ロコモシンドロームの進行を防ぎましょう
ロコモティブシンドロームは、運動器の障害によって、移動機能が低下した状態のことです。
それが、進行すると人の生活活動が低下し、介護が必要となるリスクが高くなります。
ロコモティブシンドロームの方が罹患している疾患で多いのは、骨粗鬆症と骨粗鬆症性骨折、変形性関節症、変形性脊椎症、脊柱菅狭窄症、サルコペニア(筋肉減少症)などです。
当院では、ロコティブシンドロームの方に対して体操教室を通じて運動器機能の低下予防に取り組んでいます。以下でその内容についてご紹介させていただきます。
実際、当院で行っている体操です
当院では、月曜〜土曜のお昼の時間帯に1時間の体操教室を行っています。
内容としては、リズムエクササイズやチューブエクササイズなどプロクラムの内容を変えています。
まず、バイタルチックを行います
体操の前には、必ず血圧を測定して体調の確認を行っています。この時点で、体調が優れない方や血圧がいつもと違う異常な数値を認めた場合には看護師によって再度バイタルチェックを行います。
ウォーミングアップ&脳トレーニング
体操のはじめには必ずウォーミングアップを行います。その内容は、ストレッチをしたり、脳のトレーニングとして手先を使う運動を行います。
メインエクサイズ
メインとなる体操は、数多くありボールやゴムチューブを使って筋力アップを目指します。また、転予防も兼ねてバランストレーニングも行っています。
ボールエクササイズ
ボールエクササイズは、指先の感覚を養うことや足裏の感覚を刺激する目的があります。このボールは、柔らかく持ちやすいので握力の弱い方でも十分対応できます。
ゴルフボールを使う運動は、足のアーチの低下を防止する目的で行います。
チューブエクササイズ
上の写真は、ふくらはぎの運動です。
上の写真は、大腿前面の運動です。
上の写真は、脚の付け根の運動です。
上記の運動3つは、歩幅を広げ、歩行の安定性を高める目的で行います。
上の写真は、肩甲骨周辺の運動です。
上の写真は、肩関節前面の運動です。
上の写真は、胸と腕の運動です。
上の3つの運動は、姿勢の維持と物を楽に持てるための運動です。
またぎ運動
上の写真は、ハードルをまたぐ運動です。
上の写真は、ラダーをまたぐ運動です。
2つの運動は、お風呂をまたぐ動作の改善や道路の継ぎ目でつまずかないようにする目的があります。
体幹トレーニング
上の写真は、腹圧を高める運動で、姿勢の改善に繋がります。
上の写真は、腹筋の運動です。
上の写真は、背筋の運動です。
3つの運動は、姿勢の維持や向上を目的に行っています。
リズムエクササイズ
上の写真は、音楽にあわせて1クール3分の体操を行っている所です。利用される方の身体状況に応じて立位で行ったり、椅子に座って行っています。このようにグループでの運動は、一体感が生まれ初めての方でも達成感が生まれます。
ストレッチ(クーリングダウン)
一連の運動を終えたら、呼吸を整えるとともに体の緊張を解きほぐす目的で、ストレッチングを行います。
リラクゼーション
上の写真は、最後にマット上で、リラックスをしていただき瞑想しています。
その後、バイタルチェックしてすべてのメニューを終了します。
運動前のバイタルチェックから、最後のバイタルチェックまでに要する時間は、約1時間です。
体力測定
体操教室にお越しいただいている方の全員に体力測定を実施しています。おおむね3ヶ月に一回の頻度で、測定を行います。運動を行うことで体にどのような変化が、おこっているかをひと目で分かるようにメディカルチックノートをお渡ししています。
握力測定
上肢の筋力を測る目的で、握力測定を実施しています
上のグラフは、握力測定を3ヶ月ごとに測定した結果です。青いグラフが、右手の握力で赤のグラフが左手の握力です。結果として、握力の維持ができました。
2ステップテスト
歩幅を調べることで、下肢の筋力・バランス・柔軟性などを含めた歩行能力を総合的に評価する目的で測定します。
上のグラフは、2ステップテストを3ヶ月ごとに測定した結果です。残念ながらお独立で下がってしまう結果でしたが、他の方は概ね維持ができました。
立ち上がりテスト
下肢の筋力を評価します。まず40cmの台の高さから両足で、反動をつけずに立ち上がります。両足で立ち上がれたら、次に片脚で、立ち上がります。評価は徐々に台の高さを低くしていき最終的には立ち上がれるところまでみていきます。
上のグラフは、立ち上がりテストを3ヶ月ごとに測定した結果です。もっとも簡単な40cmの高さから両足で立つのをレベル1とし、もっとも困難な10cmの高さから片足で立つものをレベル8としました。その結果、体力測定に参加された方は、レベル4〜5、すなわち両足で10cmの高さから立てる能力を維持できました。
上の3つのグラフは、インボディ(体成分分析装置)を用いて3ヶ月ごとに筋量を測定した結果です。上肢と体幹の筋量は増加し、下肢筋量は若干減少していまいましたが、全体的には、著しく筋量が減少する方はおられませんでした。
現在体操教室を続けておられる患者をご紹介します
82歳の女性です。この方は、体操教室を3年10か月継続されています。当院を受診したきっかけは、胸腰椎圧迫骨折による腰背部痛を改善したいということです。骨粗鬆症の治療も継続されています。ご本人は、同居の家族に迷惑を掛けたくないという気持ちがあり、これからも自転車に乗って買い物や通院を続けたいという目標を持っておられます。
上のレントゲン写真では、第11胸椎第12胸椎および第1腰椎の圧迫骨折がみられます(赤丸印)この方の体力測定は以下の通りです。
上のグラフは、直近の6ヶ月間の体力測定の結果です。2ステップが向上しているのがわかります。このことから、脚を大きく踏みだせるようになっていることがわかります。また、立ち上がりテストが、維持できていたので立ち上がり動作の安定感は変わらずに保ていたことがわかります。この方のように腰背部の痛みがあっても体操を続けることで身体能力を維持できると思われます。
上のグラフは、筋肉量を示しています。6ヶ月が経過した時点で、体幹の筋肉量が向上したいることがわかります。このように胸腰椎圧迫骨折があっても運動を続ければ脊椎を支える体幹筋力が向上して姿勢の保持につながっていると考えられます。
88歳女性の患者この方は、体操教室を4年1継続されています。当院を受診したきっかけは、変形性膝関節症による膝痛を改善したいということです。ご本人は、人工膝関節の手術をしないで今後も現状の生活を維持したいと思いで、体操教室に参加されています。
上の2枚のレントゲン写真では、膝関節裂隙の狭小化がみられ、軟骨が消失しているのがわかります(赤矢印の部分)この方の体力測定は以下の通りです。
上のグラフは、直近の6ヶ月間の体力測定の結果です。立上がりテストが維持できているのがわかります。このことから膝の痛みがあっても運動を続けていくことで日常生活動作がかわらずにかわらずに行うことが可能です。2ステップテストは、残念ながら歩幅が小さくなっていしまう傾向にありましたが、日常生活では転倒しないで過ごされています。
上のグラフは、筋肉量を示しています。6ヶ月が経過した時点で、下肢の筋肉量は低下していますが、体幹と上肢の筋肉量が維持していることがわかります。低下した要因は、膝の痛みが強くなっていたことがあげられますが、手術をしないでこのまま経過をみていくのであれば筋量をなるべく落とさないように運動は必要であると思われます。
しかし、この方には、体操教室を続ける意味は身体機能を維持するだけでなくほかの意味もあります。
上の写真は、体操をしておられる場面です。スタッフとその他大勢で、集まって体操をすることでいろんな話題が生まれます。また、同じ空間で楽しみながら体を動かすことは、気持ちの張り合いも違います。このようにこの方は、コミニュケーションをとることも体操教室に参加する目的の1つだと考えておられます。
以上のようにリハビリとは、また違った形で皆様に運動療法を提供させていただいております。グループで体を動かすことで一体感が生まれ向上心も芽生えてきます。スタッフもまじえて一緒に体操教室を続けることで健康寿命をのばして行きましょう。