心の痛みが色々な症状として体に現れます!(身体表現性障害)

整形外科の外来に相談に来られる患者さんの中には、理学所見と画像検査などが一致せず、説明がつかない場合もあります。

それは、「何もないから心配ない」という言葉では、ひとくくりにできない疾患が潜んでいます。

そんな疾患の一つに「身体表現性障害」があります。

このページでは、「身体表現性障害」についてご覧いただきたいと思います。

身体表現性障害とは?

この疾患の定義は、検査や身体所見では十分に説明できない身体症状を慢性的に訴える疾患を総称したものとされています。

すなわち、心のストレスが、痛みや痺れ感などの身体症状に転換され、表現される疾患なのです。

たとえば、「手が痺れる」、「腕が上がらない」などを訴えて来院される患者さんの場合でも、
以下の図のような違いがあります。

以上のように、
心の葛藤や精神的ストレスが背景にある患者さんが、一見整形外科的な疾患と思えるような症状を訴え、
客観的所見で説明がつかない疾患を「身体表現性障害」といいます。

身体表現性障害の分類

身体表現性障害は、大きく分けて4つの分類があります。

①身体化障害
②疼痛性障害
③転換性障害
 ④心気症  
 

以下で、それぞれの特徴をご説明します。

どの分類も内容は似ているようですが、少し異なっています。

具体的な例は、以下の症例の所でご紹介したいと思います。

身体表現性障害の症状

心理的なストレスから、身体に色々な症状をきたすと言われています。

たとえば、あらゆる部位での体の痛みであったり、痺れ感だったりします。
これは日によって痛みの程度や部位が変わったり、それが繰り返される事で痛みが長期化します。

ほかにも、自分の意思と相反して体が動いたり、震えが生じたりすることもあります。

近年の、インターネットの普及によって、自分の病気に関する情報が過多になり、
誤った解釈に基づいて重病にかかっているのではないかという考えに取りつかれてしまうものも含まれます。

身体表現性障害の治療

身体表現性障害の患者さんが、痛みや痺れを訴える背景には「心が癒されたい」という真の訴えがあるはずです。

治療者サイドとして、私たちはまず「患者さんの訴えを受け止める」ところから始めています。

問診で、患者さんが「なぜその痛みが生じたのか?」という現時点までのプロセスを詳細にうかがう事で、
心の葛藤が痛みや痺れなどとして表現されているのかどうかをみることに重点を置いています。

そのうえで、整形外科疾患ではないという根拠を示して、患者さんにご理解いただくように努めております。

では、以下で実際の患者さんについてご覧いただきたいと思います。

1、身体化障害

12歳の女の子です。

左膝の裏の痛みを訴えて来院されました。

1か月前より外傷なく、痛いということです。

昨日までは普通に歩いて通学されていたそうです。

左の写真は初診時のものです。

膝を伸展することは不可能でした。 

骨や関節に異常がないか調べるため、レントゲン検査を行う事となりました。

左の写真はレントゲン室での様子です。

レントゲンを撮るときには、曲げられなかったはずの左膝が伸びています。

しかし、うつぶせの状態になると、思い出したかのように、
左膝を伸ばすことができません。 

左の写真は初診時のレントゲン画像です。

関節や骨には異常はありませんでした。

よくお話を聞くと、テニス部に所属しているのですが、
ほとんど練習に参加したことはなく、
部活に行きたくないという本当の気持ちが、
膝が伸びないという症状を引き起こしているのではないかと考えました。

8歳の男の子です。

左膝の痛みを訴えて来院されました。

今朝起きると、膝が痛くなったため、足を引きずって来院されました。

「膝が痛いので、体育の授業であるプールは入れない」と話されていました。

そこで、レントゲンを撮ってみましたが、特に異常は見当たりませんでした。  

このテキストを変更するには編集ボタンをクリックしてください。Lorem ipsum膝が痛く、体育もできそうにないくらいの痛みを訴えられていたので、
診察室で実際に歩行していただきました。

左の動画は、実際に診察室で歩行している動画です。

足を引きずり、左膝をかばうように痛々しく歩いている様子がわかります。

しかし、身体所見を詳細に確認していくと、やはり異常な所見はありません。

痛みの部位もはっきりしておらず、器質的な問題は見当たりませんでした。

そこで、リハビリスタッフと手をつないで一緒に歩いてもらいました。

すると、普通に歩くことができました。

屈伸動作も確認したところ、問題なく行えました。

また、膝の状態を確認したうえで、どれだけ曲げられるのかを確認するためにエアロバイクに乗っていただきました。

すると、膝の屈伸運動を繰り返して行っても、
痛みなくこぐことができました。

本人と症状の確認も含めて、再びお話をきいてみたところ、
実は授業でプールに入りたくないとのことでした。

では、去年はどうしていたのかと伺うと、骨折していたため、プールに入らずにすんでいたそうで、今年もその時期が来てしまい、プールに入りたくなかったので、膝が痛いという身体表現になったのではないかとわかってきました。

リハビリスタッフと話していくうちに、子供さんの気持ちもやわらいできて、当院から帰られるときには、普通に歩いて帰られました。

このように、器質的な問題がないと判断した場合には、
患者さんの背景などを伺う事で痛みの本質が見えてきます。

しかし、その前提として、どんな疾患でも、身体所見をしっかりとって確認することが大切です。 

2、疼痛性障害

27歳の男性です。

腰の痛みがあるということで、来院されました。

立ったり、座ったりで痛みがあり、
長時間座っていると事が苦痛であるとのことでした。

約2週間後に、腰の痛みが強くなったとのことで、
再来院されました。

理学所見をとったところ、
SLRが左の写真のように30度しか上がりませんでした。

しかし、痺れや知覚異常などの神経学的異常所見は見当たりませんでした。

さらに、レントゲンなどの画像所見では、特に異常はありませんでした。

そこで、長座をしてもらうと、スムーズに座る事が出来ました。

上の写真のようにSLR30°しか上がらない人が長座した場合には、
整形外科的疾患であるならば、足にしびれが出たり、
足のツッパリ感や、腰痛を訴えるものです。

しかし、スムーズに長座をし、70°も上体を起こすことができることから、
整形外科的疾患に該当しないと判断しました。

問診で、患者さんに良くお話を伺うと、
3か月前に、失業されていたそうです。

受診当初も、就業されておらず、
仕事をしたいが、仕事がなかなか見つからないという状況であるとのことでした。

以上のことから、身体表現性障害であると判断しました。 

3、転換性障害

21歳の女性です。

手の麻痺と、字を書くのが困難であると訴えて来院されました。

数日前に外傷もなく突然に左手関節と、手指の運動ができなくなり、仕事にならないという事でした。

身体所見としては、腕神経叢部の圧痛(写真の×印の部分)にありました。

左手関節は、背屈が自分の力ではできず、指も曲げ伸ばしができませんでした。

また、知覚の低下はありませんでした。

一見、橈骨神経麻痺または、腕神経叢麻痺出るかのように見えますが、理学所見では、末梢神経障害の所見と一致しませんでした。

また、神経伝導検査の結果では、異常がありませんでした。

以上のことから、何らかの精神的なストレスからくる身体の痛みではないかと考えました。

ご本人から、職場の状況などを伺うと、大変忙しくなり、現場では色々とトラブルがあり、
非常にストレスがたまっておられると話してくださいました。

そういった点から総合的に判断すると、職場におけるストレスから、手を動かすことができなくなるという運動機能の障害として転換された身体表現性障害であると考えました。

治療としては、御本人のつらいと思っておられるお話を聞きながら、マッサージやストレッチを交えて、身体的に楽になっていただく事を優先的に行いました。

経過としては、症状の一進一退はありましたが、
徐々に手指の機能は回復し、改善しました。

12歳の女の子です。

左手の震えを訴えて来院されました。

前日の朝、授業中に急に手が震えだして、止まらなくなったそうです。

過去に、心身症の既往歴はありません。

同時に痺れ感を左の示指から環指にかけて訴えておられましたので、理学所見をとりましたが、器質的な原因は考えられませせんでした。

以上のことから、身体表現性障害であると考えたのですが、
原因を突き止めるためにお話を伺ってみると、
新学期が始まってから入部した部活動の練習が合わず、
クラブ活動はしたいし、試合にも出たいが、
なかなか人間関係がうまくいかないという心の葛藤があったようです。

そういったストレスが重なって、
手のふるえという症状として表現されたものと考えました。

治療としては、親御さんも含めてご本人にもお話して、
心療内科をご紹介し、対処法をアドバイスしていただくことにしました。

4、心気症

23歳の女性です。

腰の痛みと、左下肢の痛みを訴えて来院されました。

半年前から、腰痛と左下肢の痛みがあり、インターネットを見て、
腰のヘルニアだと思い2件の整形外科を受診されたそうです。

レントゲンやMRI検査を行っても異常は見つからなかったそうです。

痛みが軽快しないため、当院へ紹介となりました。(当院で整形外科は3件目です。)

左の写真は、初診時のものです。

腰のヘルニアを判別するために、足を上げたところ、
約45度の位置で腰と足の痛みが出ました。

しかし、左の写真のように起座位では、全く痛みはありませんでした。

神経障害の有無を確認するための腱反射の異常も無く、
足の筋委縮もありませんでした。

以上のことから、患者さんの主観的検査は異常で、
客観的検査は正常であることがわかりました。

自分は病気であると思っているのに、
医学的評価や説明を受け異常がないといわれて、納得・安心が出来ないことによって、
病院を転々としているのではないかと考えました。

身体表現性障害は成人と子供さんとでは多少、障害として表現される形がちがうと考えられます。

成人の場合では、仕事や人間関係などの社会的なストレスが引き金になる場合が多く見られます。

子供さんの場合は、親御さんに対する愛情の欲求が、一般的にいわれている「成長痛」と呼ばれるものに表現されていると感じる場合もあります。

身体表現性障害の根源は、心のストレスが原因であるので、
表面にあらわれている一見整形外科疾患のような症状を治療するだけでは解決しません。

患者さんの心の葛藤を受け止めて、心理的ストレスを和らげながら治療に当たるというのが症状改善の近道であると考えます。

整形外科的疾患であるかどうかを判断するという事が一番大事ではありますが、
なかなか整形外科だけでは解決できない問題もはらんでいますので、
他の専門外来と連携して治療に当たることも必要になるかと思います。

しかし、どの診療科に行ったらいいのかわからないとおっしゃる患者さんも多い事と思いますので、
一見整形外科的な疾患である場合には、ご相談いただければと思います。

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