野球をしておられるお子さんの中には、野球肘という障害がよく見受けられます。
野球肘の中でも、肘の外側に障害が出ることがあります。
肘の外側というのは、下記の図の上側の部分です。
前腕と上腕のお互い軟骨がぶつかり合い、衝撃が起こります。
お子さんの場合は、肘に軟骨部分が多いので、
衝撃が加わると、軟骨が傷つけられやすく、障害が発生しやすくなります。
そこへ、肘に負担のかかるような投げ方や、
投球回数の多さが継続的に続くと、
肘に痛みが発生します。
痛みが軽いうちに、肘の外側の病変を見つけて、
肘を休めてあげるのが一番良い方法です。
しかし、現実はなかなかそういう理想通りにはいかないものです。
このページは、少しでも肘がおかしいなと思った場合、
対処法をお考えいただく一つのヒントを提供させていただきたいと思います。
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎とは?
外側型と言われる野球肘は、内側型に比べて投球再開までに時間を要します。
治療は投球中止のみだけで治る場合もありますが、程度によっては手術をしなければならない場合もあります。
以下の図は、上腕骨小頭離断性骨軟骨炎の進行度を示した病期分類です。
初期、進行期、終末期に分けられます。
(透亮期、分離期、遊離体期とも呼ばれています。)
上の図は、レントゲンで撮った時の外側型野球肘の写り方を表しています。
外側型の野球肘は上腕骨小頭と呼ばれる部分の軟骨が傷つくことがほとんどです。
その病期は上の絵のように3つに分かれます。
左から右にかけて徐々に病状が進んでいきます。
初期の段階で、しかも骨が透けて見えるような部分がある時期であれば、
投球を休止することで回復が期待できますが、進行するに従って、元通りになる可能性が少なくなります。
進行期や終末期では、手術療法を選択されるケースが多くなります。
右端の図で肘関節の中に小さな骨片が見えますが、これのことを通称「関節ネズミ」といいます。
移動して、肘の間に挟まったりすることから、そのように呼ばれています。
プロ野球選手などになると、この「関節ネズミ」を手術で除去することは、良く知られています。
治療はどのように選択するのか?
治療は、病気分類を見て判断していきます。
一般的に、治療方針のポイントとなる時期は、進行期(分離期)です。
この時期に、欠損部の軟骨が修復してこなければ、
もしくは終末期(遊離体期)に進行していれば手術を選択します。
しかし、その判断が非常に難しく、レントゲン検査、超音波検査、MRI検査、CT検査などあらゆる検査を行います。
子供の年齢、骨端線の有無、可動域制限など投球中止をし、経過観察することが大切です。
画像診断
上腕骨小頭離断性骨軟骨炎のレントゲン画像を以下に示します。
レントゲン画像
赤色矢印の部分で軟骨部での透亮像が認めらる。診断時レントゲン写真を撮る事の長所短所は以下の事項です。
長所;骨の病変が確認できる。 回復過程が確認しやすい。
短所;軟骨部分の詳しい状態が確認しにくい。
レントゲンではっきりと病変が分かった場合には、直ちに治療に移ります。
超音波(エコー)画像
エコー画像は、肘関節を鋭角屈曲位にし、撮影します。
赤色矢印の部分がレントゲンで透亮している部位と同じ場所です。
エコー検査では、すぐその場で病変が確認できる上、
保護者の方にも状態を医師の説明を聞きながら見ていただけ、
非常に分かりやすいという特徴があります。
上の図のように、レントゲンとエコー画像では、同じ時期に撮影したものでも見え方が異なります。
CT画像
剥離している骨片の位置などが分からない場合には、CTをとります。
当院では、CTは必要に応じて近隣の関連病院で撮影します。
CTを撮る利点は、左の写真のように骨病変の全体像が立体的に確認できることです。
しかし、CTでは靭帯や腱などの軟部組織の病変が分からないという欠点もあります。
MRI画像
骨や軟骨病変の広がりの程度を確認したい場合には、MRI検査を行ないます。
当院では、CT撮影を依頼している病院で、MRIも撮影していただきます。
MRIでは、靭帯や腱などの部分も確認できます。しかし、
撮像費用が少し高いという欠点があります。
超音波(エコー)検査の特徴
超音波(エコー)検査は、以下の利点が挙げられます。
①CTやMRI検査に比べて経済的負担が少なく、被爆の心配はない。
②骨だけでなく、軟部組織や軟骨組織の評価が可能。
③あらゆる方向から繰り返し検査ができ、動体撮影も可能である。
超音波(エコー)検査では、以下のようにレントゲンではわからない、
軟骨下骨表層ラインや分界層ラインがわかり、エコー画像の分類と比較して細かく進行過程を把握することができます。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
11歳の男の子です。
右肘外側の痛みを訴えて来院されました。
1年前にも、右肘の痛みがあり、近隣の病院で上腕骨小頭離断性骨軟骨炎と診断を受け、4ヶ月間投球中止をしていたそうです。
左のレントゲン画像はは初診時のものです。
赤色矢印の部分が骨透亮していることがわかります。
レントゲン画像から初期から進行期の以降時期かと判断し、投球中止の保存療法を行うことにしました。
4ヶ月経過時点のレントゲン画像です。
レントゲン分類では進行期でありましたが、遊離体にはなっておらず、骨端線も残存していることから、保存療法を継続しておりました。
この時点で肘関節の可動域制限もなく、痛みは全くありませんでした。
しかし、ご両親から小学生最後の野球をやらして挙げたいということで、最後の試合に出場を許可し、引き続き経過をフォローしました。
左のレントゲン画像は約1年後のものです。
赤色矢印で示した骨透亮していた部分は修復されていました。
子供さんは、中学に進学されており、いまは野球ではなくアメフトをしているとのことでした。
肘が完治したのでまた野球をしたいとおっしゃっていました。
以下では、実際に外側型野球肘から回復した患者さんをご紹介します。
9歳の男性です。硬式少年野球部のピッチャーです。
2~3週間前より、肘の内側の痛みを訴えて来院されました。
レントゲンを撮ってみると、
外側の骨の一部が透けて見えていることが確認できました。
御本人は肘の内側が痛いと言って来院されました。
検査してみると、確かに内側にも病変がありましたが、
実際には外側にさらに深刻な病変がありました。
いち早く病変が確認出来たので、
直ちに投球を休止して、経過を見ることにしました。
治療に入って5ヵ月後のレントゲン写真です。
痛みもなくなり、肘の外側にあった骨が透けていた像もなくなりました。
この時点で、野球の練習に復帰しました。
さらに月日がたって肘の確認をしました。
完全に元の状態に回復し、ピッチャーとして、現在、高校野球で活躍し、現在も大学で野球を頑張っています。
13歳の男性です。硬式少年野球の外野手です。
4日くらい前より、遠投練習の後に、肘の曲げ伸ばしがしにくいために来院されました。
左の外観写真は初診時のものです。
左のレントゲン画像は、初診時のものです。
左側の写真が患側です。
右側の健常な側の写真と比べると、青色矢印部分(肘の外側)に小さな亀裂が入っていて、軟骨部分が少し透けはじめていました。
治療開始後6ヶ月のレントゲン写真です。
骨の剥離が治っていることがわかります。
この時点で、野球の練習への復帰が許可されました。
外側型野球肘というと、深刻なイメージが確かにあります。
何が深刻な問題かというと、野球の練習に日々励んでいる子たちが
長期にわたって肘に負担をかけるような運動ができないことです。
できれば、医療者サイドも、早く肘を使う運動に戻ってもいいよと言ってあげたいのです。
患者さんにとっても、医療サイドでもこれがジレンマになります。
でも、完全に野球の練習をやめろと言っているわけではありません。
当院では以下のように考えております。
1、患部の肘を使わない運動ならばしても結構です!
野球自体を休まなければならないというわけではありません。
例えば、転がしたボールを痛くない方の手で返す(ゴロ捕球)とか、
片手(痛くない方の手)で軽いバットを持って素振りなどは行っていただいても結構です。
2、病院や整骨院に行くことだけが治療ではありません!
日頃から、(怪我をしたとわかった時点から)、肘に限らず肩や足腰のストレッチをこまめに行いましょう。
状態を確認するための定期検診は必ず行いましょう!
(痛みが取れたからといって、完治しているわけではありません。独自の判断で治療をやめることはお勧めできません。)
しかし、ちゃんとストレッチなどの日常のケアーを御家でしておられるのであれば、病院などへ常に通院する必要はありません。
3、わからないことがあれば、リハビリスタッフに御気軽にご相談ください。
親御さんが野球指導者側と治療者サイドの板ばさみになることもよく見受けられます。
そういう場合には、リハビリスタッフに御気軽にご相談ください。
治療中、すべてが駄目というわけではありません。
可能な限り、御説明させていただきますし、その時点での最善を考えて行きましょう!