橈骨骨頭(頚部)骨折(転倒して手をつき、肘が痛い!)

橈骨頭骨折は肘関節における骨折の一つです。

成人の場合、肘を伸ばした状態で、手をつき受傷することが多いのが特徴です。

このページでは、成人における橈骨頭骨折についての治療法などを実際の症例を踏まえてご説明したいと思います。

橈骨頭(頚部)ってどこのこと?

下の図は、右肘を正面から見たイメージ図とレントゲン写真です。

橈骨は上腕骨・尺骨とともに肘関節を構成し、肘関節の屈伸に際して支点となり、
尺骨ともに前腕の回旋に作用します。

橈骨頭は肘の外側にあり、この部分に骨折が起きると、
肘の屈伸や、前腕の回旋運動をしたときに痛みが生じます。

橈骨頭(頚部)骨折の分類

橈骨頭骨折は以下の分類により、治療法が異なってきます。

橈骨頭骨折の分類でtypeⅠは転位がほとんどない骨折で、保存療法の適応であると言われています。

typeⅡは転位のある骨折で、転位の程度にもよりますが、

徒手整復を行って整復位があられるようであれば、保存療法の適応があります。

typeⅢは橈骨頭の粉砕骨折あるいは、橈骨頚部骨折の高度な転位となり、この場合は手術適応であると言われています。

橈骨頭(頚部)骨折の画像所見

橈骨頭骨折は肘関節を伸展位で手をついて受傷することが多いと言われています。

肘関節に長軸方向の負荷あるいは肘外反負荷が加わり、橈骨頭が上腕骨小頭と衝突して発生すると言われています。

肘関節を中心に腫脹と疼痛が認められ、肘関節の屈伸動作および前腕の回旋運動で痛みが生じるため、可動域制限が認められます。

レントゲンでは、初診時の時点で、骨折がはっきりとわからなくても、

関節内骨折をうたがうFat pad signが認められることがあります。

以下の図で示したように関節内で骨折が生じると、血腫ができて、関節腔が大きく広がります。

その結果、関節の近くにあった脂肪体が前後に押し広げられます。

そのようになった状態でレントゲンを撮影すると、赤色矢印で示した部分に脂肪体を確認することができます。

このような現象を「Fat pad sign(脂肪体兆候)」と言います。

このサインが見えると、関節内骨折が疑われるので、初診時に橈骨頭の骨折がはっきりと確認できなくても、
橈骨頭骨折などを疑って処置を行う事が大切です。

橈骨頭(頚部)骨折の治療法

橈骨頭骨折の保存療法は先ほどの分類のところで述べたように、tipeⅠと tipeⅡでは保存療法が適応となります。

そこで、骨癒合を目的としてギプス固定を行うのですが、
こういった場合には、前腕の回旋運動の拘縮をきたしやすいという問題点があります。

そういう問題点を解決するために、当院では、下の写真のようなギプス固定を行う事で、
骨癒合を目指すと同時に、回旋運動の拘縮を最小限にとどめるような工夫をしております。

橈骨頭骨折のtypeⅠ型に関しては、上写真のように手関節を自由に動かせるようにし、

前腕を回旋させる運動ができるような固定が適応であると考えています。

また、typeⅡ型の骨折に関しては、転位の程度が軽度であると判断した場合には、
痛みを出さないために受傷後1~2週間は手関節を含めた固定を行い、
受傷後2~3週間後、痛みがなくなった時点で、上の写真のような動かせるギプス固定に変えます。

このようなギプス固定を「シリンダーギプス」と言い、

前腕の回旋運動を行う事によって、骨折部の回旋適合性と整復位が得られると言われています。

以下で、実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。

25歳の男性です。

左肘の痛みを訴えて来院されました。

昨日、アイススケートをしていて、後方へ転倒し、左手をつき受傷されました。

左の写真は、初診時の外観写真です。

肘関節が腫れているのがわかります。 

レントゲン撮影を行ったところ、
肘関節内で、骨折を疑わせる
Fat pad sign(黄色矢印の部分)が認められました。

レントゲンをよく見てみると、
赤色矢印でしめした橈骨頭部に骨折線が認められました。

転位がないため、シリンダーギプスによる固定を3週間行いました。 

左のレントゲンは受傷後3週間のものです。

赤色矢印で示した部分に骨折線が認められますが、
転位もなく、痛みが消失してきているので、ギプスシャーレに変更しました。

1週間は浴中での可動域訓練を行っていただき、
受傷後4週の時点で固定を完全に解除しました。 

26歳の女性です。

左肘の痛みを訴え、来院されました。

3日前、スノーボードをしていて転倒し、左手をついて受傷されました。

救急病院で、橈骨頭骨折と診断され、手術を勧められたそうです。

左の写真は、当院での初診時の外観写真です。

左肘に皮下出血と腫れが認められ、肘関節が完全に伸ばせない状態でした。 

左は初診時のレントゲン画像です。

赤色矢印で示した部分に骨折線が認められました。

転位の程度を確認するため、CT撮影を行う事にしました。

CT撮影で、赤色矢印で示した部分(橈骨頭)に
転位の無いタイプの骨折が確認されました。

骨折部の転位は見られないため、
保存療法の適応と考え、ギプスによる固定を行う事にしました。 

左の写真はシリンダーギプスによる固定の外観です。

シリンダーギプスの固定は、前腕部分を円柱状に丸くすることによって、
前腕の回内・回外を行う事が自由に出来るようになっています。

固定期間中は、患者さんご自身に、
適時前腕の回内・回外の運動を行ってもらうよう指導しました。

左のレントゲンは受傷後約2ヵ月のものです。

レントゲンで、骨折線は消失し、痛みも無くなり、
可動域制限も無く、治癒しました。 

62歳の女性です。

左肘の痛みを訴えて来院されました。

約3週間前、1mの高さのところから転倒し、左肘を打ち、受傷されたそうです。

近隣の整形外科を受診したところ、異常がないという事でしたが、前腕の回内・回外が痛くてできないという事で当院を受診されました。

左のレントゲンは初診時のものです。赤色矢印で示した部分(橈骨頭頚部)に骨折線が認められました。

転位が認められないので、シリンダーギプスによる固定を行いました。

左のレントゲンは初診時から1週間後のものです。

赤色矢印で示した部分の骨折部は安定していたので、
ギプスシャーレに変更しました。 

左のレントゲンは初診時から3週間後のものです。

骨折部の痛みは消失しており、仮骨も認められたため、固定を完全に除去し、可動域訓練などのリハビリを行っていただくことにしました。 

手術適応のある橈骨頭骨折

39歳の女性です。
左肘外側の痛みを訴えて来院されました。

4日前、歩行中転倒し、左肘をついて受傷されたそうです。

受傷当日、救急病院へ行き、簡易的な固定をしてもらったそうです。

左の写真は初診時のものです。
左肘周辺の腫れと、皮下出血が著明に認められます。

救急病院では、橈骨頭と診断されたそうです。

左の写真は4日前に救急病院で撮影したCT画像です。

赤色矢印で示した橈骨頭部に骨折が認められ、
手術適応である橈骨頭骨折のタイプ3であることがわかりました。

しかし、手術をしたくないということで、
保存療法を希望され、当院でギプス固定を行いました。 

ちなみに、左のレントゲン画像は当院にお越しになった時のものです。

レントゲンでは、骨折部は左の写真で赤色丸印で囲んだように見えます。

左のレントゲン画像は受傷2ヶ月後のものです。

赤色丸印で示した骨折部分は、骨癒合しており、
肘関節の可動域制限もほぼ消失していました。

手術適応といわれる骨折タイプでも、
保存療法で骨癒合を得ることができ、生活上の支障もなく、
患者さんも、大変喜んでおられました。 

橈骨頭骨折は比較的肘関節に多くみられる骨折ですが、
初診時のレントゲンではっきりとわからない場合もあります。

骨折を疑うような症状やレントゲンによるFat pad signなどがあれば、
橈骨頭骨折も念頭に置いて治療に当たることが大切です。

橈骨頭骨折は骨癒合が得られやすい骨折であるので、ギプス固定をすることで治ることがほとんどです。

しかし、固定が長期に及び、機能的な障害がなるべく残らないように、工夫することも大切です。

当院の治療法にご関心がありましたら、一度ご相談ください!

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