子供さんの肘関節の骨折では高所からの転落などによって肘を伸ばす形で受傷するケースが多くみられます。単独箇所の骨折で済む場合もありますが、中には複合箇所の骨折または軟部組織損傷を伴う骨折型もあります。このページでは小児の橈骨頚部骨折に合併する複合箇所の骨折の一例として「Jeffery型骨折」を紹介します。
Jeffery型骨折とは
一般的には、転倒や転落した際に手をついた状況で肘関節が伸展、外反強制した際に生じます。若年層では骨が未成熟なため橈骨頭の多くは軟骨成分が主体となっているため、橈骨頚部で骨折が生じることが多く、さらに外反力が加わって肘頭部の骨折、内側上顆の骨折もしくは内側側副靱帯損傷を合併した骨折型を言います。
受傷機転
肘関節を伸展位で手をついた際に伸展力と外反力が肘関節に働くことで発生します。
下の図はそれぞれの部位がどのようにして損傷されるかを示したものです。
①肘関節を伸展位で手をついた際に伸展力と外反力が肘関節に働きます。
②その際に橈骨頚部が上腕骨小頭に圧迫され骨折し橈骨頚部の傾斜や骨端核の側方転位が生じます。
③更なる外反力により肘関節内側部に牽引力が働き、上腕骨内側上顆骨折もしくは内側側副靱帯損傷が生じます。
④尺骨には剪断力が生じ、尺骨近位端の外反型骨折が生じます。
これら①から④までの受傷機転によって生じた複合型の骨折がJeffery型骨折と呼ばれています。
骨折型分類
諸家の報告により、大きく分けて２つの骨折型に分けられます。
分類は以下の通りです。
橈骨頚部骨折に加え尺骨骨折の骨折部位により外反型副損傷の起こり方が２通りあります。
Type1 尺骨の骨折が肘頭に生じ、上腕骨内側上顆骨折または内側側副靱帯断裂を合併するもの
Type２ 尺骨の骨折が尺骨骨幹部近位端に生じ、内側上顆骨折や内側側副靱帯断裂を合併しないもの
以上の２のタイプが報告されています。
治療の方針
本骨折の治療方針はギプスを用いた保存療法を行うにあたり、以下の基準を用いることにしています。
上の表にあるようにType１では橈骨頚部骨折の傾斜角度が15°未満であることを前提に肘頭骨折、上腕骨内側上顆骨折、内側側副靱帯断裂などの副損傷がどの程度なのかによって治療方針を考えます。上記の条件を満たしていれば、ギプスを用いた固定療法で治療ができます。
以下で本骨折の症例を紹介します。
13歳の男性です。左肘の痛みを訴えて来院されました。
受診日の当日に自転車に乗っていた際、スリップして左側へ倒れ、左手をついて受傷されました。上の写真は受診日当日のものです。赤丸で囲んだ部分が腫れており、側面からも腫脹を認めますが、外観上著しい肘関節の変形は認めませんでした。
運動時痛は肘関節の屈曲と伸展のほか、前腕の回内および回外、手関節の掌屈並びに背屈で認めました。圧痛は肘頭、上腕骨内側上顆および橈骨頭に認めました。肘関節の外反ストレステストでは、痛みはあるものの外反不安定性は認めませんでした。
上の写真は正面からみた肘関節のレントゲン写真です。橈骨頚部と肘頭に骨折線を認め（赤矢印の部分）、上腕骨内側上顆は骨端線損傷を疑う像を認めました。
また、側面からみたレントゲン写真では肘頭に骨折線を認め、橈骨頚部には若木骨折を認めました。さらに肘関節の前面にはfat pad signを認めました。以上の所見から橈骨頚部若木骨折および肘頭骨折を伴う関節内骨折であると考えました。
後日MRIを撮影しより詳細な病態を確認することにしました。
上の画像は橈骨頚部、肘頭、内側側副靭帯の病変を捉えた画像です。骨折部輝度変化を認め、内側側副靱帯は上腕骨内側上顆付着部付近での損傷を認めました。今回、理学所見においては肘関節の不安定性は認めていなかったことから、内側側副靱帯の完全断裂は無いものと考え、本症例はJeffry型骨折のType１型と診断しました。
治療としてはギプスを用いた保存療法を施行しました。固定肢位は肘関節90°屈曲、前腕回内外中間位で行いました。固定範囲は上腕中央からMP関節の手前までとし、期間は４週間を行いました。
上の写真は治療を開始してから４週間が経過した時点のものです。正面像では肘頭および橈骨頚部に仮骨形成を認め、側面像においても肘頭の骨折部をまたぐようにして仮骨形成を認めました。（黄色矢印の部分）この時点でギプス固定は終了し、その後はギプスシャーレ固定に切り替えて経過をみました。
上の写真は最終調査時のレントゲン写真です。肘頭および橈骨頚部ともに仮骨形成が旺盛となり、経過は順調でした。（黄色矢印の部分）この時点で固定を完全に除去しようと試みましたが患者さんの不安感もあることから外出時のみの固定を1週間行いました。その後の経過は順調で、電話連絡にて近況を調査したところ、固定を外してスポーツ復帰もされていました。
子供さんの骨折では骨が未成熟な部分が多いので強い外力が加わると一箇所だけの骨折に留まらず、複合的に他部位で若木骨折や軟部組織損傷を伴うことがあります。子供さんにみられる外傷では初診時に的確な診断を受けた上で的確な治療を受けていただきたいので、お困りの際はお近くの整形外科へ受診してください。