肩鎖関節脱臼(肩鎖関節脱臼を手術をしないで治すには?)

ラグビーや柔道などのコンタクトスポーツに多い外傷の一つに「肩鎖関節脱臼」があります。

これは、相手選手と接触し、転倒した際に、肩を直接地面に打ち付けてしまった際に起こると言われています。

肩鎖関節脱臼はそのグレードによって手術療法を選択する場合がありますが、
固定の方法を工夫することで、手術をしなくても治すことができ、スポーツへの復帰も可能な場合もあります。

このページでは、当院で実際取り組んだ、手術をしないで肩鎖関節脱臼を治した事例について

ご覧いただきたいと思います。

肩鎖関節脱臼とは?

肩鎖関節脱臼とは、外傷によって肩関節の一部を構成する肩鎖関節が正常な位置から逸脱してしまう

事をいいます。

上の図は、肩関節を前方から見た図です。

赤い丸で囲んだ部分が肩鎖関節です。

この関節は肩鎖靭帯でつなぎとめられていて、中に関節円板も存在します。

可動性は少ないですが、腕を上げるときに大切な役割を持つ関節です。

肩鎖関節は肩甲骨と鎖骨で構成されていますが、脱臼が生じた場合、

鎖骨が上方へ移動することにより、烏口鎖骨靭帯にまで影響が及びます。

結果として、肩鎖関節脱臼が起こると、肩甲骨と鎖骨周辺の構成バランスが崩れてしまうのです。

上の写真は、肩鎖関節脱臼が生じた直後の患者さんの外観です。

赤矢印の先で示したところに、段差が生じていることが確認できます。

上のレントゲン写真は、同じ患者さんのものですが、
赤矢印の先で示したように、鎖骨が上方へ移動して、肩峰と鎖骨の間でずれが生じていることがわかります。

これが肩鎖関節脱臼の特徴的な画像所見です。

肩鎖関節脱臼の分類

肩鎖関節脱臼の代表的な分類に以下のものがあります。

(Rockwood分類)

TypeⅠ

鎖骨の上方移動は見られず、
圧痛が肩鎖関節のみに限局したもの。

TypeⅡ

肩鎖靭帯が断裂し、肩鎖関節脱臼の亜脱臼が生じたもの。同時に、烏口鎖骨靭帯の部分断裂が生じている。

TypeⅢ

肩鎖関節脱臼が完全に脱臼し、同時に烏口鎖骨靭帯が完全に断裂したもの。

上記の分類に基づいて、治療方針を考えていきます。

TypeⅠと、TypeⅡについては、三角筋での固定とリハビリをすることで治ります。

ただ、TypeⅢについては、手術をしないで治療するか否かで議論が分かれています。

当院では、手術をしない方法での治療を主として行っています。

当院で行っている固定療法

上の写真は当院で用いている肩鎖関節脱臼に対する固定バンドです。

鎖骨の上部を軽く押さえこんでいるので、

腕をつりさげている状態でも肩鎖関節の整復位を保つことができます。

取り外しが可能なので、衣服の着脱や、軽い入浴もできます。

上の写真は装具を装着する前と、装着後の違いを見たものです。

装着前では、赤矢印の部分で階段状の変形が見られますが、

装着後では青矢印の部分で段差が軽減していることがわかります。

このように固定を行う事で、できるだけ元の位置に近づけ、痛みをとっていきます。

痛みが軽減してくれば、徐々に肩関節の拘縮がでないように運動療法を行います。

上の運動療法のメニューは実際に当院で行った患者さんのリハビリの内容です。

患者さんの回復状態に合わせてメニューを変えていきます。

では、以下で実際の患者さんについてご覧いただきたいと思います。

39歳の女性です。

右肩の痛みを訴えて来院されました。

滑って転倒し、右肩を強打し、受傷されたそうです。

レントゲン撮影を行ったところ、右肩鎖関節脱臼の3度損傷と診断されました。

左のレントゲン画像で、赤い矢印の部分で肩鎖関節脱臼が起こっているのがわかります。 

また、鎖骨と烏口突起の距離を左右見比べてみても、
右側の赤い部分が左に比べて長く、
烏口鎖骨靭帯の断裂も起こっていることがわかります。

手術をせずに治療するため、
肩鎖関節の部分を圧迫したまま固定できる肩鎖関節バンドを装着しました。 

この肩鎖関節バンドを装着した状態で5日後にレントゲン撮影をしたところ、

鎖骨の上方への移動が軽減していることがわかります。(青色矢印の部分)

当院ではこのように肩鎖関節バンドを使用して治療を行っています。

26歳の男性です。

右肩関節の痛みを訴えて来院されました。

サッカーの試合中、相手選手と接触し、右肩を強打し受傷されました。

プレー続行不能となり、救急病院を受診されました。

左の写真は、受傷直後の外観写真です。

赤い矢印の部分で、著明に階段状の変形が見られます。 

翌日、他院へ行き、肩鎖関節バンドを処方されました。

しかし、手術を勧められたため、当院へ来られました。

受傷後3日後に、当院へ来られました。

左の写真は当院での初診時のものです。

肩鎖関節バンドをしていたためか、
受傷直後と比べて階段状の変形が軽減していることがわかります。

装具装不装着時と装具装着時の比較を行ったレントゲン写真です。

装具装着時の方が鎖骨と烏口突起の距離が縮まり、
肩鎖関節がより正常な位置に近くなっていることがわかります。

経過としては、受傷後2週間で痛みが軽減したため、

肩鎖関節バンドを除去し、三角巾だけで生活をしておられました。

受傷後3週間経過した時点でのレントゲン写真です。

固定を外した状態でレントゲンを撮影したところ、
完全にとは言えませんが、
鎖骨の上方への移動が軽減していることがわかります。

実際に、レントゲン画像では肩鎖関節の脱臼は残存していますが、

運動療法を行う事で、左の写真のように可動域は改善していきました。

どのような運動療法を行ったのか、
以下で簡単にご説明したいと思います。 

肩鎖関節脱臼のリハビリは破たんした鎖骨と肩甲骨の連動した動きを再獲得することにあります。

そういった目的意識で取り組む運動が以下の写真の運動になります。

まず、左の写真の運動は肩甲帯周囲筋運動の一つです。

ゴムチューブを両手で持ち、真ん中あたりを両足で踏み、
肩を上げ2~3秒キープした後、もとへもどすことを繰り返し行います。

20回ぐらいを目安に行います。

回数や強度は患者さんの状態によって変えていきます。 

左の写真の運動も肩甲帯周囲筋運動の一つです。

簡単に言うと、肩甲骨を使った腕立て伏せです。

バランスボールに手をつき、腕立て伏せをします。

その際、肘を曲げずに、肩甲骨を上下させて腕立て伏せを行います。

10回ぐらいを目安に行ってください。

左の写真は神経筋協調運動の一つです。

神経筋協調運動とは、自分の肩の感覚を取り戻すための運動です。

軟らかいボールなどを使って、手元でボールを押したり、
円を描くように回したりして、固有感覚受容器を刺激します。 

左の写真は肩のインナーマッスルのトレーニングの一つです。

肘関節を90度曲げ、固定したチューブを青矢印の方に少し引っ張ります。

これを繰り返しますが、脇を開けずにこの運動を行う事がポイントです。

この患者さんの場合、
手術をしないで、約2ヵ月でスポーツへの復帰を果たしました。 

当院では、なるべく手術をしないで肩鎖関節脱臼の治療を進めています。

先ほど紹介したスポーツ選手の場合でも、機能的にも問題なく、患者さんご本人も満足していただいています。

入院しなくてもいいので、固定はしていますが、仕事もできますし、

日常生活もできるというメリットがあります。

肩鎖関節脱臼の治療として、こういった選択肢もあるという事を参考にしていただけれればと思います。

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