非定型大腿骨骨折

非定型大腿骨骨折はあまり聞きなれない疾患名ですが、高齢化社会で、骨粗鬆症の患者さんが増えるに従って、この骨折も増加する可能性があります。

この骨折は、軽微な外傷で起こり、太ももが痛いとか、足を踏み出したら、痛みが走るなどの何らかの前駆症状が見られます。

また、レントゲンでは、横骨折や骨皮質の肥厚など特徴的な所見を示します。

このページでは、レントゲン画像などを見ていただきながら、非定型大腿骨骨折についてご説明したいと思います。

非定型大腿骨骨折の定義

非定型大腿骨骨折の定義には下の図の矢印の範囲に、

転倒などの軽微な外傷で起こった横骨折や、または、短い斜骨折のことを言います。

また、非定型大腿骨骨折は、下の5つの項目のうち、少なくとも4項目をみたしているものと定義されています。

外傷なしか、立った高さからの転倒のような軽微な外傷で生じる。

骨折線は外側骨皮質に始まり多くは横走するが、大腿骨内側へ骨折線が及ぶに従って斜めになる場合もある。

完全骨折では、両側骨皮質を貫通し、内側スパイクを認めることがある。

 (不完全骨折の場合は、外側のみに生じる。)

骨折は粉砕を認めないか、わずかな粉砕のみである。

骨折部外側骨皮質の外骨膜または内骨膜に限局性の肥厚(くちばし様あるいは、炎様)を生じる。

さらに、以下で示した4項目もときに本骨折と関連があると定義されています。

骨幹部の全体的な骨皮質の肥厚。

片側性また両側性の鼡径部または大腿部の鈍痛または、うずく痛みといった前駆症状。

両側性に起こる不完全または、完全大腿骨骨幹部骨折。

骨折の癒合遅延。

以上のように、本骨折は、単に外傷によって生じた大腿骨骨折とははっきりと区別されています。

非定型大腿骨骨折が起こる要因

非定型大腿骨骨折は劣化した材質によって構成された骨が微細な外力を受けることによって起こるといわれています。

下の写真は、実際の骨と、骨の中のイメージを鉄筋コンクリートの建物に見立てて表したものです。

良質な材質(カルシウム)と、丈夫な骨質(鉄筋)によって作られた骨は少々の外力では折れたりしません。

一方で、見た目は骨密度も保たれているような骨でも、劣化した素材(カルシウム)や、弱くなった骨質(鉄筋)で作られた骨では、
骨のしなりや強度が十分に得られないので、わずかな外力で折れてしまいます。

このような理由で非定型大腿骨骨折が起こるといわれています。

非定型大腿骨骨折の特徴的な画像所見

非定型大腿骨骨折は、定義の中で述べたように、レントゲン画像などで以下のような特徴的な所見が見られます。

レントゲン画像

骨幹部の皮質骨厚の全体的な肥厚
(赤線で示した部分)

大腿骨の骨皮質に限局した骨膜肥厚
(くちばし様)

大腿骨骨幹部に横走した骨折線

一番左のレントゲン画像は、非定型大腿骨骨折が生じている場所の骨皮質(赤線の部分)は骨折を生じていない部分(青線の部分)に比べて厚みを帯びています。

真ん中のレントゲン画像は、骨皮質が限局的に厚くなって、くちばし状の骨折線が見えます。

右端のレントゲンは大腿骨の骨幹部に外側から始まり内側にかけて横走した骨折線が見られることが特徴です。

MRI画像

大腿骨骨幹部にみられる輝度変化

MRI画像では、大腿骨の骨幹部に輝度変化が見られ、臨床症状と照らし合わせて非定型大腿骨骨折であると診断できます。

以下で実際の患者さんの症例をご覧いただきたいと思います。

〜症例1〜

80歳の女性です。

左大腿中央部の痛みを訴えて来院されました。

特に誘因なく、歩いたり、左足に体重をかけると、左大腿中央部に痛みが出るとのことでした。

こちらのレントゲンは初診時のものです。

レントゲンでは、赤色矢印の部分(大腿骨骨幹部中央)に骨皮質の異常(くちばし状の骨膜の肥厚)が認められました。

こちらのレントゲンは側面から撮影したものです。

赤色矢印で示した部分に骨折を疑う横走する骨折線の像が認められました。

圧痛部位と一致していたため、MRI撮影を行う事にしました。

こちらの写真は正面から撮影したMRI画像です。

赤色の○で囲んだ左大腿骨骨幹部に輝度変化が認められました。

今回誘因なく大腿骨骨幹部が痛くなったこと、レントゲンでくちばし状の骨膜の肥厚があったこと、横走する骨折線が認められたことなどから、非定型大腿骨骨折であると診断できました。

手術も考慮しましたが、患者さんご自身のご希望もあり、通院外来で経過観察を行っていました。

経過観察時に、深夜トイレに行こうとして立ち上がった途端に、左大腿部に激痛が走り、転倒され歩けなくなり、病院に搬送されました。

病院では、大腿骨骨折という事で、髄内釘による骨接合術を受けられました。

こちらのレントゲンはリハビリのため、再び当院へ来院された時のものです。

この時点で、歩行可能なぐらいまで回復されていました。

〜症例2〜

81歳の女性です。

右大腿部の痛みを訴えて来院されました。

3か月前、ボーリングをしていて、調子が良かったので、3ゲーム続けているうちに、投げる直前に右足を踏み込んだ際に、痛みが出現したそうです。

その後、痛みが強く、右足に体重をかけることができなくなりました。

当院へは、杖をついて、足を引きずりながら来院されました。

こちらの写真は初診時の外観です。

赤色矢印で示した部分に、圧痛が認められました。

こちらのレントゲンは、初診時のものです。

赤色矢印の部分に骨折を疑う像が認められましたが、松葉づえや車椅子は嫌だという事で、杖をついて帰宅されました。

1週間後再度来院され、痛みの程度を確認したところ、
大きな変化はありませんでした。

このときも、体重をかけると痛みがあるため、足を引きずりながら杖をついて歩いておられました。

しかし、歩行中右足に体重をかけたとき、右足に力が入らず、転倒しそうになったため、右足で踏ん張った際に、痛みがさらに強くなりました。

再度レントゲン撮影を行った結果、前回と同じような骨折を疑う像があり、拡大してみると、くちばし状の骨膜の肥厚が見られました。

別の角度から撮影したレントゲン画像では、1週間前に確認できなかった大腿骨骨幹部での横走する骨折線が確認できました。

以上のような所見から、非定型大腿骨骨折を疑い、MRI撮影を行いました。

こちらのMRI画像は、T1強調像で、右はT2強調像です。

赤色丸印で示した大腿骨骨幹部に輝度変化が見られ、大腿骨骨折であるという事がわかりました。

今回外傷なく、踏ん張っただけで痛みが生じ、骨折線が外側骨皮質に始まり、横走する骨折線が認められ、骨幹部の皮質骨厚の全体的な肥厚が認められたことなどから、非定型大腿骨骨折であると診断できました。

こちらの写真は初診時より5週間後のものです。

赤色矢印の部分に仮骨が認められ、患部の痛みも軽減してきており、完全骨折には至らず、経過は順調です。

こちらのレントゲンは初診時のレントゲンと比較したものです。

赤色矢印のくちばし状の骨折線の内側の骨皮質が肥厚し、仮骨ができてきていることがわかります。

本来ならば、入院または、完全骨折に至る前に手術療法をしたほうが良い事を、患者さんにお勧めしましたが、通院治療を希望されたため、車いすで通院していただくようにしました。

非定型大腿骨骨折は前駆症状で大腿部の痛みを訴えて来院される患者さんが多く見られます。

来院された時は、歩いてこられる場合が多いため、坐骨神経痛や変形性股関節症といった疾患と見分けにくいことがあります。

足に体重をかけて、違和感があったり、大腿部の痛みがある場合には、

こういった疾患もあることを念頭に置いて、様子を見ていくことも大切です。

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