今までのページで、足関節が不安定であると、どういうことが起こるのか御説明してきました。
しかし、足の関節にはレントゲン写真上何も見当たらず、なのに足首に違和感を覚える、
もしくは、捻挫を繰り返す、そんな症状をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、考えられるのが、
「足根洞症候群(そっこんどうしょうこうぐん)」と呼ばれる疾患です。
上の図で、1の水色丸で囲んだ部分は、足の捻挫をしたときに痛みが出る場所です。
「足根洞症候群」では、2の赤丸で囲んだ部分に痛みが出て、
なおかつ、1と2の両方に押さえたときに痛みが走り、足首の違和感を覚えます。
症状としては、足関節付近での不安定感や、
でこぼこ道や路肩などの傾斜での歩行時に痛みが増強するなどがあげられます。
この疾患の原因は複数のことが考えられます。
ですので、症候群としてあつかわれています。
以下で、この疾患について詳しく述べていきます。
左の絵は足首を外側から見たものです。
赤い丸で囲んだ部分が「足根洞」と呼ばれる部分です。
字のごとく、足にあいている洞窟の様な構造になっています。
そのほら穴の奥には「骨間距踵靱帯」と呼ばれる靭帯が距骨(足首の骨)と踵骨(踵の骨)をつなぎとめ、足首の安定を図っています。
左の絵は足の全体を見ています。
「足根洞症候群」が起こっている場合、
本当は赤色の部分が痛みの根源であるにもかかわらず、黄緑色の広い範囲が痛いような感じがします。
黄緑色の丸で囲んだ部分は、足関節の捻挫で痛い部分と同じです。
なので、ただの捻挫だと思っていて、でも、痛みがいつまでも続くということになります。
上の図の黄緑丸の付近を拡大したのが、左側の図です。
赤色の丸で囲んだ部分が 「足根洞」の開口部分です。
水色の印で示した部分には「神経終末」という細かい神経が集約されています。
この神経の役割は「足の目」ともいわれるぐらい、地面から足に伝わる微妙な感覚をキャッチし、脳に伝えています。
左の図のように、足関節の靭帯損傷があった場合、
靭帯が伸びたり、一部切れたりすると同時に、
「足根洞」部分も傷ついてしまうことがあります。
また、繰り返し捻挫をしていると、
「足根洞部分」周辺に慢性的なストレスがかかって、
炎症が続くことがあります。
そうなると、神経終末の構造も損なわれてしまい、
本来持っている足から伝わる感覚が鈍くなります。
ですので、再び捻挫をしやすい状況ができたり、
でこぼこ道を歩くときなどに不安感が出たりします。
左の図は、足のバランスのとり方を表しています。
「足根洞」でキャッチした足の感覚は、
「求心路」と呼ばれる神経を通り脊髄を介して
「上行路」をたどって脳まで伝わります。
そして、脳が解析した感覚は「下行路」をたどって、
再び脊髄を介して「遠心路」を通じて腓骨筋に伝わります。
つまり、足のバランスは
微妙な感覚を「足根洞」にある神経終末でとらえ、
足関節が適切なバランスを保てるように、
腓骨筋などに指令がいきわたるようになっているのです。
また、本来は足首をひねりそうになっても、反射によって、
足首を正常な位置に戻すように腓骨筋などが反応します。
とっさの判断を行うためには、「足根洞」から「反射弓」によって、腓骨筋などに即座に指令が行かなければなりません。
ですが、神経終末が何らかの原因で傷を受けている場合、
この命令がうまく伝わりません。
ですので、捻挫を繰り返す結果となったり、
ちょっとした路肩の角で足をひねったりすることになります。
また究極の場合には、
腓骨筋が緊張しっぱなしになる場合もあります。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
以下では、具体的な症例をご覧いただきたいと思います。
左の写真は、37歳の女性です。
左足関節の痛みを訴えて来院されました。
3か月前に左足関節の捻挫をしてから、
他院で治療をして一時は良くなりましたが、
再びバレーボールを始めて捻挫を数回繰り返して
痛みがいつまでも引かないので当院へ来られました。
良く見ると、左足首周辺から、
もう少し前のあたりまで腫れています。
左右の足を外側から見た写真です。
赤丸の部分が腫れて、押さえてみると、
一番痛かった部分は水色丸の部分でした。
つまり水色=足根洞部分に、
何かしら問題があると思われました。
左の写真は両足の足首をあげてもらった時のものです。
右足は足首をちゃんと曲げることができますが、
左は足首をきちんと返しきれません。
今度は、つま先を伸ばしてもらいました。
右足はちゃんとつま先まできれいに伸ばすことができますが、
左足は、途中で止まってしまい、
足首が伸びないことがわかります。
こういった症状があるときには、
足根洞部分に注射をすることで痛みが無くなります。
しかし、一時的なものなので、
また感覚がすっきりしない時には再び注射する場合もあります。
この方は、1度注射しただけで、
その後はリハビリを行うことで経過を見ました。
左の写真は上の方とは別の患者さんの足です。
この方は数回の捻挫をした後、
あるときくるぶしの後ろあたりが痛くなって、来院されました。
良く見ると、もともと扁平足ではないのに、
痛い方の足だけ扁平足になっていました。
これを「腓骨筋痙性扁平足」といいます。
足根洞部分での感覚が伝わらなくなったために、
腓骨筋がずっと緊張し続けている状況なって、
足が外側に傾き、その結果扁平足になってしまっています。
左右の足の傾きを比べて見ていただくと、
右足が外側に傾いていることが良くわかります。
このようになってしまうと、
腓骨筋(ピンクの丸で囲んだ部分)が緊張していて、
足首を内側に返すことができません。
この方は、足根洞部分に注射することで、
すぐに症状が改善しました。
捻挫を繰り返す原因というのは、足関節の靭帯損傷だけでなく、
それ以外の部分でも起こっていることがあります。
こういった、神経を介しての疾患の場合リハビリをするのが一番の解決方法です。
リハビリによって足の感覚を取り戻し、再び捻挫しないようにすることが大切です。
捻挫した後、いつまでも痛みが続いた場合、意外なところが悪い場合もあります。
捻挫後の痛みを甘く見ないで、専門医に診てもらい、
原因を突き止めて、正しい治療法を行えば、痛みで長く悩むことなく、捻挫を何度も繰り返すことも無くなります。
捻挫後の痛み続く場合には、ぜひ専門医に御相談ください!