このページでは、当院で行っている成長期の腰椎分離症の治療成績と、その後の経過をお伝えいたします。
腰椎分離症の治療は大きく分けて2つあります。
1つは分離した部分を骨癒合させる方法。
もう1つは、分離した部分の癒合が期待できないとして、
運動療法を行う方法があります。
当院では数年前より成長期腰椎分離症の骨癒合を目指した治療を取り組み始め、
その成績もまとまったものになりましたので、
昨年9月に学会で報告した内容をこちらで御紹介したいと思います。
昨年9月20日に富山にて開催されました日本柔道整復接骨医学会学術大会には、
佐野順哉先生が「成長期腰椎分離症の治療成績と予後調査について」という演題名で発表されました。
治療を受けた患者さんは以下の表のような方々です。
以上の様に、特にスポーツ活動を盛んに行っておられる年代の方々ばかりで、
平均年齢は14.7歳でした。
治療と経過観察期間は2カ月から6カ月のフォローアップをしました。
治療の流れ
まず診察で問診や理学所見をとり、そのうえでレントゲン撮影を行います。
その内容から、腰椎分離症を疑う場合には、MRI撮影を行います。
そして、骨癒合の可能性があると判断した場合、CTを撮影します。
骨癒合するか否かの判断基準は以下の表を用いました。
赤囲みの部分は早期もしくは超早期の分離段階であると判断したグループです。
青囲みの部分は分離症は進行しているけれどもまだ早い段階であろうと判断したグループです。
それぞれの違いはCTを撮影した時点で、
どれぐらい亀裂が入っているかで判断します。
その結果、分離部分の形態は以下の様になりました。
固定による治療方法
骨癒合が期待できると判断して行った治療では、上の2つのコルセットを用いました。
固定期間は症例によって前後しますが、2カ月から6カ月の固定を行っています。
早くに分離部分の安定性が得られて、骨癒合がほぼ完成していると判断すれば、2~3か月でも固定を外しています。
治療の結果
治療の結果はそれぞれ3つの視点から評価しました。
分離形態別では、どの形態でも骨癒合が得られました。
年齢別では11歳以下の方はおられず、12歳~16歳以上の全例に骨癒合が見られました。
分離した椎体は第5腰椎が最も多く、続いて第4腰椎でした。
結果として、全例に骨癒合が見られました。
以下で、早期にスポーツ復帰が可能だった症例を3つご紹介します。
〜17歳 女性〜
こちらの写真は17歳の女性で、体操部に所属されている方が初診4月の時点で御来院された時に撮影したMRI です。
赤丸で囲んだ部分の色が白く変わっているのがわかります。
このことで、腰椎部分の骨の中で疲労骨折が生じていると判断しました。
こちらの写真は角度を変えて撮ったMRI です。
赤丸で囲んだ部分に色調の変化があり、第4腰椎の片側分離と考えました。
治療としては、クラブ活動の試合期の真最中だったので、あえて固定はせずに、運動の休止と経過観察を行いました。
5月にCTを撮った時点では骨折線が無いので、進行せずにきていると判断できました。
痛みが無くなって、クラブ活動ができていたので、本人には再び痛くなるようなら来院することを指導して、完全にクラブ活動に復帰していただきました。
ところが、再び8月に痛みが出現したため、MRI 撮影を行いました。
すると、今度は両方に色調の変化が見られました。
つまり、最初は片方だけの分離症だったのですが、両方に移行していることがわかりました。
同時にCTを撮影したところ、赤矢印の以前分離していたところに変化はなく、反対側も亀裂は入っていませんでした。
ですので、早期例と判断して、治療はダーメン・コルセットを用いて経過を見ることにしました。
2か月後のCTでは、分離部分に変化はなく、痛みも消失していたので、クラブ活動への復帰を許可しました。
その後、スポーツも継続できて、満足のいく結果となりました。
この方は一時期試合もあったので、休むに休めない状況であったのですが、フォローアップができたので、競技をある程度継続しながら治療も継続して、進行せず、完全復帰まで可能になりました。
〜14歳 男性〜
こちらの写真は14歳の男性で、野球部に所属している方です。
赤い丸で囲んだ部分に色調の変化が見られますが、はっきりとしたものではないので、別の撮影方法で確認してみました。
こちらのMRIは脂肪抑制画像といって、よりフォーカスを絞って、分離部分が進行しているかどうかを調べることができます。
すると、赤丸で囲んだ部分にはっきりとした色調の変化があったので、早期例で、その中でも、かなり早い段階での分離例だと判断しました。
CTを撮影したところ、亀裂は入っていないので、治療としてはダーメン・コルセットを用いて固定療法を行いました。
こちらの写真は1カ月半後、再びCTを撮影したものですが、全く亀裂も入っておらず、本人は痛みも訴えていなかったので、スポーツ復帰を許可しました。
この方の場合、痛みが出始めてすぐ治療に入ることができたので、クラブを2ヶ月間別メニューで続けることだけで、スポーツ復帰が可能でした。
早期に治療し始めることが、早期スポーツ復帰にいかに大切な事かがよくわかります!
〜15歳 男性〜
次は15歳の男性で、サッカー部に所属されている方です。
初診時のCTでは、こちらの写真の様に片方に亀裂が入るタイプでした。
痛みが出て2週間後に来られた時の写真ですが、すでに亀裂が入っていました。
ダーメン・コルセットで固定し、スポーツの休止を指導しました。
2か月後のCTで、まったく骨折部分は開かず、安定していました。
ですので、この時点で、強くボールをけるような動作のみを禁止して、ランニングやリフティングは許可しました。
でも、その後経過を見ていく必要があったので、様子を見ていました・・・。
さらに1か月後、CTを撮影したところ、亀裂が埋まっており、骨癒合ができたと判断しましたので、スポーツの完全復帰を許可しました。
この方の様に、2カ月後から、ランニングやリフティングなどのクラブ活動に参加しながらも、経過を見ながら治療を続けることで、早期スポーツ復帰ができることがわかりました。
スポーツ休止だけでなく、運動を継続しながらも、状態を継続して診ていくことで、早期スポーツは可能であるということができます!
スポーツ復帰時期についての検討
今までご紹介した方々はみなさんスポーツをある一定期間休止していただきました。
しかし、いつどの程度まで運動していいのかは判断しづらいものです。
スポーツ復帰へのタイミングは、
骨折線が完全に消失した時点ではかなりの時間を要するので、
初診から約2カ月ぐらいの時点で、
一度CTを撮って、分離部分の広がりがある程度落ち着いておれば、
固定療法は続けますが、
一部運動を許可してもよいと考えています。
固定療法はいつまで続けたらいいのか?
そこで、我々が考えた治療の方針としては、以下の様に考えます。
こちらの写真は、前述の症例の方々とは、また別の方の初診時のCT写真です。
2カ月後のCTがこちらの写真です。
両方、赤と青で囲んだ部分の隙間が広がっているように見えます。
ですので、このまま固定を続けていこうか、迷うところでもあります。
初診から、5か月後のCTでは完全に骨が癒合していることがわかります。
このように、2カ月後の時点では「骨吸収期」といわれて、一見分離部分が広がっているかのように見える時期があります。
しかし、粘り強く経過を見ていくと、ある時期「骨形成期」と言われる時期に移行して、骨形成がなされる時期がきて、骨癒合できるのだということがわかります。
ですので、あきらめず、粘り強く固定療法を続けることで、骨癒合を見込めることが証明できます!
以上の様に、早く固定を取りたいのはやまやまですが、
初診から2カ月たった時点で見込みがあるのならば、
6カ月ぐらいまでは固定を継続することを考えても良いと思います。
ですが、最初の女性の例の様に、固定せずに様子を見た例もありましたよね…?
ということで、早期に発見して亀裂が全く入っていない場合には、
固定せずに行くか、もっと簡単なコルセット固定でも可能であると考えます。
ですので、早期発見、早期治療が一番大切であるとお分かりいただけると思います。
その後、スポーツは満足にできるのでしょうか?
今回の対象となった方の12人の方にその後のアンケート調査で以下の回答を得ることができました。
その結果、スポーツ活動は全員問題なくクラブ活動に復帰し、スポーツの継続ができていました。
約9割の方に腰痛の再発は見られませんでした。
治療後の満足度は91%の方が「満足している」との回答がありましたが、固定装具の装着については、
約60%の方が「どんな状況下においてもつけている」と回答をいただきました。
私たちとしては、入浴時は外していただいていいと説明していますが、
固定療法はなかなか治療される方にとっては苦痛であるということがわかります。
ですので、当院では、亀裂が入った状況では固定療法を行いますが、亀裂が入っていない早期例においては、
がちがちに固めるというのではなく、動き過ぎを防止するためにコルセットをするということが大切であると考えています。
今後の検討としては、発生メカニズムと、スポーツ動作の関連について、
もっと詳しく研究して、皆様により早くスポーツに復帰できるよう、
また、もっと楽に治療を受けていただけるようにしたいと考えています!
10代でスポーツをしていて、腰痛がある方は、少しでも早いうちに専門医にご相談ください!
早期発見が早期復帰への一番の早道です!