膝周辺の痛みは、関節の軟骨や半月板など関節の内部にある組織が変化することで起こることが多いのですが、
中には、関節の外で痛みや違和感を覚える疾患があります。
その中の一つに、「ベーカー嚢腫」があります。
この疾患は、「腫」という字を使っているので、腫瘍であるかのように思われますが、実は、腫瘍ではありません。
このページでは、ベーカー嚢腫とはどんな疾患なのかご説明したいと思います。
ベーカー嚢腫の存在する場所
膝の裏にベーカー嚢腫は存在します。
上の写真は、膝の裏を撮ったもので、赤矢印で示した部分が少し腫れていることがわかります。
そこに存在しているのが、ベーカー嚢腫という袋状のものですが、右のイラストにもあるように、膝窩部(膝の裏の部分)のやや内側にあります(赤点線丸の部分)。
簡単に言うと、膝の裏に水がたまって、少し腫れているような状態になっています。
ベーカー嚢腫ができるしくみ
ベーカー嚢腫ができる原因には、変形性膝関節症をはじめとする、膝関節疾患との関係があります。
変形性膝関節症によって、関節腔内に水(水腫)がたまった場合、膝関節全体が腫れたように見えます。
通常の場合、経過を見ているうちに水腫は次第に減少していきます。
しかし、なかなか吸収されずに、残った水腫は関節腔内で、行き場を失って、
膝の後ろの方へ流れ出てしまいます(図1の段階)。
膝の構造は、関節内から後方に液体が流れ込むことは可能な仕組みになっていますが、
逆に関節腔内に液体が逆流しないような弁の様な仕組み(図2)が備わっています。
したがって、一旦、後方に液体が流れ込むと、そこにとどまってしまうような仕組みになっています。
エコーやMRIでは、このように見えます!
ベーカー嚢腫の中身は、上の写真のような色をしている関節液(水溶性)のため、レントゲン撮影をしても写りません。
ですので、診断をするのにはエコーやMRIなどで検査します。
ベーカー嚢腫のエコー画像やMRI画像は以下のように見えます。
エコー画像
ベーカー嚢腫のエコー画像では、赤色矢印で示したような交通部(尻尾のように見える部分)が描出できます。
MRI画像
ベーカー嚢腫のMRI画像では赤色矢印で示した部分で関節腔との交通していることが確認できます。
ベーカー嚢腫が存在すると、膝に違和感や膝を深く曲げにくいといった症状を訴えられることがあります。
稀に、ベーカー嚢腫が破裂すると、偽性血栓性静脈炎といった血栓を伴わず、下腿部に圧痛や腫脹が見られることもあります。
膝窩部が腫れる疾患
膝窩部に腫れが見られる疾患の代表的なものにベーカー嚢腫と神経鞘腫があります。
それぞれレントゲン画像では、異常が見られないため、エコーやMRI検査で調べることができます。
以下で、それぞれの画像の写り方の違いについてご説明したいと思います。
ベーカー嚢腫
ベーカー嚢腫のエコー画像は、水腫のため、均一な低エコーを示す像が見られ、関節腔との交通(赤色矢印で示した)部分が確認できます。
神経鞘腫
神経鞘腫のエコー画像は充実性の腫瘍のため、低エコーの中に白く濁った像が見られ、神経幹との交通が認められます。
ベーカー嚢腫のMRI画像では、水腫のため、白く高輝度の変化が見られ、関節腔との交通 (赤色矢印で示した部分)が認められます。
神経鞘腫のMRI画像では、充実性の腫瘍のため、高輝度変化の中に、白く混濁した境界明瞭な像が認められます。
関節腔との交通は無く、神経幹と連続性していることがわかります。
エコー画像での比較
ベーカー嚢腫のエコー画像は、水腫のため、均一な低エコーを示す像が見られ、関節腔との交通(赤色矢印で示した)部分が確認できます。
神経鞘腫のエコー画像は充実性の腫瘍のため、低エコーの中に白く濁った像が見られ、神経幹との交通が認められます。
MRI画像での比較
ベーカー嚢腫のMRI画像では、水腫のため、白く高輝度の変化が見られ、関節腔との交通 (赤色矢印で示した部分)が認められます。
神経鞘腫のMRI画像では、充実性の腫瘍のため、高輝度変化の中に、白く混濁した境界明瞭な像が認められます。
関節腔との交通は無く、神経幹と連続性していることがわかります。
ベーカー嚢腫の場合は、触っても痛くありませんが、神経鞘腫は叩くと足への放散痛が認められ、症状は全く異なります。
実際の症例
以下で、実際の患者さんの症例を、ご覧いただきたいと思います。
〜89歳 男性〜
89歳の男性です。
左膝窩部の腫瘤とそれによる下腿の痛みやツッパリ感や、膝関節の内側の痛みをを訴えて来院されました。
この写真は初診時の外観です。
膝窩部やや内側(赤色矢印で示した部分)に腫瘤を触れることができました。
エコー検査を行ったところ、腫瘤は低エコーを示しており、変形性関節症による水腫がベーカー嚢腫となって、徐々に大きくなって、下腿の痛みとツッパリ感につながったのではないかと思われます。
この方は、変形性膝関節症の治療を継続して行っていただきました。
〜62歳 女性〜
62歳の女性です。
右下腿の鈍痛とツッパリ感を訴えて来院されました。
この外観写真は初診時のものです。
赤色矢印で示した右膝窩部に腫瘤を触れることができました。
エコー検査を行ってみると、水腫と思われる低エコー像と、関節腔と交通している(赤色矢印で示した部分)像が確認できました。
以上のことから、ベーカー嚢腫と考えました。
〜60歳 女性〜
60歳の女性です。
変形性膝関節症の治療としてヒアルロン酸の注射を継続しておられました。
しかし、ある時、左膝窩部内側の腫れと膝を曲げたときのツッパリ感が出てきたので、ご相談に来られました。
この写真は初診時のものです。
赤色矢印で示した部分に腫瘤を触れることができます。
MRI検査を行ったところ、水腫と思われる高輝度の変化が確認でき、赤色矢印で示した部分で関節腔との交通が認められました。
以上のことから、ベーカー嚢腫であるとわかりました。
変形性膝関節症の治療として、ヒアルロン酸注射を継続して行いました。
膝の裏が腫れている疾患にベーカー嚢腫といったものがあります。
ベーカー嚢腫であれば、ベーカー嚢腫を引き起こしている原因に対して治療を行うことが大切です。
しかし、膝の裏が腫れる疾患は他にもあるため、ベーカー嚢腫と決めつけず、他の疾患と鑑別する必要があります。
膝の裏が腫れて痛いとか、足がしびれるなどの症状でお困りの節は、お気軽にご相談ください。