どれぐらい回復するのかということを見ていただきたいと思います。
上腕骨は、上の絵にあるように、大きく分けて3つの箇所に分類されます。
今回お話しする近位部は肩関節部分周辺を指します。
皮下出血が腕の周辺まで下りてきます。
あたかも腕の怪我のように見えますが、
実際は腕の付け根の方に近いところで骨折している場合が多いのです。
上腕骨近位端での骨折は、上の図にもあるように、いろんな部分に分類されています。
それぞれが単独で骨折する場合もありますし、
いくつかのパーツに分かれて複数個所骨折する場合もあります。
単独箇所骨折している場合
(大結節骨折)
複数個所骨折している場合
(外科頸+その他の部位)
中でも多いのは、外科頸部分で折れる「外科頸骨折」です。
手をついたりした時の外力がかかると、
外科頸部分を境にして骨折が生じます。
多くの場合が、保存療法で治療していきます。
固定療法の様子(前)
固定療法の様子(後)
上の写真にもあるように、ギプスは使わずに、三角巾とバストバンドと呼ばれる肋骨骨折の時に使う胸の固定バンドを用います。
この方法だと、おうちで入浴時に服の着脱を行う事などを簡単に行っていただけます。
同時に、固定したままリハビリも行います。
固定をして、1~2週間すると痛みも和らいできます。
患者さんの骨折の状態を見ながら、肩関節を動かすリハビリを行っていきます。
その方法は、三角巾をしたまま、肩の力を抜いて振り子の要領で、腕を前後させるようにします。
慣れてくれば、肘で円を描くように動かしたりもします。
こうすることで、肩の周囲の筋肉が緊張することなくリハビリができるので、
後の可動域を広げるリハビリに移行するときに有利になります。
骨折してからある程度肩の動きが獲得できるまで3~4か月かかります。
しかし、骨折の状態やリハビリを開始する時期の早さなどによって、
肩を動かすことができるようになるまでの時期を短くすることができます。
では、以下で実際の患者さんについて御覧いただきたいと思います。
〜症例1〜
70歳の女性です。
転倒して手をつき、腕が上がらないということで来院されました。
肩のレントゲンを撮ると、外科頸と大結節部の2箇所に骨折線があり、複数個所での骨折であるということがわかりました。
三角巾とバンドによる固定療法を開始しました。
こちらの写真は2ヶ月後のレントゲンです。
以前と変わらず、形を保っていて、中の骨が徐々に埋まっていました。
この時点でほぼ骨癒合できていると考えました。
同日の患者さんの状態です。
右肩が非常にスムーズに上がっていることがわかります。
このように、複数個所が折れても、三角巾による固定と、リハビリをすることで、十分に肩関節の動きが獲得できます。
〜症例2〜
90歳の男性です。
この方も転倒して、腕が上がらないということで来院されました。
初診時のレントゲンは外科頸部と大結節部の複数個所が折れており、かなり骨折した部分が離れているように写っています。
(上部の赤色矢印)
そして、外科頸部で折れた骨が骨頭の方に向かって、突き上げるような形で噛みこんでいます。
(下部の赤色矢印)
このように、しっかりと噛みこむような状態であれば、安定した骨折といえますが、もうひとつの骨片がかなり離れて見えるので、手術も考えられたのですが、御高齢ということもあり、固定療法が選択されました。
約1年後のレントゲンです。
初診時から定期的にリハビリにも通っておられ、運動療法も頑張っておられました。
その結果、レントゲンでは骨癒合もできて、腕を上げた状態でのレントゲンでも、特に問題は見当たりませんでした。
当日の患者さんの状態ですが、腕を上げることができるまでに回復して、日常生活での不便さもなく過ごしておられました。
〜症例3〜
83歳の女性です。
転倒して左腕をついて受傷されました。
こちらの写真にもあるように、皮下出血の範囲が広く、腕が上げられない状態でした。
初診時のレントゲンでは、外科頸部の骨折と、一部他の部位での骨折が確認できました。
比較的安定している状態でしたので、固定療法を行いながら、初診時から約2週間たった時点で、リハビリを開始しました。
受傷時から約1カ月たった時点でのレントゲンです。
徐々に骨折部分の骨が埋まってきて癒合しかかっていることがうかがえます。
初診から6ヶ月後のレントゲンです。
骨癒合が完成していました。
左肩の動きも良好で、日常生活での支障もなく過ごしておられました。
このように、痛みが軽減した時点で、早めに動かしたとしても、骨折部がずれたりすることなく、骨癒合が得られました。
〜症例4〜
86歳の女性です。
この方も転倒して腕が上がらないということで来院されました。
初診時のレントゲンでは、外科頸部での骨折が確認できました。
折れた部分は、かなりずれているように写っており、手術も必要かと思われましたが、しっかりと骨折部分が噛みこんでいるので、患部は安定していると考えて固定療法を行いました。
1ヶ月後のレントゲンでは、噛みこんだ部分は徐々に骨が埋まってきました。
6ヶ月後のレントゲンでは、完全に骨癒合が得られていました。
別の角度からレントゲンを撮っても、問題なく骨癒合が得られていました。
手を挙げる動作も、痛みなく、問題なくできておられました。
後ろに手を回す動作も左右の差がなく、日常生活動作でも、支障はありませんでした。
最初のレントゲンでは、後にどれぐらいの障害が残るか分からないぐらい変形していましたが、治療の結果、日常動作に支障のないところまで治っていました。
〜症例5〜
83歳の男性です。
右肩の痛みを訴えて来院されました。
山登りをしていて、木の根に足をとられ、転倒し、右肩を強打されたそうです。
帰宅後、痛みが強いため、救急病院へ行き、骨折といわれ、肘を提肘する装具を処方され、当院を受診されました。
こちらの写真は、外観と、骨折部のレントゲン写真です。
赤色矢印の部分で骨折が認められます。
お持ちの装具をそのまま使用し、1週間は安静にしていただくようにしました。
受傷後1週間後より、振り子運動を開始しました。
こちらのレントゲンで示す通り、傷後3週間で仮骨(赤矢印の部分)の形成が確認できたため、装具を除去しました。
また、運動療法は引き続き振り子運動を行っていただきました。
受傷後6週間より、肩を挙上する運動に切り替え、リハビリを継続しました。
こちらのレントゲン写真と外観写真は受傷後約4ヶ月後のものです。
赤矢印の部分に、骨硬化像が見られ、骨癒合していることが確認できます。
日常生活では不自由なく、可動域も改善しており、満足していただけました。
〜症例6〜
80歳の女性です。
左肩の痛みを訴えて来院されました。
5日前に、自宅のガレージで転倒し、左肩を強打されました。
近隣の病院で手術を勧められましたが、手術を希望しないため、当院を受診されました。
こちらの写真は当院へ来院された時の外観写真とレントゲン写真です。
皮下出血が肘の部分まで降りてきていることが確認できました。
レントゲンでは、赤色矢印の部分で骨折していることが確認できました。
三角巾とバストバンドによる固定を行い、1週間は安静にしていただきました。
受傷後1週間後より、痛みのない範囲から少しずつ振り子運動を開始していただきました。
受傷後3週のレントゲン写真で、仮骨(赤色矢印の部分)の形成が確認できたため、バストバンドを除去しました。
引き続き、振り子運動も継続していただきました。
こちらのレントゲンは約3ヶ月後のものです。
赤色矢印の部分が骨硬化しており、骨癒合していることが確認できました。
この時点で、痛みも全くありませんでした。
日常生活をするうえで、可動域も問題なく、快適に過ごせるようになったとのことで、大変満足していただけました。
上腕骨近位端骨折は骨折の部位により様々な変形を生じてしまいますが、
結果的には、肩の動きもかなり獲得できることがお分かりいただけたと思います。
受傷時、手術も必要ではないかと思われるような状態であっても、固定療法でも十分に対応できます。
肩関節が固まってしまわないうちに少しずつリハビリで動かして行くことが、うまく治るポイントになります。
ですので、まめにリハビリに通ってくださいね!
転んで腕が上がらなくなった時には、早い目に整形外科を受診してくださいね!