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成人の肘関節周辺の骨折には尺骨や橈骨頭での骨折が多くみられますが、上腕骨側で生じる骨折に上腕骨通顆骨折があります。成人期の上腕骨遠位部が骨折するのは比較的高齢者に多く、骨粗鬆症を伴っている場合が見受けられます。本骨折の治療は骨折部が不安定であることや骨癒合に長期間を要するため、手術療法を選択されることが多いとされています。上腕骨通顆骨折をギプスを用いて治療を行い、良好な結果となった例をご紹介します。
上腕骨通顆骨折における治療の難しさ
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上のレントゲン写真は上腕骨通顆骨折の骨折線の入り方(赤矢印)を示しています。骨折線がまたいでいる上腕骨遠位部は骨の形状から薄いため、骨癒合を得るには骨片同士の接触面が少ないという不利な条件があります。また、遠位の骨片が小さいので回旋変形をきたしやすい状況にあります。このような条件下であるため、ギプスを用いて骨癒合を得るには長期間の固定を要することになり、肘関節の可動域制限を残す確率が高くなります。以上のような理由が上腕骨通顆骨折の治療において手術療法を選択される事が多い理由であると考えられます。
上腕骨通顆骨折は手術適応になることが多いですが、患者さんご自身の内科的疾患など、何らかの理由により手術療法ができない場合や骨折片の転位が少なく、固定期間中に回旋転位を生じない症例では保存療法ができるかもしれません。
そこで今回、ギプス固定による治療を行い、骨癒合を得られ肘関節の可動域制限も少なくできた症例をご紹介します。
58歳の女性です。左肘関節を訴えて来院されました。来院日同日に屋外で転倒し、左肘を打ちつけて受傷されました。
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上の写真は初診時の外観写真です。肘関節の腫脹を認め、肩および手関節の痛みも訴えておられました。圧痛は肘関節全周に認め、特に上腕骨遠位部に著明でした。
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上の写真は初診時のレントゲン写真です。上腕骨の顆部にまたがる骨折線を確認できました。その他の部位や関節内にまたがる骨折線は確認できなかったので、上腕骨通顆骨折と診断しました。骨折部の離開は少なく、側面像と斜位像から回旋転位を認めていないので、ギプス固定を行い経過をみることにしました。
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上の写真は翌日に来院していただいた時のレントゲン写真です。ギプス固定下において骨折部は安定していたので、そのまま固定療法を継続しました。しかし、詳細な情報を得るためにCT撮影も行いました。
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上の写真はCT写真です。複数の骨片を伴うこともなく、骨片の転位も最小限であると考えます。
ギプス固定は6週間を予定し、固定期間中は上腕部の可動性をなるべく最小限に抑える目的で、三角巾とバストバンドを用いて体壁に上腕をそえる肢位をとるようにしていただきました。
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上の写真は初診から4週後のレントゲン写真です。骨折線は不明瞭になりつつありますが、癒合には至っていません。しかし、関節拘縮を危惧して同日からギプスシャーレ固定に切り替えました。そして、バストバンドは除去し、日常では外出の際に三角巾のみ使用していただきました。
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上の写真は初診から8週後のレントゲン写真です。骨折線は概ね骨癒合が得られていますが、肘頭窩の付近は骨折線を認めますので、三角巾を除去し、就労時と重量物を持つ際のみシャーレ固定をしていただきました。この時点で患部に負担のかからない程度で仕事に復帰されました。
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上の写真は初診から約19週後の外観写真です。肘関節の伸展可動域に若干の制限を認めましたが、屈伸運動は十分にできておられたので、日常生活上も問題なく、就労時に支障をきたすこともありませんでした。
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上の写真は約15週後のレントゲン写真(左)と約19周後のレントゲン写真(中央、右)です。骨癒合を得て伸展、屈曲動作においても問題はないと考えます。
上腕骨通顆骨折はギプスを用いて治療を行うことは少ないと思われますが、今回の症例は骨粗鬆症化が著明出なく、比較的安定した骨折型であったことが良好な成績を得られた理由ではないかと考えます。さらに固定後の経過観察中に骨片の再転位がなかったことも保存療法で治療が可能であった理由ではないかと考えます。