転んだり、どこかの角に胸を打ちつけてしまって、痛くてたまらない思いをされたことはありませんか?
「これはあばら骨(肋骨)が折れているかもしれない」と思って、病院へ行ったら、
レントゲン検査をして、「肋骨は折れていませんよ」と言われたことはありませんか?
患者さんからしてみれば、こんなに痛いのに「骨折していません」と言われたら、腑に落ちないのではないかと思います。
そこで、このページでは、どうしてそんなことが起こるのかということを中心に、御説明させていただきたいと思います。
胸郭の構造
上の図は、肋骨と胸骨、そして脊椎で構成される胸郭を示しています。
籠のように、とり囲まれた中の部分は肺や心臓をはじめとする内臓が入っています。
後ろから見た図では、胸郭の上に肩甲骨が乗るような形で存在します。
12本ある肋骨のうち、11番目と12番目の骨は「浮肋」と呼ばれて、前側の軟骨に連結していないので、自由度があります。
肋骨骨折の受傷機転
外力が直接かかり、骨折する場合。
外力が側方からかかり、胸側、
または、背中側で折れる場合。
外力が胸側、または背中側からかかり、
別の場所で骨折が起こる場合。
上の図は胸郭を輪切りにした図です。
肋骨骨折は、その形状から、様々な受傷機転で起こります。
一箇所の骨折にとどまらず、複数の骨折がこる場合もあります。
症状としては、肋骨部の強い圧痛、深呼吸や咳、くしゃみなどで胸郭が動いたときに痛みが増強します。
肋骨骨折がレントゲンで写りにくい理由(その1)
上の図で御覧いただいたように、肋骨は胸郭の一部であるので、
その部分のレントゲンを撮るために、1つの骨だけを写すことは困難でることが御理解いただけると思います。
実際には、以下のようになります。
上の図で、示した赤い丸の部分が仮に骨折していたと考えた場合、
胸の正面からレントゲン写真を撮ると、画像では骨が重なって見えるために、
骨折部分がはっきりと見えません。
これが、肋骨骨折がレントゲン写真で見つけにくい理由の一つです。
肋骨骨折がレントゲンで写りにくい理由(その2)
上の図は、肋骨骨折が起こったときと、受診時の肋骨の形状の違いです。
受傷した直後は、その外力によって、形状的にずれが生じています。
しかも、骨折の直後は、痛みが比較的軽度であるので、多少のずれがあっても、
病院へ行くほどでもないと思って放置してしまいがちです。
しかし、骨折していると、数日後に痛みが増強して、いよいよ受診しようという時には、
右側の絵のようにずれていた骨折部が整復されていて、正しい形と見分けがつきにくくなっているのです。
以上のような理由で、肋骨骨折は発見しにくくなるのです。
では、発見する方法はないのでしょうか?
肋骨骨折の発見方法
上のエコー画像では、赤矢印で示した先に、骨折して少しずれている肋骨の映像が写っています。
エコー検査の有用性としては、圧痛部位で確実に骨折像を描出できるという点があります。
また、何よりも患者さんが御自分の病態について、
エコーを見ていただくことで御納得いただけるということが利点として挙げられます。
では、以下で実際の患者さんについて御覧いただきたいと思います。
74歳の男性です。
腰の痛みを訴えて来院されました。
思い当たる原因がなく、痛み始めて、
なかなか痛みが引かないので来院されたそうです。
腰椎のレントゲンでは、変形性腰椎症の所見があり、
胸椎は過去に圧迫骨折があったことがわかります。
リハビリや、投薬などで経過を見ていました。
しかし、痛みが変わらず、
背中の付近の痛みも訴えておられたので、
胸椎部のレントゲンを確認しましたが、
特に異常はありませんでした。
再び痛む箇所を確認したところ、脊椎部ではなくて、
背部の肋骨に沿って圧痛がありました。(赤色矢印で示した部分。)
胸部のレントゲンを撮ったところ、
肋骨骨折が見つかりました。
(緑色矢印で示した部分。)
このように、原因がはっきりとわからず、
肋骨骨折が起こる場合もあります。
高齢の方の場合は、
咳やくしゃみ、物を持つ時など、
ちょっとしたきっかけでも注意が必要です。
61歳の男性です。
来院される2日前に、胸の痛みを覚え始めたそうです。
打撲などの外傷の記憶はありません。
痛みのある個所を確認するために、
レントゲン写真を撮りましたが、肋骨骨折は見当たりませんでした。
しかし、訴えておられる症状から、肋骨骨折が疑われたので、
エコーで確認してみることにしました。
すると、エコー画像の赤矢印で示した部分に、
骨折による肋骨のずれが確認できました。
処置として、バストバンドを処方し、
肋骨骨折による痛みを緩和することにしました。
68歳の男性です。
左胸の痛みを訴えて、来院されました。
当初、御本人は打撲だと思ってそのまま放置しておられましたが、10日たっても痛みが続くために、心配になって来院されました。
その時点でのレントゲン写真では、
明らかな骨折は見当たりませんでした。
しかし、症状から肋骨骨折を疑って観察していました。
レントゲンを撮った日から10日後に、
まだ痛みが引かないため、圧痛部位のエコーを撮ってみることにしました。
すると、圧痛のある肋骨上に、仮骨を疑う画像が確認できたので、(赤色矢印の先の部分。)肋骨骨折であったのだとわかりました。
24歳の男性です。
右胸の痛みを訴えて来院されました。
約3週間前から、特に思いあたる原因がないのに痛みが出たとのことです。
週に2回、バスケットボールをしておられて、ボディーコンタクトが多いので、
その際に、受傷した可能性もありました。
そこで、肋骨骨折を疑って、まずレントゲンを撮ってみましたが、何も写っていなかったので、エコーを撮ることにしました。
エコーを撮ってみると、赤色矢印の先の部分に仮骨の形成を疑う所見がありました。
ですので、肋骨骨折であったのだと判断しました。
肋骨骨折はその症状から十分に疑うことができますが、
それを立証するためにレントゲンを撮ってもわからない場合が多々あります。
ですが、今回のページを御覧いただいて、どうしてそういうことが起こるのか御理解いただければ幸いです。
また、御自分も同じような症状がある場合には、肋骨骨折も疑ってみることをお勧めいたします。