TFCC損傷
(三角線維軟骨複合体損傷)
なかなか聞きなれない病名ですが、
手首の小指側の部分での痛みの原因にはこの疾患が多く見られます。
一般には手首の捻挫と片づけられてしまいそうですが、
なかなか痛みが引かなかったり、
治ったと思ったら、すぐまた同じ場所が痛むなどして、
すっきりしないことが多いので、
手首の痛みが気になって来院される方が多くいらっしゃいます。
このページでは、聞きなれない「TFCC損傷」とはどんな疾患なのか、
御覧頂きたいと思います。
TFCC損傷とは、テニスやバトミントンなどのラケットスポーツをする選手に多くみられるとされています。
手首を小指側に傾けた状態でフォアハンドストロークで、トップスピンをかけたときに、圧縮力がかかり、受傷するケースがあります。
他には床に手を強くついたときなどの
外傷をきっかけに発症します。
手首の構造をちょっと見てみましょう!
TFCCとは「三角線維軟骨複合体」のことをいいます。
そのTFCCを構成するものには、左図の4つの靭帯があります。
①尺骨三角骨靭帯
②尺骨月状骨靭帯
③掌側橈尺靭帯
④背側橈尺靭帯
以上の4つの靭帯はそれぞれが骨どうしをつなぎ止める役割を担い、 手首の安定性を保っています。
さらに角度を変えて手首の外側部分を見てみると、
上記の4つの靭帯に加えて、⑤の関節円板が存在しています。
この関節円板を中心として、周りが靭帯で囲まれている部分はあたかもハンモックの様な構造をとっていて、手首にある積木の様な骨を支え、それらをつりさげるようになっています。
左の図はTFCC部分をとりだして示したものです。
⑥の靭帯は尺側側副靱帯といって、一番外側に緊張して張っている靭帯で、手首の安定化に役立っています。
そして、⑦の三角靱帯は骨の底から張りだして、手首がひねる動作をしたときにも緊張が保てるように働いています。
以上の7つが複合体となって手首の外側の安定支持を保っています。
これら複合体の総称をTriangular Fibrocartilage Complex
「TFCC」といいます。
TFCCの役割を示したものがこの図です。
水色のT字部分は手首の骨の構造を簡略化したものを示しています。
TFCCがT字部分を下から支えていることがわかります。
つまり、TFCCのそれぞれの部分が各々の役割を果たすことにより、T字部分(手首の骨)を支えて、手首の外側の衝撃吸収作用を行っています。
これを「サスペンション理論」と呼びます。
これにより円滑な手首の運動が可能となり、握りしめた力は手首の部分を通り、腕へ伝達されるようになっています。
ところが、この図のように赤い丸で囲んだ部分に亀裂が入るようなことになると 、手首の外側の支持部分が損なわれてしまい、手に力が入りにくかったり、手首を外側に返すと痛みが生じたりします。
これがTFCC損傷の病態です。
TFCC損傷の症状は手首を返す動作の制限や
握力低下が見られます。
また、この図にあるような手首を外側へ返して、なおかつ、軸圧力をかける様な誘発テストをすると、痛みが生じます。
そういった所見でもって、
TFCC損傷を判断していきます。
画像診断では、手首のレントゲンを撮ると、TFCCは軟骨成分なので何も写りません。
ただ、時にこの図の様な状態でレントゲンを撮った時には、前腕の骨の橈骨と尺骨が並列して並んでいるのですが…。
手首を裏返して見ると、正常な場合は、真ん中の写真のように尺骨と橈骨は奇麗に並んでいますが、時には、一番下の写真のように尺骨が橈骨よりも突き出たかのように写る場合があります。
こういった骨の段差により、TFCCにかかる圧力がより強くなるような状況になっている場合、
これを「尺骨突き上げ症候群」と呼びます。
しかし、ほとんどの場合、このように段差が見えることは少なく、
TFCC損傷の場合はレントゲンでは異常なしといわれます。
そこで、レントゲン写真で発見できない軟部組織の損傷を確認するためにはMRIが有効です。
上の画像はTFCC損傷と診断した際のMRI画像です。青の矢印はTFCCの損傷を表しており、赤の矢印は損傷した部分から関節液が漏出したことを示しています。
以上のようにTFCC損傷と診断し治療に移りますが、当院では患部を患部を固定する治療を行っています。
治療方法
(固定療法)
当院ではTFCC損傷に対して、発症の仕方や疼痛の程度、または、患者さんの生活様式などに応じて固定材料を選んで対応しています。
外傷性であり、前腕の回内回外動作が困難なくらい疼痛が強い場合はギプス固定をお勧めしています。
上の写真は、肘関節を含めて手関節をひねる動作を制限したギプスになります。
このギプスを2~3週間したのち、取り外しが可能な装具やサポーターに変更します。
この写真はオルフィットソフトという熱可塑性の素材を用いています。ギプスを巻き込むケースと同様に患部の固定性があります。尚且つ取り外しが可能なので、患部を清潔に保つことができます。
手首を固定していますが、指の動きや肘の動きを妨げることはありません。
急に痛みが強くなった場合や、手をつくなどの外傷によって手首が腫れたり、痛みが強い場合にこの固定を用います。
固定期間は3~4週間です。
次に別の固定方法を御紹介します。こちらはサポーターです。
ギプス固定の時ほど広い範囲で覆っていないので、手や腕の妨げにはなりません。
サポータを巻くだけなので、取り外しは簡単です。
自由度が効く半面、固定強度は少し下がります。
これは軽くて、見た目にも目立たちません。
テーピングによる固定
テーピング方法その1
テーピングによる固定は手首の自由もきいて、日常生活やスポーツなどに用いることができます。
まずは、手首のやや下を伸縮性のあるテープで巻きます。
さらに、手首のやや先の方にもう一周テープを巻きます。
手首を返した状態うを保ち、テーピングします。
上から見た写真では、親指がわに手首を傾けた状態でテーピングしていることがわかります。
さらに、小指側の方から手首をまたいで、
前腕の方までらせん状にテープを貼ります。
写真では一本だけですが、
より固定性を高めるためには、
少しずらしてもう一本テープを補強することもあります。
仕上げは、手首の上で白い固定テープをつかって、覆い隠します。
手の甲と前腕の端をテープがずれないようにホワイトテープで止めます。
テーピング方法その2
肌色のアンダーラップを巻きます。
手首の下側をホワイトテープで巻きます。
さらに手首に近い所にホワイトテープを巻きます。
さらにその上からホワイトテープで巻きます。
これで完成です。
簡単に巻ける方法ですが、手首を返す動作は完全に止まりずらいです。
以上のように、手首の捻挫と思っていても、なかなか痛みがとれなかったり、
スポーツの時に握る動作ができないぐらい痛い場合には、TFCC損傷が疑われます。
そういった場合には整形外科受診をお勧めします!