中手骨疲労骨折

疲労骨折の多くは下肢に発生するのですが、手を使いすぎることでも疲労骨折は起こりえます。

このページでは、疲労骨折の中でも稀であるとされている中手骨の疲労骨折についてご覧いただきたいと思います。

では、どこに疲労骨折がよく起こるのかというと、
下の図のように、中手骨と呼ばれる手の甲を構成する骨の骨幹部に発生することが多いと言われています。

中でも、赤丸で囲んだ第2中手骨に疲労骨折が起こりやすいと言われています。

中手骨の構造

上のレントゲン写真は、実際に中手骨疲労骨折を起こした患者さんの手です。

疲労骨折を起こす要因の一つに、元々の中手骨の形状があります。

正面から見たときに、中手骨は骨幹部のところで細くなっています。

斜め横から見た場合では弯曲しています。

この構造から、手にかかる力を分散できるようになっています。

ボールを握った状態では、下の写真のように、5本の中手骨はアーチ型をしています。

親指の動きを左右する第1中手骨は、他の指から独立した形にあるので、
色々な動きに対応できます。

しかし、第2~5中手骨は並んだ形状になっていますので、
手を握ったり開いたりする時に、アーチを保った状態で、力を分散しています。

中手骨疲労骨折が起こるとされる力の加わり方は、
下の赤い丸で囲んだようなストレスが中手骨にかかるために起こると考えられています。

上の赤丸で囲んだ外力のかかり方は「bending」と呼ばれる曲げる応力のことです。

もともと、骨は圧縮には強いのですが、曲げに対しては圧縮の強さの15~30%とされており、
ひねりに対してはさらに弱いとされています。

中手骨疲労骨折も、指のグリップ動作が繰り返されることにより、
中手骨列を介して、中手骨にbendingが反復して加わり、
もともと細い形状になっている骨幹部にストレスがかかり、疲労骨折が起こると考えられていま

上の写真にあるように、第2中手骨の骨幹部が太くなっているように見えます。

これは、繰り返されるストレスによって微細な骨折が生じ、
骨の修復機転が働いて仮骨が形成されているので、このように見えるのです。

治療としては、ギプスをするとか、特別な治療はありません。

2~3週間のスポーツ休止をしていただくことで痛みは消失していきます。

しかし、再発予防のために、ラケットのグリップや、握り方を見直すまたは、
練習方法自体を見直すことなどを指導します。

では、以下で実際の患者さんについて見ていただきたいと思います。

〜症例1〜

16歳の軟式テニス部に所属している女性です。

右手背部の痛みを訴えて来院されました。

1か月前からボールを打つと、痛みがあって、我慢して練習を続けていましたが、ボールを打つと、必ず痛くなるぐらいまで痛みが増強しだしたので、来院されました。

初診時の状態では、握力に左右差は無く、手背部も腫れてはいませんでした。

しかし、第2中手骨の付け根から骨幹部にわたって、圧痛を認めました。

レントゲン写真を撮ってみると、こちらの写真の赤矢印で示した部分に、骨膜反応を認めました。

別の角度からレントゲンを撮ってみると、骨幹部の広い範囲で骨膜反応像が見られました。

以上のことから、中手骨疲労骨折と診断しました。

練習を2週間ぐらい休止して、痛みと圧痛がほとんどなくなっていたので、練習を徐々に再開しました。

初診から約1カ月の時点で、完全に痛みが消失し、その後も問題なくテニスのプレーができました。

〜症例2〜

13歳の硬式テニス部に所属している女性です。

右の手背部の痛みを訴えて来院されました。

1週間前に、レシーブ時の痛みが出現し、その後も我慢して練習しておられましたが、ラケットを握る動作さえも痛くなって来院されました。

初診時の所見では、握力に左右差はなく、手背部の腫れもありませんでしたが、第2中手骨の付け根から骨幹部に圧痛を認めました。

中手骨骨幹部での圧痛を強く認めたため、疲労骨折を疑い、MRI撮影をしました。

すると、第2中手骨の基部から骨幹部にかけて他の中手骨に比べて輝度の変化がありました。

中手骨列で輪切りにした画像では、他の中手骨の骨幹部との輝度変化が明らかにわかりました。

練習中止を指導しましたが、本人の意思によって、2週間は軽く練習を継続することとし、さらに1週間は、完全に休止するプランにしました。

初診から4週間たった時点では、痛みも圧痛も認めず、練習を再開することができました。

初診時から2カ月のレントゲンでは、赤色矢印で示した部分に、仮骨が形成されていることがはっきりわかりました。

その後、問題なくプレーできています。

〜症例3〜

17歳のソフトボール部に所属している男性です。

1か月前から、投球時に痛みを感じていましたが、2週間前から特に痛みが強くなったので、来院されました。

この方はピッチャーで、1か月前から変化球を投げる割合が増え、さらに重要な試合が続いていたので、1日の投球数が増えていたそうです。

また、変化球のボールの握り方を変えたそうです。

痛みのある個所は、第4中手骨の骨幹部で、赤色矢印で示した部分です。

レントゲンを撮ってみると、第4中手骨骨幹部(赤色矢印の先の部分)に、他の中手骨よりも太く見える骨膜反応像が見えました。

別の角度で撮ったレントゲン写真でも、第4中手骨の骨幹部に骨膜反応が見えました。

以上のことから、中手骨疲労骨折と診断し、練習休止を指示しました。

初診から2週間後のレントゲン写真です。

この時点で痛みも全くなくなりました。

この時点から徐々にスポーツ復帰を許可しました。

痛みがなくなってから、ボールの握り方について検討し、本人に痛くない握り方を試していただいて、痛くない握り方で投球をするように指導しました。

中手骨疲労骨折はスポーツを休止することで治ります。

しかし、最初に疲労骨折であることを発見することが大切です。

中手骨疲労骨折は発生頻度としては疲労骨折全体で見たときには少ないのですが、
ラケットを使う競技や、やや大きめのボールを使う競技で、手が痛くなった時には、
早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします。

早期発見が、早期治癒につながります!

PAGE TOP