長時間同じ姿勢が続いて、足に床あるいは靴などの圧迫が続くことで、
足の甲あたりから先がしびれるとき、「浅腓骨神経麻痺」を疑います。
上の写真は、実際の患者さんのものです。
斜線部分にしびれ感が出ています。
上の図は、足首を前から見て、少し内側へ捻ったような姿勢になったときのものです。
浅腓骨神経は前のページにも述べた総腓骨神経が枝分かれしたものです。
下腿の中を通って、下へ降りてきた浅腓骨神経は、足首の前あたりで中間足背神経と、内側足背神経にさらに枝分かれします。
上の図で示した赤い丸で囲んだ部分で、浅腓骨神経は圧迫されることが多いといわれています。
この神経は、足の甲から足指の上側の感覚をつかさどっています。
ですので、その部分でしびれ感が出ている場合には、この疾患が疑われます。
上の図は、足首を内側へ捻ったような姿勢になっていますが、この場合、
距骨の角で浅腓骨神経が一時的に下から押し上げられて伸びてしまい、足がしびれる場合もあります。
では以下で、実際の患者さんについて御覧いただきたいと思います。
〜症例1〜
16歳の女性です。
テニス部の練習中に右足首の捻挫をしたため、テーピングをしていましたが、その後、足のしびれと痛みが強くなったので来院されました。
見て見ると、捻挫の腫れは軽かったのですが、足のしびれる範囲が足の甲にまでおよび、それが一番つらいということでした。
赤矢印で示したところをたたいたら、足首の前の方から足背部まで響き、違和感が生じました。
以上の所見から、テーピングによって浅腓骨神経の出口付近を圧迫したことが原因でおこった浅腓骨神経麻痺であると考えました。
また、捻挫をした際に、距骨の角で皮神経が伸ばされた可能性も考えられました。
そこで、治療としては、しばらくは患部周辺を圧迫しないように指導することで、神経が回復していくことを待つこととしました。
〜症例2〜
48歳の男性です。
3か月前より右足関節の腫瘤と足の甲の痺れ感が出現し、仕事中に痛みを覚えたため、近くの別の病院を受診されましたが、腫れや痛みがとれないため、当院へ来られました。
診て見ると、外くるぶしのやや前面に胡坐だこと思われる滑液包炎がありました。
また、赤矢印で示した部分をたたくと、足の甲の斜線部までひびきました。
以上のことから、皮下滑液包炎と浅腓骨神経麻痺であると考えました。
レントゲンでは、特に骨の異常所見はありません。
別の角度から撮った写真でも、明らかな異常所見はありませんでした。
今回の原因を考えるために患者さんにおたずねしたところ、普段の生活では、胡坐をかくことが多く、お仕事では造園業のため、作業靴は特別なハイカットシューズを履いておられるという事でしたので、以上の理由から、胡坐によって皮下滑液包炎が徐々に進行したものと考えました。
また、靴による圧迫が浅腓骨神経麻痺の原因であると考えました。
治療としては、滑液包に溜まった液体を注射によって抜いて、さらに胡坐をかくときに、患部がすれないように指導しました。
また、靴についても、靴紐を強く締めることによって、足の甲が圧迫されないように指導しました。
〜症例3〜
21歳の女性です。
1週間前から、足指がしびれることに気がついていましたが、毎日長時間の立ち仕事をしておられるため、我慢しておられました。
ところが、いよいよ仕事中痛くて我慢できないため、来院されました。
こちらの写真にあるように、赤矢印で示したところをたたいたら、親指の斜線部分に痛みがでました。
同時に、右足の小指も同じようにしびれ感があり、赤色矢印の部分をたたくと小指の斜線部に痛みが出ました。
レントゲンを撮ってみると、明らかな骨の異常はありませんでした。
次に、実際に日ごろ履いておられる靴を履いてもらって、しびれが出る状態を再現していただきました。
すると、サンダルのひもの部分が親指の付け根と小指の付け根を圧迫していました。
それが原因であろうということで、浅腓骨神経麻痺であると考えました。
原因となるサンダルを履いた状態でレントゲンを撮ってみますと、ひもが関節の上にかかっていて、圧迫する状態になっていることがわかりました。
ヒールが高いので、より前重心になるため、親指の付け根あたりにかかる圧迫が強くなることがわかりました。
原因が、サンダルにあることがわかったので、サンダルを履くことを中止していただき、様子をみていただくことにしました。
浅腓骨神経麻痺は、足の甲あたりの感覚をつかさどる神経なので、
麻痺が生じたといっても足指が動かなくなったり、筋肉が痩せるなどの症状は出ません。
しかし、しびれる原因が腰からの神経が原因であるといわれたり、
足の先の血流障害であると疑われたりすることもあるので、
浅腓骨神経麻痺であることが見逃される場合があります。
浅腓骨神経麻痺の場合、靴に由来することがありますので、
履物にも注意を払ってみていくことが重要です。
足がしびれるという症状がある方は一度御相談ください!