前十字靱帯損傷③(前十字靱帯損傷の治療は どうしたらいいの!?)

前十字靱帯損傷は、発見された場合には第一選択肢として、再建手術を考えますが、
必ずしも手術に至るケースばかりではありません。

では、手術をする、しないという事をどういうポイントで決めるのかという事について、
以下、当院での症例を挙げながら、考えてみたいと思います。

再建術をしないで膝関節装具で経過をみた症例

50代の女性です。左膝内側の痛みを訴えて来院されました。

1か月前から痛みが強くなり、動作を開始するとき、
階段昇降時に痛みが出るそうです。

また、膝がガクッと崩れる現象も見られます。

現在は、テニスを楽しんでおられるようですが、実は30年前にバレーボールの最中、膝がガクッとなって痛みが出たという既往歴があります。

当時、靭帯が伸びているという診断を受けられたそうです。

そこで、画像診断としてレントゲンを撮ったところ、
左の写真のようになっていました。

赤い矢印の部分に骨棘が見られ、関節の隙間が狭くなっていました(オレンジ色の矢印の部分)。 

左の写真は、膝を曲げて撮ったものです。

上の写真と比べて、さらに関節の隙間が狭くなり、ほぼ軟骨がすりへって無くなっているかのような画像が見えました。

この方は、最終的には再建術をせずに、
膝関節装具のみで経過をみることになりました。

その理由は、過去に前十字靱帯が断裂し、その結果、変形性関節症が進み、今出ている症状も変形性関節症が主体の痛みであると判断したからです。

また、この方はテニスは現在継続出来ていて、お仕事も事務職なので、過度に膝に負担のかかる職種でもないため、
手術する必要性がどうしてもあるとは言えなかったためです。

主訴が痛みではなく、膝崩れ現象が頻発して、仕事に支障が出る症例

44歳の女性です。右の膝がガクガクするという訴えで来院されました。

1か月前、バレーボールの試合中にジャンプをして、着地した際に、激痛を覚え、倒れたそうです。

直後に、他院にて、穿刺の処置と、
装具の処方のみで終わったとのことです。

しかし、その後、何度も膝崩れ現象が生じることや、
正座ができないなどの支障が出てきたので来院されたそうです。

そこで、画像診断としてレントゲンを撮ってみると、
特に異常は見当たりませんでした。

しかし、受傷時の状況や、徒手検査などから、
前十字靱帯損傷が疑われたのでMRI 撮影を行う事にしました。

MRIの所見から、前十字靱帯が緊張を失い、
途中で途絶えている事がわかりました。
(赤色矢印の先に示された部分)

また、別の角度から撮ったMRI所見では、
半月板損傷は無かったのですが、大腿骨の外顆に骨挫傷が見られました。

以上のことから、1か月前に前十字靱帯が損傷され、
それが原因で膝崩れ現象が頻発したと考えられました。

この方は、前十字靱帯の再建術を選択されました。

その理由は、お仕事が介護職で、入浴介助などの作業を行わねばならず、今後スポーツも続けたいと思っておられたからです。

また、今後、膝崩れを繰り返すことによって、
新たに半月板を損傷したりして、膝の機能が損なわれないようにするため、手術を決められました。  

前十字靱帯損傷を放置していたことで半月板損傷が生じた症例

20歳の女性です。右膝の痛みを訴えて来院されました。

約1年前にサッカーの練習中、踏ん張った際に膝がガクッとなったそうです。

その後、1年間は病院へも行かずに放置してサッカーをしていたそうです。

膝が痛くなってきたので、当院へ来院されました。

レントゲンでは特に目立った異常は見当たりませんでした。

しかし、理学所見や徒手検査から前十字靱帯損傷を疑い、
MRI撮影を行いました。 

MRI撮影を行ったところ、前十字靱帯の緊張は認められませんでした。
(赤丸の中央部分)

違う角度のMRI画像では、半月板の損傷もある事がわかりました。(赤色矢印の先で示した部分)

このように前十字靱帯損傷が生じているのにもかかわらず、
長期間放置していると、半月板損傷を起こすことがあります。

この方は、現在大学でサッカーをしておられ、
今後もサッカーを続けるということで、手術を選択されました。

この方は、前十字靱帯の再建術と、
半月板の縫合術を合わせて受けられました。

そのため術後は、全体重をかけられるようになるまで1カ月かかりました。

このように、前十字靱帯の単独損傷でない場合には、
リハビリの計画が多少変わってくるので、他の障害が起こる前に、前十字靱帯の再建を行う方がベターであると言えます。

レントゲン画像から前十字靱帯損傷がわかった症例

14歳の女性です。左膝の痛みで来院されました。

3か月前、バスケットボールの試合中に膝がガクッとなり転倒し他院で剥離骨折と診断を受け、固定治療を受けていたそうです。

しかし、3か月経過しても可動域制限があり、正座ができず、
膝崩れが起こるのでクラブ活動にも復帰できないため、
当院を受診されました。

レントゲンを撮ってみると、拡大写真に写っているように、
脛骨の外側の部分に剥離した骨片が認められました。
(ピンク色矢印の先に写っている部分)

これは前十字靱帯が切れていることが疑われる所見であるため、
MRI撮影を行う事にしました。
 

MRI撮影をしてみると、赤色矢印の部分に剥離骨片が認められました。

別の角度からのMRI画像では、
前十字靱帯の緊張が失われており(赤丸印の中央部分)、
前十字靱帯損傷が認められました。

この方は、前十字靱帯の再建術を選択されました。

その理由は、年齢が若く、非常に活動性が高く、複数のスポーツをしておられ、今後スポーツを続けたいと思っておられたからです。

手術をするタイミングは、学生さんなので、長期休暇の時期を待ち、手術を行う事にしました。

手術までの期間、可動域改善のリハビリと少しでも膝周囲の筋力が落ちないようにトレーニングを行うようにしました。

このように、手術前に準備をして膝の機能を落とさずに、
手術を待つことも非常に重要です。

前十字靱帯の再建術後、 再断裂を起こした症例

20歳の男性です。左膝の痛みを訴えて来院されました。

前日ハンドボールをしていて左右へフェイントをかけようとしたとき、左下腿を軸に回旋した際膝にボキッと音がしたそうです。

それから左膝の痛みと可動域制限が出現したそうです。

現在、大学でハンドボールをされていて、
約2年前に前十字靱帯の再建術を受けておられました。

来院時には、腫脹と痛みがあり、膝を伸ばすことができない状態でした。

レントゲン撮影では、再建術後のステイブルが見えています。

再建靭帯の再断裂を疑い、MRI撮影を行う事にしました。

MRI 画像では、再建した前十字靱帯の一部がささくれていて、
細く写っていました。 

そのほかに、損傷している個所は無かったようなので、今回の痛みの原因は、再建した靭帯の再断裂であろうと判断しました。

この方は、以前、実家の近所の病院で再建手術を受けられたので、今回も、前回と同じ病院で再々建手術を受けることにされました。

このように、再建術を受けた後にも、膝の痛みや膝崩れがある場合には、なるべく早く、手術を受けられた主治医の先生に相談されることを当院では、お勧めしております。

膝崩れが起こった場合、前十字靱帯損傷が疑われます。

そういった場合には、今後も膝の機能を良い状態に保つために、再建手術を受けることが機能改善の近道だと思います。

前十字靱帯損傷に対する再建術の研究や、術式などはかなり確立されたものになりつつありますので、
手術自体は現在非常に進んでいて、安心して受けていただけると思います。

しかし、患者さんの立場では、色々な事情や不安があり、
すぐに手術しないといけないのか、
それとも、手術しないで経過を見てもいいのかなど、非常に判断に困るというのが実情だと思います。

自分の場合は、いったいどうしたらいいのか、非常に迷う事が多々あることも事実だと思います。

そういった場合には、ぜひスタッフにご相談いただき、
ご自分に一番合った選択をしていただきたいと当院では思っております。

前十字靱帯損傷の件でお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください!

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