足がしびれてきたわけでもなく、腰椎の疾患があるわけでもないのに、
思うように足が前に出にくくなってくることがあります。
足が出にくくなる疾患の一つに「正常圧水頭症」があります。
文字通り、頭に水がたまるという表現になりますが、徐々に進行する疾患なので、
頭を打つなどといったこともないのに、気づかないうちに発症していきます。
また、この疾患は認知症状も発症するのですが、
手術をすることで認知症状が和らいでいくので「治る認知症」とも言われています。
足が出にくくなることで、転倒にもつながりますし、
認知症状の進行を防止するためにも、早期発見をしていくことが大切になります。
このページでは、正常圧水頭症がどういった疾患なのかご紹介していきたいと思います。
正常圧水頭症とは?
正常圧水頭症とは、脳と脊髄の表面にある、くも膜下腔に循環している脊髄液が、
過剰にたまって脳室が広がってしまう疾患のことをいいます。
正常な脳脊髄液の循環
上の図にあるように、脳の周りには、脳脊髄液で満たされている空間があります(水色の部分)。
脳の中は、脳室と呼ばれる部屋が4つあり、くも膜下腔とつながっています。
脳脊髄液は、脳室の脈絡叢(図の緑色の部分)から産生されます。
そして、脳室を回り、くも膜下腔を循環しながら、脳や脊髄を保護しています。
一通り循環した脳脊髄液は頭のてっぺんにある上矢状静脈洞等で吸収されます。
このように、脳脊髄液は産生され、循環をし、最後に吸収されるという仕組みができあがっています。
水頭症では、何かしらの原因で、上記の脳脊髄液の循環が滞ってしまい、
脳脊髄液が過剰にたまってしまった状態になっています。
水頭症の分類
水頭症のタイプは大きく分けて二つあります。
原因がくも膜下腔で髄液の停滞や吸収に障害が生じてしまうものを「交通性水頭症」と呼ばれます。
また、脳室の経路で髄液の経路が一部分先天的に狭くなっている場合や、
腫瘍の存在により流れが悪くなっていることが原因される「非交通性水頭症」と呼びます。
頭蓋内圧が正常範囲内である場合、これを「正常圧水頭症」と呼びます。
これらは、さらにくも膜下出血や頭部の外傷など原因がはっきりとしているものは、「続発性正常圧水頭症」と呼ばれ、
原因のわからないものは、「特発性正常圧水頭症」と呼ばれます。
上の図にある「特発性正常圧水頭症」は、高齢者の認知症患者のうち、約5%を占めていると言われ、
症状として小刻みで不安定な歩行を呈したり、物忘れが出てきたり、尿失禁が見られるなどがあります。
頭部MRIの画像では、上の図にあるように、正常な画像と比べて、
脳室と呼ばれる部分が広がっているのがわかります。
アルツハイマー性の認知症では頭部MRI画像としては、
脳の一部が萎縮するとされていますが、
正常圧水頭症の場合は脳の萎縮はみとめません。
正常圧水頭症はこんな症状があります!
症状としては、歩行障害、認知障害、排尿障害があります。
歩行障害では歩幅が減少し、足をやや外に広げるようにして歩きます。
歩行開始時や、方向転換時は、歩く速度がゆっくりになります。
歩行障害を特徴とする疾患には、パーキンソン病もありますが、
正常圧水頭症の場合は、パーキンソン病に見られるような突進性の歩行はなく、
ゆっくりとした速度を保った歩行になります。
認知障害は、徐々に進行していくのですが、
アルツハイマー型認知症と比べると記憶や、見当識の障害が比較的軽いとされています。
排尿障害は残尿感、尿意切迫、尿失禁がみられます。
上記の3症状が正常圧水頭症の特徴で、
その3つすべてがでるとは限りませんが、症状別では、
歩行障害が最も高率に発症するといれています。
重症度分類
重症度 | 歩行障害 | 認知障害 | 放尿障害 |
0 | 正常 | 正常 | 正常 |
1 | ふらつきや、歩行障害の自覚のみ | 注意、記憶障害の自覚のみ | 頻尿、または尿意切迫 |
2 | 歩行障害を認めるが、 補助器具なしで自立歩行が可能 |
注意、記憶障害を認めるが、 時間・場所の見当識は良好 |
時折の尿失禁 (1~3回以上/週) |
3 | 補助器具や介助がなければ歩行不能 | 時間・場所の見当識障害を認める | 頻回の尿失禁(1回以上/日) |
4 | 歩行不能 | 状況に対する検討意識が全くない または、意味ある会話が成立しない |
膀胱機能のコントロールがほとんどできなくなる |
重要度 | 歩行障害 |
0 | 正常 |
1 | ふらつきや、歩行障害の自覚のみ |
2 | 歩行障害を認めるが、補助器具なしで自立歩行が可能 |
3 | 補助器具や介助がなければ歩行不能 |
4 | 歩行不能 |
重要度 | 認知障害 |
0 | 正常 |
1 | 注意、記憶障害の自覚のみ |
2 | 注意、記憶障害を認めるが、時間・場所の見当識は良好 |
3 | 時間・場所の見当識障害を認める |
4 | 状況に対する検討意識が全くない または、意味ある会話が成立しない |
重要度 | 排尿障害 |
0 | 正常 |
1 | 頻尿、または尿意切迫 |
2 | 時折の尿失禁 (1~3回以上/週) |
3 | 頻回の尿失禁(1回以上/日) |
4 | 膀胱機能のコントロールがほとんどできなくなる |
上の表にあるように、重症度が分かれていますが、重症度2~3程度になると、
明らかな歩行障害が認められます。
上の図にあるように、段階を踏んで、検査していくことで、
正常圧水頭症と診断されます。
どのようにして治療していくの?
(シャント手術とは?)
正常圧水頭症に対する治療は、まずは経過を見ていきますが、
症状が徐々に進行していると判断した場合は
脳脊髄液の流れを良くするためにバイパス手術がおこなわれています。
上の絵にあるように、脳室にたまった脳脊髄液を腹腔内に排出する手術ですが、
腹腔内に脳脊髄液を通す手術の手法はいくつかあります。
上の図は、腰椎、腹腔シャント術とよばれます。
実際の利用者さんの術後経過
以下のグラフは、正常圧水頭症の手術を受けた後、
身体機能の向上を目的に運動をしていただいた方の実際の記録です。
上のグラフの「歩行能力」の項目で、歩行時間が徐々に延びていて、時間がかかるようになってきたのですが(赤丸の部分)、
手術後は、徐々に歩行速度が速くなり、グラフの山が小さくなっていることがわかります。
下肢筋力は、右肩上がりで上昇し(赤矢印のところ)、
日常生活活動は高いレベルを維持できるようになりました(赤丸の部分)。
https://www.youtube.com/watch?v=Azj4SZe3ZyQhttps://www.youtube.com/watch?v=EFGJQ0ARlD8https://www.youtube.com/watch?v=aJfJmuEHuyA
上の動画は実際に利用者さんがしておられた運動内容です。
デイサービスで正常圧水頭症の方のリハビリも十分にできます。
少しでも歩けるようになって、活動的な生活を取り戻してくださいね!