前十字靱帯損傷①(膝がぐらっときたら、 前十字靱帯損傷を疑え!)

スポーツで受傷する膝の怪我の中でも、前十字靱帯損傷は非常に多いケガです。

また、前十字靱帯は膝の安定性を保つために大変重要な靭帯なので、
損傷すると、手術療法になる事がほとんどです。

手術後のリハビリの進め方にも注意が必要な疾患です。

このページでは、前十字靱帯損傷がどうしておこるのか、
また、手術に至る理由などについてご覧いただきたいと思います。

前十字靭帯とは?

上の図は膝を前から見たものです。

膝関節の構造として、脛骨の上に大腿骨が乗っているような構造なので、
膝関節を安定させるには、大腿骨と脛骨を強固につなぎとめる靭帯の存在が欠かせません。

膝関節の周りも含めて、靭帯は大きく分けて4つ存在します。

中でも、関節の中に位置する十字靭帯は前・後の2本があり、
膝がぐらつかないように支える重要な働きをしています。

前十字靱帯の役割

前十字靱帯には大きく分けて2つの役割があります。

1.関節の安定性を保つ

上の図は、膝を横から見たものです。

前十字靱帯は大腿骨の後方から脛骨の前面に向かって、前後に斜めに走っています。

その構造から、膝から下が前に行こうとするのを止める働きをしています。

また、前面から見た図でもわかるように、前十字靱帯と後十字靱帯が交差することで、
膝のねじり動作の際に、膝が崩れないようにストッパーの役目を果たします。

以上のことから、前十字靱帯はスポーツのあらゆる動作の中で非常に重要だということがお分かりいただけると思います。

2.関節の位置覚を司る

また、前十字靱帯は膝の位置を知る関節位置覚や膝の移動を認識する関節運動覚を司ると言われています。

いわば、「膝の目」とも言えます。

前十字靱帯が損傷されると、膝関節の感覚が鈍くなるので、膝崩れの原因となったり、
運動中の機能障害がおこったりします。

どういう形で前十字靱帯損傷は起こるのか?

前十字靱帯損傷はジャンプの着地時や、ターン動作などのときに生じる「非接触損傷」と、
ラグビーやアメフトなどのタックルなどの大きな外力を受けたときなどに生じる「接触損傷」に分けられます。

上の図にあるように、膝を軸として急激なストップ、ターンなどの
ピボット動作でバランスを崩した際に損傷することが多いと考えられています。

右の絵にあるように、青色丸で示した体の重心が、より外側に傾くような姿勢のときに着地をすると、
膝が外反するベクトルが強くなり、さらに膝に回旋力が加わるので、無理な力がかかり、非接触損傷が起こります。

このように、前十字靱帯損傷の多くが非接触型損傷だと言われています。

膝関節の中では、前十字靱帯はどのように損傷されるのか?

上で示した受傷シーンの中で、膝関節ではどのようなことが起こっているのでしょうか?

上の図は、膝を曲げて脛骨をねじり、さらに大腿骨を傾けたものです。

左右の図ともに、膝がねじれている状態を示しています。

しかし、脛骨が内側か、外側か、どちらかにねじれる違いによって、前十字靱帯の損傷の仕方も違ってきます。

向かって左側の図は、脛骨が外側に行こうとする回旋力がかかった状態です。
この際は、前十字靱帯は緩んでいるので、損傷されないような気がしますが、
実は大腿骨の一部(赤矢印で示した部分)が挟み込むようにして前十字靱帯を傷つけてしまいます。

一方、脛骨が内側に行こうとする回旋力がかかった場合には、
前十字靱帯は過度に緊張を強いられ、大腿骨の付着部側で引きちぎられるようにして損傷してしまいます。

以上のように、膝関節の回旋動作で前十字靱帯を損傷することがわかります。

前十字靱帯が損傷されると、どんな弊害がでるのか?

前十字靱帯が損傷された膝では、単に靭帯が損傷されただけではなく、いろいろな弊害が出てきます。

1.前方不安定性と合併損傷について

上の図は、正常な場合の膝と、前十字靱帯損傷を受けた膝を比較してみたものです。

前十字靱帯の機能は、ジャンプの着地動作などで、足を踏ん張ったときに、大腿四頭筋が収縮し、
かつ脛骨が勢いで前に引っ張られるのを、緊張することで止めて、膝を安定させることです。

しかし、前十字靱帯が損傷を受けている真ん中の図では、
大腿骨の付着部で切れた前十字靱帯は機能しないので、
脛骨が前に行ってしまいます。

そして、前十字靱帯が断裂したことに気づかず、そのまま放置した場合は、
前十字靱帯は全く緊張を失ってしまいます。

このような状態の膝を「前十字靱帯不全膝」といいます。

この状態が続くと、ある時、半月板を傷つけたり、関節の軟骨を傷つけたりすることになるので、
色々な弊害が生じる結果になります。

2.回旋不安定性と合併損傷について

上の図は、膝に回旋力がかかって、前十字靱帯が断裂した膝をイメージしたものです。

回旋を制動する前十字靱帯の機能が失われているので、
内側ないし外側の半月板が大腿骨と脛骨の間に挟まって損傷を受けてしまいます。

また、関節軟骨も傷ついてしまいます。

長年にわたり、前十字靱帯不全膝の状態が続くと、比較的早く変形性膝関節症に移行すると言われています。

前十字靱帯損傷ではどんな症状が出るのか?

前十字靱帯損傷で見られる症状には、受傷直後と、時間が経過して不全膝になった場合とでは、少々違いがあります。

受傷直後では、膝の腫れはそれほどでもありませんが、
膝に力が入りにくく、違和感を覚えます。

次第に、膝の腫れが目立ってきます。

そして、受傷後1~2週間ぐらいには膝の痛みの腫れによって関節の可動域が制限されてしまいます。

損傷後、1か月もすれば、痛みは落ち着き、日常生活に支障がなくなるぐらいまで回復することがほとんどですが、
それはあくまで急性期の炎症が治まったに過ぎず、前十字靱帯は切れたままなのです。

そうなってくると、右の絵のように、階段や下り坂を降りるときに「膝崩れ現象」が起こってきます。

以上のように、前十字靱帯が重要であるかということが、お分かりいただけたと思います。

最近のスポーツニュースで、トップアスリートが手術を選択し、
長い期間をリハビリにあててまで復帰しようとする理由がここにあります。

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