打撲もしくは筋肉の損傷の後、なかなか関節が曲がらない、
筋肉が突っ張って痛いなどの症状があるとすれば、この「骨化性筋炎」を疑います。
骨化性筋炎は外傷性の異所性骨化ともいわれ、打撲後の合併症として注意すべきスポーツ外傷です。
アメリカンフットボールやラグビーなどのコンタクトスポーツに、この疾患は多く見られます。
特に、大腿部の前面に相手選手と接触することで、直接大腿四頭筋が圧挫をうけ、
筋肉内に血腫が形成されることが引き金であるといわれています。
ですので、骨化性筋炎の発症は、大腿部前面の打撲の重症度と関係があるといわれています。
そこで、受傷時の初期治療が大変重要です。
受傷早期の症状は打撲した箇所の強い痛みと腫脹、そして筋肉の緊張が見られます。
また、激烈な圧痛が認められ、大腿前面部での筋挫傷の場合、膝を曲げる方向の運動制限が顕著に見られます。
そこで、できるだけ早い段階で現場での応急処置が、受傷後の経過にも影響があるので、
上記の図にあるような「RICE処置」が有効であるといわれています。
RICE処置とは、
R=Rest 患部を安静に保つ。
I=Ice 患部を冷やす。
C=Compression 患部を圧迫する。
E=Elevation 患部を挙げる。
異常の一連の処置をまとめて「RICE処置」といいます。
こういった処置を行って、極力、血腫の拡大を防止します。
痛みが強いので、鎮痛薬も服用し、
場合によっては、患部への荷重を軽減するために松葉杖の使用を試みます。
骨化性筋炎の画像って?
骨化性筋炎はレントゲンで白く薄い帯状の影として認められます。
レントゲンではっきりとわかるまでには、1か月ぐらいかかりますが、
エコーでは、レントゲンで観察できる前に筋組織の変化を早く見つけることができます。
受傷から骨化性筋炎の修復に至るまでの流れ
下の図に表したような過程を経て骨化性筋炎は治っていきます。
各時期で、リハビリの方針が違います。
先にも述べたように、受傷時は何より「RICE処置」が大切で、血腫の拡大を防ぎます。
患部の修復が始まる2~3週間ぐらいは、固定をし、患部への刺激は極力避けます。
血腫が徐々に減り、石灰化した部位がレントゲンでもわかり始めるころには、特に固定を必要としません。
しかし、固定を外したからといって、関節の動きを取り戻そうと急ぐあまり無理やり動かすことは逆効果です。
レントゲン上でも、はっきりと骨化がわかるようになったころには、
痛みを伴わない角度までのストレッチや関節運動を始めていきます。
徐々に、骨化した部分が消失してきますので、可動域も回復します。
そして、患部を保護するパッドを付けるなどして、受傷後4~5ヶ月ぐらいには、コンタクトスポーツに復帰することができます。
大腿部を守るテーピング
大腿部前面部の筋挫傷を想定し、
患部を守るためのテーピングです。
×印のところを損傷部位と仮定します。
アンダーラップを巻きます。
アンダーラップの端をホワイトテープで固定します。
大腿部の側面、やや後方部分にサポートテープを巻きます。
内側、外側にそれぞれ1本ずつ縦にテープを貼ります。
患部の上で、クロスするようにエックスサポートテープを巻きます。
横から見ると、縦のサポートテープにかかるぐらいで切ってあります。
エックスサポートテープの上から、並行になるように、
コンプレッションテープを巻きます。
このテープも、大腿部を1周することなく、前面だけに貼ります。
上記のエックスサポートと、コンプレッションのテープがはがれないように、
縦に1本のアンカーテープを巻きます。
最後に、仕上げとして、伸縮性のあるバンテージやテーピングですべてを覆います。
これで完成です!
以下で、実際の患者さんの例を御紹介いたします。
24歳の男性です。
左太ももの前面の痛みを訴えて来院されました。
1か月前にサッカーをしていて、相手選手の膝が患部に当たったそうです。
そのまま放置しておられたそうですが、
痛みが続くため、来院されました。
左大腿の前面は、腫れていて、
赤矢印のところを押さえると、
強い痛みがありました。
レントゲン写真を撮ってみると、
大腿四頭筋内に骨化形成が認められました。
よって、大腿四頭筋内での炎症性の痛みであるとわかりました。
エコーを撮ってみると、
大腿四頭筋の深層部に骨化部が確認できました。
リハビリとしては、痛みの出ない範囲での可動域訓練と、
ストレッチ程度にとどめ、痛みが楽になってくれば、
徐々にサッカーの競技復帰をしていくように指導していきました。
49歳の男性です。
左大腿部の外側が痛いということで来院されました。
1か月前、空手の練習で左大腿部を蹴られて痛みが生じ、
さらに来院の3日前にも同じ部位を蹴られて、
腫れと、膝を曲げることが辛くなったため、
当院OBの整骨院の紹介で来院されました。
レントゲンを撮りましたが、
特に骨に異常は認められません。
エコーを撮ってみると、大腿四頭筋の深部に血腫がありました。
(赤色矢印で示した部分。)
別の角度でエコーを見て見ると、血腫があることと、大腿骨のすぐそばにあることがわかりました。
痛みが強いので、患部を固定し、
接骨院の先生に経過をみてもらうことにしました。
経過をみていく中で、2週間後に再び来院していただきました。
すると、レントゲンを撮ったところ、
大腿骨の前面にうっすらと骨化を認めました。
エコーを撮ってみると、骨化の部位がはっきりと見えました。
(赤色矢印で示した部分。)
さらに2週間後に患部の状態を見たところ、
本人の訴える大腿部の痛みはなくなり、腫れも消えていました。
レントゲンを撮ってみると、骨化が消失してきていました。
エコーでは、骨化が確認できましたが、
前回と比べて小さくなっていました。
この方は、痛みが無くなっていたので、
この時点でスポーツ復帰を許可しました。
13歳の男性です。
左大腿の外側の痛みを訴えて来院されました。
うつ伏せになって膝を曲げようとすると、
大腿部が突っ張り、膝がっ突っ張り、膝が曲がりません。
エコーを撮ってみると、大腿四頭筋の外側に骨化像が見えました。(赤色矢印で示した部分。)
別の角度から見て見ると、骨化はさらにはっきりと写っていて、
押さえて痛い部分と一致しました。
痛みを伴うスポーツでの動作は中止して、経過をみました。
初診から1週間後のレントゲン写真で、薄く骨化像が確認できました。
さらに、その2週間後のレントゲン写真で、
より鮮明に骨化像がわかるようになりました。
エコーでも、初診から3週間後の時点で、
より明確な骨化像が認められました。
この時点で、本人の訴える痛みはなかったので、
運動を徐々に許可していきましたが、
膝の曲がる角度は完全ではありませんでした。
初診から2カ月の時点でのレントゲン写真では、
大腿骨の皮質部分に肥厚が見られました。
この時点では、痛みもほとんどなく、
膝の曲がる角度も、かなり回復していました。
初診から6ヶ月後のレントゲン写真です。
骨化部分は消失し、大腿骨の骨皮質が肥厚して、
はっきりと骨組織に置き換わったことがわかります。
膝の曲がりも良く、スポーツにも支障なく、運動制限もありません。
24歳の男性です。
右大腿部の前面の痛みを訴えて来院されました。
写真にあるように、丸印の部分が痛みが強く、
押さえるとさらに痛みが強くなります。
レントゲンを撮ってみると、特に骨の異常は認められませんでした。
エコーを撮ってみると、上の写真にあった丸印の部分に一致して、大腿四頭筋の深部に骨化像が認められました。
初診時から1ヶ月後に撮ったエコーの画像です。
さらに明瞭にボール状の石灰画像が見えました。
初診から1か月の時点では、
レントゲン写真にも 石灰画像がはっきりと見えてきました。
(赤色矢印の先に示した部分。)
この方はギタリストで、激しく動きながらギターを弾くため、
大腿部の内側にギターが当たっていたことが原因だったと考えられました。
原因となることを避けていただけば良いことを指導して、
納得していただきました。
17歳の男性です。
サッカーをしていて、相手選手の膝が右大腿前面部に当たり、
その後も、休まずにプレーを続けていたため、
痛みが増強し、歩行困難になって来院されました。
丸印で囲んだところに腫脹があり、全体的に押さえると痛みがありました。
レントゲンでは、薄く骨化像が見られました。
エコーで確認をすると、大腿四頭筋の深部に、
白い帯状の骨化像が写っていました。
初診から1ヶ月後の時点で、再びレントゲン写真を撮りましたが、骨化像は依然として残っていました。
しかし、本人は痛みもなく、他の自覚症状もなかったので、
修復過程と考えて、スポーツ復帰を段階的に許可していきました。
骨化性筋炎は受傷時の処置で発生を防止することが大切です。
しかし、その後、骨化が認められることになっても、
一時的には運動を制限されることになりますが、
徐々に骨化部分は消失していきますので、
時間はかかりますが、治っていく疾患です。
打撲後に痛みが長く続き、
たかが打撲なのに、関節の動きが元に戻らないなどといった症状がある場合、
早い目に病院を受診されることをお勧めいたします。