高齢者の方で、運動機能が落ちて、あるとき転倒し、脊椎圧迫骨折を起こす場合があります。
もともと腰の痛みがなかった方でも、一度脊椎圧迫骨折を起こしてしまうと、
それまでなかった転倒に対する恐怖感が非常に強く感じられて、
あまり身体を動かそうという気持ちにならなくなってしまう場合があります。
その結果、足の筋力が低下してしまって、身体を支える力が弱くなってしまうという悪循環に陥ってしまいます。
そこで、このページでは、再び元の活動意欲を取り戻していただくために、
脊椎圧迫骨折後の方でも取り組んでいただけるトレーニングをご紹介します。
脊椎圧迫骨折になると、どんな身体の変化が起こるのでしょうか?
脊椎圧迫骨折の受傷後は、円背姿勢が生じてしまうため、自然と骨盤の傾きが変わってしまいます。
その結果、腰への負担も強くなり、さらには、膝を曲げて姿勢を保とうとするので、身体全体のアライメントは狂ってきます。
上の左図にあるように、脊椎圧迫骨折が生じた場合、
背中が丸く見えて、脊柱のアライメントが後方に弯曲します。
その姿勢を保ちながら、まっすぐ立つためには、
膝を軽く曲げて、調整しているのがわかります。
一椎体だけに、圧迫骨折が生じている場合、
外観上はさほど背中は曲がっていません。
しかし、脊柱のアライメントを支えようとして、脊柱起立筋には負担がかかってきます。
そこで、台所で立ち仕事をする際には、
シンクに寄りかかるなどして、身体を支えるような工夫が必要になってきます。
さらに、多数の椎体で圧迫骨折が生じてきた場合には、
胸郭が圧迫されるので、風邪を引きやすくなったり、
内臓が圧迫されることで、胃腸障害が生じたりします。
さらに、脊柱起立筋は、緊張を強いられることになり、
筋肉の過緊張によって、腰背部痛が生じてくることになります。
日常生活では、背もたれのある椅子に座ると楽になり、
少し前屈みになるので、歩行器や、押し車などを使って移動すルほうが、楽になります。
脊椎圧迫骨折後の運動のポイント
脊椎圧迫骨折後の運動の考え方
上の図にあるように、いったん圧迫骨折が生じてしまうと、転倒の恐怖感から外へ出たりすることが減り、
足の筋肉が弱くなってしまいます。
すると、身体を支える筋肉自体も弱くなってしまい、
結果として、姿勢が変わってしまいます。
その状態が長く続くと、腰や背中の痛みが増強し、
ますます活動力が低下してしまいます。
このように、一つの脊椎圧迫骨折から、悪循環に陥ってしまい、身体全体の活力が低下してしまいます。
そこで、その悪循環を断ち切るためには、足の筋力強化が必要です。
すると、身体自体の動かし方が、変わってきて、腰を支える筋肉も自然と力が入るようになってきます。
脊柱を支える筋肉は、過度に緊張していた状態から徐々に解きほぐされ、
腰や背中への負担が軽くなります。
結果として、腰や背中の痛みが和らぐことにつながります。
このように、足の力をつけることが身体全体の活力が高まり、
日常でできることは増えることにつながります。
足の力をつけるトレーニングは、他のページを参考にしてください。
ここでは、腰や骨盤の運動についてご説明します。
腰・背部痛の予防および機能改善のポイント
1,脊椎と、骨盤の動きを柔らかくする。
2,脊椎の安定感を増すようようにする。
3,立位姿勢を、なるべく正しい方向に持って行く。
運動の実際
1,脊椎と、骨盤の動きを柔らかくする運動
まず、椅子に座ってできるストレッチをご紹介します。
脊椎周囲の筋肉が硬くなると、後ろへ振り向くときに、余計なストレスが脊椎にかかります。
あらかじめ、筋肉を柔軟にしておくために、体幹をゆっくり捻るストレッチをおすすめします。
また、腰椎への負担を軽減する目的で、ハムストリングスを伸ばすストレッチも有効です。
ハムストリングスは骨盤に付着している筋肉なので、この筋肉を柔軟にすることで、骨盤の動きが柔軟になります。
座った姿勢で、背中を丸めることで、骨盤が後傾します。
同時に、脊柱の起立筋がゆっくりと伸ばされ、ストレッチができます。
また、椅子の後ろに手を回して、胸郭を広げるストレッチは、骨盤が前傾するので、骨盤の動きを柔らかくすることになります。
四つん這いになって、おなかをへこませる動作は、先にも述べた、椅子に座ってするストレッチと同じです。
しかし、大きく息を吐きながら、おなかをへこませることが、ポイントです。
逆に、息を吸いながら、おへそをマットに近づけるような動作も、骨盤と脊柱を同時に動かして、ストレッチをすることができます。
以上のように、座ってストレッチを行っても良いですし、余裕のある方は、布団の上でこの写真の様なストレッチを行ってみてください。
さらに、立ち膝姿勢ができる方は、骨盤を左右に傾けたり、大きくゆっくり回してみるなどの運動をしてみてください。
痛みが出ない範囲で、ゆっくり骨盤を動かすことで、座るときの姿勢や、立っているときの腰のアライメントが安定する様になります。
2,脊椎の安定感を増すようにするトレーニング
上の写真の様に、うつぶせに寝て、あごを引いた状態を保ちながら、両肘と、両つま先の4点で身体を支えます。
主に、副横筋の筋力強化につながります。
結果として、腹筋の作用で、腹圧が高まり、脊柱の安定につながります。
上の写真で、四つん這いになって片手片足を伸ばしている場面では、脊柱起立筋の筋力強化と同時に、腹筋の収縮も促しています。
このように、腹筋と背筋の両方を同時に使うことで、立位の姿勢の安定化につながります。
上の写真の姿勢がつらい方は、お尻を上に上げるなどや、おへそをのぞくといったトレーニングをしていただくと、身体への負担が軽く、トレーニングができます。
円背姿勢が元々ある方の場合は、おなかの下にクッションなどを入れて、背中を円めた状態から、身体が床と水平になるぐらいの姿勢を保ちます。
その際、目線は、床を見るようにして、あごを引きます。
そうすると、背中が反ることなく運動ができます。
3,立位姿勢を、なるべく正しい方向に持って行くトレーニング
上の写真の左側は、おへそを上に出すようにして、骨盤を前傾させています。
一方、右側は、おなかをへこませて、背中をマットにつけるようにして、骨盤を後傾させています。
このようにして、骨盤の動きを誘導するように練習します。
上の写真は、骨盤の動きを意識しながら身体を動かすと同時に、ストレッチングも兼ねています。
両膝を抱えるように、身体を丸めることで、骨盤周りの筋肉のストレッチングになります。
さらに、膝の裏に手を当てて、片足を伸ばしながらあげていくと、お尻と太ももの後ろを伸ばすので、腰への負担を軽くすることにつながります。
また、片膝をかかえて来ることで、お尻の筋肉を伸ばすと同時に、反対側の股関節周囲の筋肉を伸ばすので、腰への負担を軽減することにつながります。
これらの運動は、本来持っている腰椎の生理的弯曲に近づけるような効果をもたらします。
脊椎圧迫骨折後の姿勢を完全に元に戻すのは大変難しいことです。
しかし、一旦崩れてしまった脊柱のアライメントは、無理なく運動することで、ある程度元に近い形になってきます。
転んで、つらい思いをされたと思いますが、再び元の生活が楽しくできるように、地道に運動を続けて行きましょう!