変形性関節症といえば、膝や股関節に発生する頻度が高いことで、知られていると思います。
しかし、頻度は多くありませんが、手関節に生じる場合もあります。
今回このぺージでは、変形性手関節症の原因や病態などを詳しくご説明していきたいと思います。
手関節の構造
手関節とは、以下の図で示すように、橈骨・尺骨と舟状骨や月状骨などの8個の手根骨から構成されています。
一般に、手首といわれる部分は、橈骨と舟状骨、月状骨の関節の部分です。
変形性手関節症とは、この部分で変形が生じていきます。
以下は、SLACwristと呼ばれる変形性手関節症の病期分類です。
stage1は関節症変化が舟状骨遠位と、橈骨茎状突起間に限局するもの(赤矢印)、
stage2は関節症変化が橈骨・舟状骨関節全体に及ぶもの(赤矢印)、
stage3では、関節症変化が手根中央関節にも広がるが、橈骨・月状骨関節には関節症変化が生じていない(赤矢印)ものをいいます。
SLACwristとSNACwrist
変形性手関節症には、SLACwristとSNACwristがあります。
SLACwristは一般的にいわれる変形性手関節症のことで、
特徴として、関節症変化が橈骨・舟状骨関節に発生し、
次に有頭骨・月状骨関節に進行していきますが、橈骨・月状骨関節は温存されています。
SNACwristとは、変形性手関節症に変わりはありませんが、
発症の原因として舟状骨骨折の偽関節が原因で生じたものをいいます。
以下は、SLACwristとSNACwristのレントゲン画像です。
SLACwristのレントゲン画像では、赤色矢印の部分で舟状骨遠位と橈骨茎状突起間に関節症変化(骨硬化像)が見られます。
SNACwristのレントゲン画像では、赤色矢印の部分の舟状骨が偽関節となっていることがわかります。
このようなレントゲン画像が見られ、症状として慢性の手関節痛や、
腫脹を手関節の可動域制限、握力低下などが認められた場合、
変形性手関節症であると考えられます。
治療は、症状が軽度であれば、手関節を固定する装具を装着します。
しかし、保存的治療を数カ月継続しても、症状の改善がなく、
生活やお仕事で支障がある場合には、手術的治療を行う場合があります。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
SLACwrist
45歳の男性です。
右手関節の痛みと、腫れを訴えて来院されました。
こちらのレントゲン画像は初診時のものです。
痛みを訴えている右手関節を左手関節と見比べてみると、赤色矢印で示した部分に骨硬化像と、舟状骨、月状骨の変形が認められました。
変形性手関節症であるSLACwristであることがわかり、手関節の制動を目的に手関節の装具を作成しました。
SNACwrist
70歳の男性です。
左手関節の痛みと腫れを訴えて来院されました。
2週間前より、痛みがあり、2日前に釣りをしてから痛みが強くなったそうです。
痛みのため、夜目が覚めるそうです。
こちらの写真は、初診時の外観です。
赤色×印で示した部分に、痛みを訴えておられます。
こちらの写真は手関節を横から見たものです。
赤色矢印で示している左手関節の部分が、腫れていることがわかります。
こちらのレントゲン画像は、初診時のものです。
赤色矢印で示した左手関節の部分の関節裂隙は消失していることがわかります。
また、青色矢印で示した舟状骨部分に偽関節が認められました。
よくよくお話を聞いてみると、50年前に器械体操をしていて、左手を怪我したことがあるとのことでした。
当時は、痛みを我慢し、スポーツを継続して、病院には行かなかったそうです。
その後、ときどき左手の痛みがあったそうです。
舟状骨の偽関節が原因で生じた、左手の変形性関節症であるSNACwristだとわかりました。
痛みを軽減させる目的で、手関節の固定をする装具を作成しました。
手関節は、自分の体重がかかる部分ではないため、変形性関節症としての頻度は多くありません。
しかし、手関節の運動時痛や、腫れがある場合には、こういった疾患である場合もありますので、
長引く痛みがある場合には、お近くの整形外科の受診をお勧めいたします。