上腕骨の中央付近で骨折するケースは、腕の骨折としては少ないのですが、
手をついて、体重が乗ってさらに捻りの力が加わっって転倒したときや、
スポーツでは、投球をした一瞬や、腕相撲をしたときなどにおこります。
このページでは、上腕骨骨幹部骨折の治療方法について、
当院で行ってきたことを御紹介させていただきます。
上腕骨はその部分によって、「近位部」「骨幹部」「遠位部」に分かれています。
骨幹部での骨折は、上腕骨に対してねじれの力がかかった場合に起こります。
たとえば、腕相撲での受傷機転では、自身の力で相手をねじ伏せようとする力と、
相手がこちらをねじ伏せようとする相反するねじれた力が上腕骨にかかった場合、
上腕骨の中央部に大きな力がかかり、中央部で骨折が起こります。
手術をしないでこの骨折を治そうとする場合、
ギプス固定の期間が長くなることがあり、
そうなると、肩や肘が動かせないので、
関節が固まってしまう恐れがあります。
そこで、当院では、以下で示す装具を用いて、
上腕骨骨幹部骨折を治していきます。
上の図は、上腕骨骨幹部骨折の治療方法を並べたものです。
受傷時直後は、患部の腫れもあり、痛みも強いので、
ギプスを用いて固定したほうが患者さんにとっても楽なのです。
しかし、上腕骨が完全に骨がつくまでギプス固定をしていたのでは、
肩や、肘の関節が固まってしまいます。
また、きつくギプスを巻いてしまうと、
血行障害や、神経麻痺などが生じる恐れがあるので、
比較的緩くギプスを巻かなければなりません。
すると、緩みが生じたときには骨折部分は再びゆがんでしまうことが考えられます。
そういったギプスの弱点を補うために受傷してから2~3週間後からは、
ファンクショナルブレースという装具を用いて治療していきます。
こちらの装具を用いたほうが、
骨折部分をより安定した状態で保つことができます。
ファンクショナルブレースは、下の写真のように、2枚の筒を重ね合わせたようなものです。
ファンクショナルブレーズの外観写真
外からの圧力で、骨折部分の周囲を広く圧迫することで、
中の圧力を高め、互いにかかる均一な圧力をもって、
骨折部分を安定させることができます。
骨折部分以外のところは動かすことができますので、
肩や、肘に運動制限がかかりません。
以下で、実際にファンクショナルブレースを使って治療した患者さんについて
御覧いただきたいと思います。
36歳の女性です。右上腕部の痛みを訴えて来院されました。
歩行中、スリップをして転倒し、受傷されたそうです。
近所の整形外科を受診され、上腕部骨幹部骨折と診断され、
手術を勧められたそうです。
翌日、大きな病院へ紹介となり、手術をすることが決まったそうですが、手術に抵抗があったため、当院を受診されました。
左の写真は初診時の外観写真です。
骨折による皮下失血のため上腕部がかなり腫れていることがわかります。
左のレントゲン写真は受傷直後のものです。
赤色矢印で示した部分で骨折が確認できます。
骨折部が少しずれていることもわかります。
当院にお越しいただいたときに、ずれた骨を元に戻すことと、
固定をする目的でファンクショナルブレースをその場で作成し、
強く上腕部を締め上げることで整復を行い、骨折部の状態を確認しました。
左のレントゲンは、ファンクショナルブレースを装着し、整復後のものです。
骨折し低r部分が上腕骨の軸に合っていることが確認できます。
左の外観写真は、受傷後2週間のものです。
皮下出血が肘から前腕の部分まで降りてきて、
上腕部の腫れが軽減してきていることがわかります。
左のレントゲンは、受傷から2週間後のものです。
初診時に比べて、さらに上腕骨の軸と骨折部が
適合してきていることがわかります。
こまめに来院していただきながら、
腫脹の軽減に合わせて、装具を腕の太さに合わせるよう、
こまめに補正を行っていきました。
ファンクショナルブレースは6週間使用し、
その後は少しずつ力を入れるトレーニングを開始しました。
左のレントゲンは、受傷から約2ヵ月後のものです。
しっかりと骨癒合も見られ、お仕事にも復帰されました。
62歳男性、 駅の階段を踏み外して転び、受傷されました。
当日、午後に来院されました。
左写真は受傷直後のレントゲンです。
右上腕骨が真ん中でらせん状に折れて、
いくつかの骨片がありました。
当日、患部の痛みを和らげるため、
体から肩を通って肘まで固定するようにして、
ギプスを巻きました。
ギプスを巻いた状態でのレントゲン写真です。
骨折部分に多少のずれはありますが、
決して後に生活に支障をきたす範囲ではありません。
事前にギプスを巻きなおす際に、型をとって、
ブレースを装具屋さんにつくってもらっておきます。
ギプス固定を始めてから約2週間後に、
ファンクショナルブレースに変えます。
左の写真でもわかるように、
服の上からでもブレースをつけることができます。
また、肩や肘を自由に動かすこともできます。
ファンクショナルブレースに変えた直後のレントゲンです。
受傷後、約4か月が経過した時点でのレントゲン写真です。
「仮骨」と呼ばれる骨折部分をつなぎ合わせる骨もできて、
安定した状態であることがわかります。
実際に腕を動かしていただいたり、
左右を見比べてみても問題はありませんでした。
受傷後、約半年が経過した時点でのレントゲンです。
完全に骨折部分が修復されていることがわかります。
日常生活にも支障なく過ごされています。
上腕骨骨幹部骨折は、非常に痛みも強く、肩や肘を固定するということで、
治療中は日常生活も大変不便です。
でも、手術をしないでファンクショナルブレースを使うことで、
十分に骨折を治すことができます。
少々骨癒合までに時間はかかりますが、
手術で痕が残ったり、
数年後に抜釘手術を再び受けなければならないなどといった、煩わしさもありません。
上腕骨骨幹部骨折をした場合には、
固定療法だけでも治るということも考えに入れて、
治療を選択されることをお勧めいたします。