滑液包炎については、先のページで皮膚と固い骨の間で生じる疾患であることを説明してきましたが、
お尻の近くの骨で滑液包炎が生じることもあります。
診察時には、患者さんが「尾骨痛」として来られますが、
よくお話を聞いてみると、尾骨部分や坐骨での滑液包炎が生じていることがあります。
このページでは「仙骨・坐骨滑液包炎」とは,
どこでどのような症状が生じるのかということについて御説明します。
仙骨は腰椎の土台となる骨で、その先の部分は尾骨と呼ばれ、尻尾のようになっています。
上の図で示した青色の印の部分が痛みの出る箇所です。
ですので、この症状の患者さんは「尾骨が痛くなった」と思っておられる方が多いのです。
この部分は座った時にちょうど椅子や床にお尻が当たる部分です。
長時間座り続けると、硬い骨と皮膚の間で炎症がおきて、
仙骨や坐骨の滑液包炎が起こります。
以下で、簡単なご説明と、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
仙骨滑液包炎
この図は尾骨の部分をいろんな形状に分類したものです。
大きく4つに分類されていて、Type2、Type3は尾骨と仙骨の間で鋭く曲がった形状をしています。
Type4は尾骨の部分で関節が亜脱臼している状態になっています。
実際に研究された報告によると、尾骨痛を訴えた患者さんの中では、Type2~Type4の形状をした方の割合が健常な方と比べて多い傾向にあったと報告されています。
実際の患者さんの例をご紹介します。
大学生の女性の方ですが、毎日6時間ぐらいパソコン入力をされていました。
1か月前から、ソファーや電車の座席などに座ったときに、お尻が椅子にふれると痛みを感じておられました。
実際に痛い場所を確認するために座っていただくと、後ろにもたれるようにすると、↑の先の部分に痛みがありました。
レントゲンを撮ってみて、ちょうど座っている形状に合わせてみます。
赤い水平線が床とすると、赤↑の先に尾骨が当たっていて、骨と床の間に皮膚が挟まった格好になっています。
痛みの原因は、尾骨と床に圧迫された部分で滑液包炎がおこり、その部分が炎症をおこして痛みが出たのだとわかりました。
ですので、尾骨部に体重がかからないように、座布団を敷いたり、座るときには後ろにもたれかからないような姿勢にすることを指導しました。
こんどは、別の患者さんのレントゲンです。
この方は尻もちをついて、尾骨部の痛みを訴えられて、来院されました。
この写真は初診時のレントゲンです。
赤矢印の先に若干骨がずれている映像が見えます。
そこが受傷当初は痛みがあり痛みがあり、そこに体重がかからないようにするように指導しました。
ところが、4カ月後に再び痛みを訴えて来院されました。
4か月前のレントゲンと比べてみると、矢印の先の骨の部分が深く曲がっているように見えます。
↑の先の尾骨関節部分で屈曲変形した部分が椅子などにふれると痛みが生じていることがわかりました。
結局、変形屈曲した尾骨と床に挟まった部分で炎症が起き、痛みが生じているのだとわかりました。
ですので、椅子やソファーに深く座ることは避けて、座布団などをひいて、痛みのある部分が直接椅子などに当たらないように指導しました。
こんどはまた別の患者さんです。
この方も強く尻もちをついて、尾骨部の痛みを訴えて御来院になりました。
レントゲンを撮ってみると、ちょうど仙骨と尾骨の移行部付近で骨折をし、変形していました。
痛みは強かったのですが、経過を見ているうちに徐々に良くなっていったので、特別リハビリなどをすることもなく、様子をみてもらっていました。
ところが、2カ月後に再び痛みを覚えて御来院になりました。
2カ月後に痛みを覚えるということで来院された時のレントゲンです。
御本人にしてみれば、2か月前に骨折した所がまだくっついていないのではないかと心配しておられましたが、骨折部分は骨癒合が見られました。
しかし、痛みが続く理由はどうしてかというと、お仕事上で、どうしても座ることが多く、後ろにもたれかかる姿勢で長時間座っておられたそうです。
そういう事情で、尾骨と椅子との間に挟まって圧迫を受けた部分で滑液包炎がおこり、痛みが生じたのだとわかりました。
ですので、座り方を変え、座布団などをつかって、痛みのある部分が椅子などに直接当たらないように指導しました。
坐骨滑液包炎
72歳の女性です。
3日前に、座ると左側のお尻に違和感を感じたそうです。
家族の方に、見てもらうと腫瘤のようなものがあるということで、来院されました。
この写真は初診時のものです。
赤色丸印で示した左の坐骨部に腫瘤のようなものが確認できました。
また、皮膚の鏡面の色は少し黒ずんでおり、座っているときに、この部分が当たっているのだということがわかりました。
腫瘤が何であるのか調べるために、エコー検査を行うことにしました。
この写真はエコー画像です。
写真で見られる黒い部分が、腫瘤の部分で、波動性のある液状のものが確認できました。
座ることで、当たって痛みが出るとのことでしたので、坐骨の滑液と考え、注射で穿刺しました。
赤褐色の液が確認でき、腫瘤が小さくなり、痛みが消失したとのことでした。
以上のように、仙骨・坐骨部での滑液包炎は、
座り方の指導をすることで治ってしまいます。
逆にやわらかい座面が良いからといって、
ソファーなどにもたれかかってしまうと、
かえって尾骨先端部分に体重がかかり、
尾骨とソファーの間の部分に圧迫が強くかかります。
また、最初は尻もちをつくとか、お尻を打ったとかという原因があることが多いので、
痛みが再発したり、長引いたりすると不安に思われることが多いものです。
尾骨骨折して痛みが再発したとか、
お尻の痛みがなかなかとれないなどや、座っていてお尻が痛いという場合には、
一度「仙骨・坐骨滑液包炎」を疑ってみてください。
また、そういう場合には、
なかなか相談しにくい部位ですが、
一度整形外科を受診されることをお勧めします!