キーンベック病(手をよくつかっていたら、 手首が腫れて痛くなってきた!)

手関節が腫れて、手に力が入りにくくなったり、

手首が動かしにくくなったりする疾患の一つに「キーンベック病」があります。

これは手根骨の一つである月状骨が何らかの原因によって血行障害が生じ、
血液供給が遮断されて、骨が壊死する疾患です。

このページでは、手関節で生じる疾患の中では比較的稀な疾患である

「キーンベック病」についてご覧いただきたいと思います。

キーンベック病とは?

下の図は、キーンベック病の圧痛点を示したものです。

月状骨は手関節の中央付近にある骨で、他の手根骨とともに連結して手首の動きに関与しています。

この月状骨が何らかの原因によって、血管からの栄養が途絶え、つぶれていくことで、この疾患が発生します。

このつぶれる状態のことを「壊死」と言います。

この状態が長く続くと、手関節の機能障害がおこるので、

手を使う仕事についておられる方は手術療法を選択されることになる場合があります。

症状としては、手を使った後の手首の痛みと腫れが見られます。

また、握力が低下し、手関節の動きが制限されます。

では、月状骨はどんな役割をもっているのでしょう?

下の図は、手首を小指側に動かす動作(尺屈)と親指側に動かす動作(橈屈)を示しています。

月状骨や舟状骨、三角骨は前腕の骨である橈骨と尺骨と関節面を作り、
さらに、他の手根骨とつながっています。

手首を動かす時には、これらの骨が連動してスムーズな動きを作ります。

これら3つの部分を介在部分と呼びます。

中でも、月状骨は他の骨をつなぎとめて中心的な役割を担っており、
手先から伝達される軸圧の大半は月状骨を経由します。

ですので、月状骨が壊死すると、手にかかる圧力が前腕部にうまく伝わらなくなり、
握力や、物を押す力などが痛みを伴って低下します

下図は手首を上下に動かす動作の中で、月状骨がどのように動いているかを示したものです。

手首を上に返す動作(背屈)のときには、月状骨は橈骨のやや下の方に移動し、上に向いて傾きます。

そうすることで、手の甲はスムーズに上を向きます。

逆に、手首を下へ返す動作(掌屈)のときには、月状骨は橈骨の中央付近に移動し、下に向いて傾きます。

そうすることで、掌がスムーズに下を向きます。

このように、月状骨は手関節の動きにとって、大切な役割を果たしています。

したがって、月状骨が壊死すると、痛みを伴って、手首が滑らかに動かなくなります。

キーンベック病の病態

キーンベック病の病態は、以下の栄養血管からの栄養供給が途絶えることに原因があります。

上の図にあるように、月状骨内の血行は上からと下からの血管からわかれた毛細血管が張り巡らされており、
そこから月状骨は栄養供給を受けています。

このように、骨内の血行は豊富にあるはずなのにもかかわらず、
骨壊死を起こしてしまうのはなぜなのでしょうか?

月状骨に圧が集中しやすい形態学的な特徴

下の図は、月状骨に軸圧が集中しやすい形態学的な特徴を示した図です。

上の図は、月状骨の位置と橈骨および尺骨の位置関係を示したものです。

上の図の尺骨が橈骨に対して相対的に短い場合、
月状骨と橈骨とで構成される関節面がより近くなります。

そういった状態の上に、手の過剰な使用によって月状骨と橈骨間での圧が高まり、
その結果、月状骨の血行不全が引き起こされることで、キーンベック病が発生するという説があります。

ですので、職業的に手を良く使う青壮年の男性に多く発症すると言われています。

ときに、若年者や高齢の女性に発症する場合もあります。

キーンベック病の分類(Lichtman分類)

キーンベック病はレントゲン写真を撮ることで以下の4つのステージに分類されています。

 stageⅠ

月状骨にレントゲン写真上は
異常所見を認めない時期。
MRI では骨萎縮が見える時期。

stageⅡ

月状骨に骨萎縮や硬化像を認めるが、圧潰は認めない時期。

stageⅢ

ⅢA

ⅢB

ⅢC

月状骨の扁平化や分節化を認める時期

ⅢA:舟状骨の掌屈回転がないもの

ⅢB:舟状骨が掌屈回転し手根骨の配列異常を認めるもの

ⅢC:月状骨が冠状面で完全に分断しているもの

stageⅣ

月状骨だけでなく、周囲の手根骨にも、影響があり、関節症変化を認める時期。

キーンベック病の診断

キーンベック病の病期分類で、比較的進行している時期ではレントゲンを撮ることで診断がつきます。

しかし、レントゲン写真に写らないような比較的初期の段階ではMRI が有用です。

上のレントゲン写真では、骨壊死によって、月状骨の形態が変わっていることがわかります。

また、MRI撮影では、他の骨が白く写っているのに対して、

骨壊死を生じた月状骨が黒く写っている所見が見られます。

キーンベック病の治療

キーンベック病の治療は先にご紹介した病期分類によって異なります。

保存療法が適応になるのは、stageⅠで、方法としては、手関節の安静を保ちつつ、
定期的な経過観察を行いながらレントゲン写真上で病気が進行していないかを見ていくことが治療となります。

その際に、使用するのが、下の写真のような装具です。

上の装具は患者さんの手に合わせて、その場でリハビリスタッフがおつくりします。

日常生活で清潔を保てるように、取り外しが可能なように作られています。

一方で、レントゲン写真ですでに月状骨の圧潰が見つけられた場合には、手術療法を選択します。

手術の方法は、月状骨の血行が再開するように血管を移植する手術や、
橈骨との圧を逃がすために、橈骨を短くする骨切り手術などがあります。

年齢や、患部の状態に応じて術式が選ばれます。

では、以下で実際の患者さんについてご覧いただきたいと思います。

72歳の女性です。

手関節の痛みと腫れを訴えて来院されました。

特に怪我をしたとか、ひねったわけでもなく、手首を動かすと痛みがあるという事でしたが、
皮下出血などの外傷を疑う所見はありませんでした。 

横から見てみると、左右の手関節の厚みが違っていて、
右の手関節が腫れていることがわかります。 

レントゲン写真を撮ってみると、左右の月状骨の厚みに違いがある事がわかります。

正面からのレントゲン写真で、さらに月状骨の圧潰度がはっきりとしました。
他の手根骨には大きな影響は出ていないようでしたので、
比較的、関節の機能は保たれていると考えました。

年齢的なものや、生活活動の度合いなどを考えて、
装具療法を行いながら、経過観察することにしました。 

75歳の女性です。
半年前から特に思い当たる誘因もなく、右手関節の痛みがあったそうです。

3か月前に、右手首の腫れに気がつき、1か月前からタオルを絞る時や、

包丁を使っているときに痛みが強くなってきたそうです。

お仕事上、手を使う事が多いので、支障が出てきたので来院されました。 

横から左右の手関節を比較してみると、右の手関節が腫れていることがわかります。(赤色矢印で示した部分)

レントゲン写真を撮ってみると、月状骨の骨萎縮と骨硬化像が見られました。 

横から見たレントゲン写真でも、左右の月状骨の厚みが違う事がわかりました。

以上の所見から、病期分類stageⅢであると判断しました。

しかし、お仕事がら長く休みをとる事が出来なかったことや、年齢的なこともあり、

仕事での不自由さは多少あるものの、装具療法で経過観察を行うことになりました。

21歳の男性です。

右手関節の痛みを訴えて来院されました。

約5か月前に、お仕事で荷物を持ちあげた際に、急に右手首が痛くなったそうです。

その後、たびたび痛みが出て、腫れも出始めたため他院へ行かれましたが、

はっきりわからず、当院リハビリスタッフOBの接骨院の紹介で当院へ来られました。

横から見た手関節の状態は、明らかに右の方が腫れていました。

安静にしていても痛みがあるという事や、手関節のどの方向でも痛みがありました。 

レントゲン写真を撮ってみると、月状骨の圧潰と骨硬化像を認めました(①)。

さらに、隣にある舟状骨の写り方に左右差があることから(②)、

手根骨の配列異常をきたしていることがわかりました。 

横から見たレントゲン写真でも、左右の月状骨の厚みが違う事がわかりました。

このことから、病期分類のstageⅢで、他の手根骨にも影響があることから、

生活活動などを考えながら、今後の治療方針としては、手術療法の適応があると考えました。 

まずは、痛みも強いことから、手を休めるという意味で装具療法を行う事にしました。 

18歳の女性です。

右手関節の痛みを訴えて来院されました。

2年前に、テニスのサーブをした際に、右手関節が痛くなり別の治療院で様子をみていました。

しかし、1年前から再び痛みが強くなり始め、他院で腱鞘炎の診断で注射療法を受けられましたが、

痛みが変わらなかったため当院を受診されました。

初診時の所見では、手関節の背側中央付近に痛みがあり、手関節の運動時痛と背屈の可動域制限を認めました。

レントゲン写真では、月状骨の圧潰と骨硬化像を認めました。(赤矢印)

さらに、手関節の関節症変化も認められました。

横から見たレントゲン写真でも、右月状骨の圧潰を認めます。(赤矢印)

さらに、手根骨の骨病変の詳細をしるためにCTを撮影しました。

月状骨の圧潰、一部空洞化を認めました。

また、別の日に病期の進行度を確認するためにMRIを撮影しました。

他の手根骨に輝度変化は認めず、月状骨に輝度変化を認めました。

このことから、病期分類のstageⅢBであると判断しました。

治療としては、患部の安静を目的に取り外しのできる手関節装具を作成し経過を見ることにしました。

約2ヶ月間の固定療法の後、手術の予定です。

キーンベック病は手関節背側の動作時痛が特徴であると言われています。

特に手をよく使う方で、思い当たる外傷もなく、手関節が腫れるという事があった場合には、

本疾患を疑います。

最初レントゲンで異常が見られなかった場合でも、MRIで早期に発見することができますので、
違和感が続く場合には、早い目に整形外科で診てもらわれることをお勧めいたします。

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