正座をして足がしびれた時、足がジンジンして上がりにくくなったことはありませんか?
足首が下へ垂れ下がったかのようになって、力が入りにくくなってしまった状態のとき、
今回ご紹介する「総腓骨神経麻痺」である場合が多く見られます。
正座してしびれた時は、時間の経過とともにすぐに回復しますが、
病院に相談にお越しになられる場合、完全に治るには約1か月ぐらいかかります。
このページでは「総腓骨神経麻痺」について、どんな病気なのかということを御覧いただきたいと思います。
総腓骨神経とはどこにあるのですか?
上の図は、膝を横から見たものです。
膝の外側の部分に隆起した部分は「腓骨頭」と呼ばれる骨の隆起部分です。
総腓骨神経は、太ももの後ろを通って、坐骨神経から枝分かれして、この腓骨頭のすぐ後ろを通って下腿へ向かいます。
皮膚のすぐ下にあるので、直接周りをカバーするものが少ないので、外からの圧迫を受けやすい状態になっています。
上の図にあるように、腓腹筋や長腓骨筋、そして大腿二頭筋などの筋肉が周りをとり囲むようにあるので、
しゃがみこむ姿勢などが続くと、それらの筋肉に圧迫を受けて足がしびれてしまうこともあります。
総腓骨神経は、腓骨頭の後ろから前へ回り込むようにして走っています。
そしてさらに、深腓骨神経と浅腓骨神経に枝分かれして、それぞれの担当する筋肉や皮膚の知覚の部分まで走っていきます。
上の図は総腓骨神経が支配する筋肉群です。
それらは主に足首や足指を上へ向けたり、足首を外へ向ける役割を持っています。
ですので、この神経が麻痺してしまうと、足首が上がらないといった症状が出ます。
こんな症状がでます!
上の図の水色で示した部分にしびれ感が出ます。
また、皮膚の触った感覚の低下が同じ水色の範囲に出ます。
しかし、しびれる範囲には個人差があり、全く上の図と同じというわけではありません。
上の写真は実際の患者さんのものです。
御自分の力で患側の足首を上げることができません。
歩く様子は、下の動画のようになります。
(灰色の枠の中をクリックすると再生します。)
歩き方としては、つまづかないようにするために、膝を高く持ち上げるように足を上げることになり、
着地するときは、つま先から床につきます。
蹴り出しは、力強く前へ蹴り出せなくなります。
このような状態になるので「鶏様歩行」と言われています。
こういう検査をやっています。
神経麻痺の鑑別診断には「神経伝導速度検査」と呼ばれる検査を行います。
この検査は、足に限らず手でも行います。
この検査をする目的は、神経の伝わる速さを調べて、障害されている神経の損傷度合いをみることです。
また、他の疾患と鑑別することにも役立ちます。
①と②の2箇所で電気を流して、足先にある短趾伸筋を収縮させます。
それぞれの箇所から、どれだけのスピードで刺激が伝わってくるか、 また刺激が伝わるまでどれぐらいの時間がかかるのかを調べます。
それぞれ健側と患側を比較してみます。
上の写真の数値は上の図の②の膝の裏で刺激を出した場合、筋肉が収縮するまでにかかる時間と、刺激が伝わる速さを表しています。
LTNCYは刺激を与えてから筋肉が収縮するまでの時間を表しています。
NCVは神経の中を刺激が伝わる速さを表しています。
それぞれ、健側と患側で比較してみると、患側の方は収縮するまでに時間がかかり、神経の伝導する速度が遅くなっています。
治療の方法
治療は特別なことをしなくても経過をみていくことで回復していきます。
しかし、上の動画で見ていただいたような歩行状態では危険も伴いますし、過度に筋肉が伸長されるので負担がかかります。
ですので、そういった状態を軽減させるために取り外し可能なギプスで患部を固定します。
上の写真のように、足首を90°に保てるように足の形に合わせてギプスを作ります。
日中はできるだけ、このギプスを付けていただいて、お休みになるときも付けていただくことをお勧めします。
このギプスを2~3週間していただくことで、症状が改善されます。
症状が改善された時点でギプス固定を解除します。
では、以下で実際の患者さんについて見ていただきたいと思います。
〜症例1〜
39歳の女性です。
左足前のしびれと、歩行が困難なため、来院されました。
前日に、朝起きたら、左足のしびれに気がついて、さらに足首が上がらないということにも気がついて来院されました。
写真の斜線が入っている部分がしびれる範囲でした。
足の状態をみてみると、足首の外側が少し腫れていました。
実は歩きにくくなったため、ここへ来るまでに3回捻挫したそうです。
でも、痛みはひどくない程度でした。
足首を上げてくださいとお願いしたところ、御自分の力では、写真のように十分に上がりませんでした。
歩き方を見せていただくと、つまづかないように膝を高く上げ、つま先から、着地するような形でした。
足を上げた時に、十分に足首が反っていないので、スリッパが脱げそうになっています。
足首の状態は十分に足首を上にあげることができないので、処置として、取り外しのできるギプスで固定して、様子をみることにしました。
2~3週間後には、力も入るようになり、問題なく歩けるようになりました。
〜症例2〜
39歳の女性です。
1か月前より、思い当たることなく、足首の前のしびれ感と、足首が上がらないということで、歩行障害が出て、つまずきやすいという訴えで、来院されました。
斜線で示したところがしびれ感のある部位です。
足首を上に上げてくださいとお願いしても、右足首は完全に上にあがりません。
膝の後ろの部分から、腓骨頭のあたりまでたたいてみると、斜線で示した部分にひびきます。
こういった所見から、総腓骨神経麻痺であると考えました。
治療としては、足首を直角に保つように取り外し式のギプスで固定しました。
その後、経過は良好でした。
〜症例3〜
44歳の女性です。
足首を上に反すことができないということで来院されました。
実際に足首を上げていただくようにお願いしたところ、こちらの写真のように全く上がらない状態でした。
左の腓骨頭の周辺をたたいてみると、赤矢印で示した付近に強くひびく部分がありました。
そこで、総腓骨神経麻痺であると考え、取り外し可能なギプスを作り、足首を固定しました。
来院されてから2週間ぐらいまでは、なかなか力が入らず、回復傾向も緩やかでしたが、1か月経過した頃には、違和感も少なくなり、普通に歩けるようになりました。
総腓骨神経麻痺になる原因は、熟睡時に知らず知らずのうちに膝の付近を何かしら圧迫することになった場合によくみられます。
ですので、翌朝、起床時に発症して、足首が上がらなくなったり、しびれ感がいつまでもとれなくなるということに気がつきます。
多くの場合、ギプス固定をすることで、約1か月ぐらいで回復をみます。
同じようなに足が上がりにくい疾患は原因として、腰椎部の神経障害であったりする場合もありますが、
しっかりと理学所見をとって、さらに神経伝導速度検査を行うことで、違いがわかります。
歩き方がおかしかったり、脛から足首にかけてしびれ感があった場合には、
総神経麻痺を疑って、早い目に整形外科を受診されることをお勧めいたします。