肩関節の疾患は原因となるところがさまざまなので、
一か所だけの原因で症状が出ているというわけではない場合がほとんどです。
そこで、肩関節の仕組みをこのページでは、
どういったことが引き金になって疾患が生じるのか、
肩を酷使することで、どんなことがおこるのかを踏まえて御説明していきたいと思います。
「肩関節」とは図で示す肩甲骨と上腕骨が作る
肩甲上腕関節のことをいいます。
この関節の周りには
腕を上げるときに必要な関節がいくつもあります。
鎖骨と肩甲骨で作られる肩鎖関節、
鎖骨と胸骨で作られる胸鎖関節、
そして、上腕骨と肩峰の間で作られる第2肩関節などがあります。
これらがスムーズに動くことで、手を頭の後ろで組んだり、
上の物をとろうとするような腕の動きが可能になります。
上腕骨を取り除いた状態で見ると、鎖骨と、肩甲骨をつなぎ止める靭帯が図のように見えます。
このように、肩甲骨は鎖骨の下でつりさげられるように連結しており、いわば浮いた状態になっています。
ですので、鎖骨と連動して自由に動くようになりますが、ひとたびどこかの靭帯が切れたりすると、腕の動きに支障をきたすことになります。
図は後ろから肩関節を見た図です。
肋骨の上に肩甲骨が乗っています。
肋骨が集まって胸郭という籠のような構造を作り、内臓を守っています。
肩甲骨と胸郭の間にも関節があり、これらも腕を上げるときに関与します。
図は肩関節を上から見て、上腕骨の骨頭と肩甲骨の関節窩(受け皿)の構造を示したものです。
このように丸い骨頭を受けるために、軟骨や関節唇と呼ばれる組織が少しでも関節を安定できるように受け皿の幅を広げる形になっています。
骨頭は丸く自由が利くので、肩関節そのものはあらゆる方向に動かせる半面、外力を受けた時には、受け皿から外れやすい状態にあります。
では、肩関節をもう少しクローズアップしてみましょう。
図にあるいくつかの部位の名前ですが、それぞれの靭帯にはトンネルのような構造があり、特に烏口肩峰靱帯はドーム状の構造をしていて、その中を腱板と呼ばれる筋肉が通り抜けるようになっています。
では、実際に肩をあげていく仕組みをご覧いただきたいと思います。
腕をさげた状態だと、肩関節は図のようになっています。
ピンク色で示したものは、肩峰下滑液包といって、肩のクッション材のような役割をしています。
そのクッションが上腕骨頭と肩峰の間に存在します。
腕をあげていくに従って、上腕骨頭が肩峰の下を通ろうとします。
その際に肩峰下滑液包がクッションの役割をして、肩関節がスムーズに動くように働きかけます。
さらに腕を上げて、万歳をした状態になると、肩峰下滑液包は滑りこむように上腕骨頭と肩峰の間に収まります。
肩関節は腕を上に上げる動作のときだけでなく、いろいろな方向に動きます。
図のように鞄を下げたりするときなどのように、上下に動くこともあります。
腕をあげるときには、上腕骨頭は滑りつつ回転するような動きをします。
これは腕を上げるときに欠かせない動きです。
今度は腕をねじる「回旋」という動作の時です。
この動きができるので、手を頭の後ろで組んだり、ボールを投げる様な動作をすることができます。
以上のような、3つの動作は肩の関節が自由に動くことを示しています。
肩関節が固まるという表現は、以上の3つの動作が自由にできなくなることをいいます。
肩の関節の周りには、図中の水色の線で表したような、関節上腕靭帯と呼ばれるバンドのような組織が存在します。
Cの関節上腕靭帯の役割は特に重要で、腕を下げている時には緩んでいてゆとりがあります。
ところが、腕を上に上げるにつれて緊張して、腕が下に落ちないように支える働きがあります。
したがって、この靭帯のゆとりがなくなると、腕が上に上がらなくなります。
その靭帯を取り巻く状況は、1つのカプセルの中に収まるような状態になっています。
このようなカプセルの中で肩関節は陰圧の状態になっていて、お互いに吸いつきあうような力が常にかかっています。
さらに、筋肉などが取り巻き、腕がぶら下がった状態を支えています。
実際、筋肉の周りには何があるのでしょうか?
筋肉の周りには肩峰下滑液包と呼ばれる組織があります。
図では少々わかりにくいのですが、肩関節包のカプセルの上に赤で示した筋肉があり、その筋肉のさらに上に肩峰下滑液包が存在します。
このように肩関節は何重構造にもなっています。
肩関節の前には、上腕二頭筋長頭腱が走っています。
これは肩関節の中から始まり、肘の周辺まで伸びる力瘤を作る筋肉です。
この筋肉は物を持ち上げる様な働きとともに、肩関節を安定化させる働きもあります。
さらに、肩関節の一番外側には、
三角筋と呼ばれる大きな筋肉があります。
肩を触った時にふれることができるのがこの筋肉です。
この三角筋は外側にあるので、アウターマッスルと呼ばれ、腱板と呼ばれる筋肉は内側にある筋肉なので、インナーマッスルと呼ばれています。
すなわち、肩関節の動きは、
これらの筋肉のバランスによって保たれています。
そのインナーマッスルをさらに詳しく見てみましょう。
図は上腕骨頭につながる部分でのインナーマッスルの構造です。
棘上筋、棘下筋のほかに、烏口上腕靱帯という補強の役割をするバンドもあります。
インナーマッスルがつく部分だけでも、何層構造にもなっていますが、ひとたびこの構造が破たんすると他のいろいろな所にしわ寄せがきます。
インナーマッスルは図に示すように、上腕骨頭をより関節窩に安定させます。
このように一番関節の深部で関節を支えています。
したがって、インナーマッスルが切れた場合には、左の図のように、骨頭が支えを失って上に上がってしまいます。
さらに外側にある三角筋の働きで、より上に引き上げられるようになります。
この状態の肩関節では筋肉のアンバランスが生じて、いたるところに痛みが出たり、元の可動域を獲得できないことがあります。
これがいわゆる「腱板損傷」または「腱板断裂」と呼ばれる状態です。
このページの復習として、
肩関節の構造を模式図に表してみますと、
図のようになります。
上腕骨頭を支えるように腱板という筋肉の組織が存在します。
そのさらに上には、肩峰下滑液包というクッションがあり、
上下の組織を支えています。
肩峰下滑液包は
腕を上げようとするときに骨頭がスムーズに動くように、
肩峰との間をとりもっています。
ところが、肩を酷使したり、年齢的な変化が起こると、
図のように肩峰下滑液包がへたってしまったり、腱板の一部が切れて薄くなったりします。
そうすると、上腕骨頭が上に上がってしまい、肩峰と上腕骨頭の間が狭くなります。
この状態からさらに肩を酷使するようなことがあると、肩峰の下の面がとがって来て、変形関節症へと変化を遂げてきます。
以上のように肩関節の構造は非常に複雑で、
自由に動かせる反面、安定させようとする組織にかかる負担はかなりなものとなります。
ですから、一つの組織が傷むことで、他の組織にかかる波及効果が大きくなります。
一口に腕が上がらないという主訴であっても、
原因となる肩関節疾患はさまざま存在する可能性があります。
そこで、今後はこれらの肩の複雑な構造を踏まえて、
肩関節疾患について御説明したいと思います。