歩くと脚がしびれて痛い!!(末梢動脈閉塞症:PAD)

脚がしびれたり、痛みをともなって歩くことが辛くなる疾患には、

坐骨神経痛や腰部脊柱管狭窄症などの腰椎由来の疾患の他に、

下肢の血管が原因となる場合もあります。

その代表疾患に、

末梢動脈閉塞症(以下PAD)(Peripheral arterial disease:PAD)があげられます。

このページでは、脚がしびれるという愁訴で来院される患者さんのために、

他の疾患と比較しながら末梢動脈閉塞症について

ご説明させていただきたいと思います。

PADの症状

上の図は、PADで痛みが生じる部位を示したものです。

PAD患者さんの訴えとして腓腹部に脚のつったような感じがあり、

これがある一定の距離を歩いた時に出現します。

そして、休息することにより症状が消失することが特徴です。

この症状を“間欠性跛行”と呼びます。

PADにおいては、この間欠性跛行が初発症状の70〜85%を占めているといわれます。

間欠性跛行には2種類あります

間欠性跛行には、その成因から神経性と血管性に分類されています。

上の図にあるように、

歩き始めてしばらくすると足の痛みやしびれ感が出てしまった時、

前屈みになると症状が楽になってしまうのは、神経性の間欠性跛行です。

その代表的疾患が、腰部脊柱管狭窄症です。

では、神経性と血管性の間欠性跛行の病態の違いはどこにあるのでしょうか。

上の左図は、腰部脊柱管狭窄症の病態です。

上記のように脊柱管周囲の靭帯や椎間板、骨棘などにより機械的圧迫を受けた

神経の栄養血管が虚血状態に陥り下肢の痛みが出現することになります。

一方で、右図のように血管性の間欠性跛行では、

根本に動脈硬化による血管の閉塞があります。

安静時では、血流が正常であったとしても、

歩くという運動負荷が加わることにより、

十分な酸素が筋肉に行き渡らなくなるため痛みを生じるのが

血管性の間欠性跛行の病態です。

ですので、姿勢による症状の軽減は認めません。

以下で、神経性と血管性の間欠性跛行の違いを表に示します。

PADの診断

・下肢症状の発現部位

上の左図は、血管性の間欠性跛行において発生する疼痛部位を示したものです。

閉塞部位にもよりますが、

主に片側性で腓腹筋部に限局する疼痛が発生することが

比較的多いとされています。

・下肢動脈の拍動を確認できる部位

上の図に示した、

下肢の動脈は拍動を確認することで血流が正常か否かの鑑別に有用です。

なかでも、後脛骨動脈の拍動が重要です。

以下に、各動脈の拍動を確認する方法を示します。

客観的評価

ABIによるスクリーニング検査

上の写真は、ABI検査を行っている場面です。

ABIは足関節部収縮期圧を上腕動脈収縮期圧で割った値をみています。

得られた数値は、足関節血圧比と呼ばれ正常では、

上腕よりも足関節血圧のほうが若干高いためABIは1.0よりやや高値となります。逆に0.9以下ではPADが疑われます。

以下で、ABIを用いた評価基準を示します。

治療の方針

PADの治療としては、薬物療法と並行して運動療法が有効です。

運動は末梢血管の血流を促す目的で歩行訓練がよいとされています。

方法としては、

痛みを我慢して無理に歩くのではなくて痛みが生じる前に一旦休憩をして、

再び歩くというような工夫をしながら行うと無理なくできます。

例えば、1000歩で痛みが生じるのであれば、

痛みが出る手前の約800歩で休憩をとって、

再び歩いてみるといった具合です。

このように、ご自宅周辺で簡単に行える運動療法が推奨されています。

重症度分類

PADには、重症度により分類されています。(Fontaine分類)

PADの症状には重症度があり、

なるべく重症化しないように経過をみていきますが、

以下に示す重症度分類で病期Ⅲ以上になると、

専門医(血管外科)を受診することをお勧めします。

87歳の男性です。

約5年前より、歩くことが少なくなり長時間の歩行が困難になり来院されました。

神経学的所見では、腰部脊柱管狭窄症の所見が見られたのでリハビリを継続されていました。

しかし、下肢のだるさと長時間歩行が困難になったため、下肢PADを疑ってABI検査を行いました。

左の動画は、下肢挙上負荷テストを実施したものです。動画では、色調の変化は分かりづらいですが、左下肢に症状の再現性がみられました。

上の写真は、ABI検査の結果です。

左下肢の測定値が、0.58と基準値の0.9を下回る結果となっています。

このことから、左下肢PADと診断をしました。

さらに、どの部位で狭窄を認めるかを、

確認するために下肢のMRAを撮影しました。

上の左図は、実際のMRA画像です。

左前脛骨動脈の箇所で著名に閉塞が認められ、

血行が途絶えているのが確認できます。(赤矢印の部分)

当日より、薬物療法を開始しました。

現在は、下肢のだるさは認めますが、日常生活では問題がないとのことです。

78歳の女性です。

左下肢のだるさを訴えて来院されました。約3ヶ月前より左大腿部の痛みが出現し、数日前から左下肢の冷感とだるさが強くなったそうです。

脚が痛くなって立ち止まって休憩をするとしばらくして再び歩けるようになるということから神経性の間欠性跛行は除外しました。

左の写真は、初診時のものです。

特に、外観上の問題は見当たりませんでした。

上の動画は、初診時の下肢挙上負荷テストです。

左下肢の色調の変化が認められます。

上の図は、ABI検査の結果です。

左下肢の数値が0.68と基準値の0.9を下回っています。

このことから、左下肢PAD(Fontaine分類Ⅲ)と診断しました。

また、どの部位で狭窄を認めるかを、

確認するために下肢のMRAを撮影しました。

上の左図は、実際のMRA画像です。

左総腸骨動脈での狭窄が認められます。(赤矢印の部分)

また、左下肢の前脛骨動脈、腓骨動脈、後脛骨動脈の箇所で、

血行の途絶えるのが確認できます。

日常生活での脚の痛み、左総腸骨動脈での狭窄が見られるため、

専門医へ紹介しました。

以上のように、

脚がしびれる、痛みが変わらないなどの症状から始まり、

間欠性跛行が見受けられる場合には、

腰椎由来の神経痛の他にも、下肢PADも疑われます。

整形外科外来で実施する様々な検査の中でも、

ABIは比較的簡単に実施ができるので、

お困りの方は近隣の整形外科にご相談ください。

PAGE TOP