橈骨近位骨端線損傷は転倒した際、手をついたり、肘をぶつけたりした際に受傷する場合があります。
成人では、橈骨頭の骨折となって、手術を要する場合もありますが、
小児の場合、このページでご説明する橈骨近位骨端線損傷になる場合が多く、
ほとんどの場合、固定による治療で治ります。
橈骨頭の骨端線
下の図は、橈骨近位骨端線の位置を示したものです。
肘関節を伸ばしたままの状態で、手をつくと、橈骨近位骨端線部分に軸圧の力が加わり、骨端線損傷が生じるといわれています。
肘関節外側にみられる他の外傷との違い
同じ受傷機転でも、怪我の仕方が以下のようにそれぞれ違っています。
以下で、それぞれの怪我についてご説明したいと思います。
橈骨近位骨端線損傷
小児に見られます。
骨端線を境にしてすぐ下の骨も含めて
圧縮されるような形で受傷します。
初診時は変形がないため、
わかりにくいのですが、
後日骨折線がわかる場合があります。
橈骨頭自体が大きく変形することは稀です。
橈骨頭骨折
成人の場合は変形がみられるケースがあり、
中には関節内に骨折線が及んで、
橈骨頭自体の形状が変形する例もあります。
(赤色矢印で示した部分)
橈骨頭脱臼
小児に多く見られて、骨折と合併して生じた場合、見逃されることがあります。
健側では、上腕骨小頭の中心点と橈骨の長軸がほぼ同じラインにあるのですが、
脱臼をすると、その位置がずれてしまいます。
(上の左側の図)
以上のように、手をついて肘の外側にみられる外傷として、上記の3つがあります。
中でも橈骨近位骨端線損傷はギプス固定で十分治療ができます。
他の外傷は、変形の程度などにより、手術適応になる場合もあります。
ですので、最初の鑑別が大切です。
橈骨近位骨端線損傷を見逃さないために・・・
下の図は、肘を横から見た図です。
レントゲンを撮ったときのイメージ図です。
先にも述べたように、橈骨近位骨端線損傷は、変形がほとんど見られない場合も多く、
初診時にレントゲン写真を撮影しても、骨折線が見えない場合もあります。
では、どうやって見逃さないように処置をすればいいのでしょうか?
そのヒントが下図にあります。
正常な場合は、肘関節周囲を取り巻く脂肪体組織は肘関節のすぐ近くにあります。
しかし、骨折もしくは骨端線損傷のような関節内に怪我が生じた場合、
関節内は関節液とともに血腫ができてしまうので、関節腔は大きく広がることになります。
すると、関節の近くに存在した脂肪体は前や、後ろに押し広げられるようになってしまいます。
このような現象が、レントゲン写真で確認できます。
これを「Fat Pad Sign(脂肪体兆候)」と言います。
レントゲンでこのサインが見られると、はっきりとした骨折がわからなくても、
関節内の骨折を疑い、骨折と同様の治療を行います。
この点を押さえることが、橈骨近位骨端線損傷を見逃さない重要なポイントです。
では、以下で実際の患者さんについてご覧いただきたいと思います。
8歳の女の子です。
右肘の痛みを訴えて来院されました。
転倒し、肘関節を伸展位で手をつき、受傷されたそうです。
左のレントゲンは初診時のものです。
レントゲンでは、はっきりとした骨折など認められませんでしたが、
Fad Pad Signが認められたため、関節内のどこかの骨折を疑い、
ギプス固定を行いました。
初診時は赤色矢印で示した肘関節の外側に圧痛がありました。
左のレントゲンは受傷から2週間後のものです。
ギプスを外し、再度レントゲンを撮影したところ、
赤色矢印で示した橈骨頭の骨端線部近くに仮骨が認められたことから、
橈骨近位骨端線損傷であると判明しました。
そのため、後1週間ギプスシャーレによる固定を行いました。
受傷3週後の時点で、圧痛も消失し、治癒しました。
14歳の男性です。
左肘の痛みを訴えて来院されました。
昨日、サッカーをしていて、転倒し、左肘を伸展位で手をついてから、
左肘に痛みを覚えたという事でした。
左のレントゲンは初診時のものです。
赤色矢印で示した部分に圧痛が認められ、
橈骨近位骨端線損傷が疑われました。
レントゲンの撮影角度を変えて、確認したところ、
赤色矢印で示した部分の橈骨近位骨端線の部分で、
損傷が認められました。
治療はギプスによる固定を約3週間行いました。
左のレントゲンは固定を除去して撮影したものです。
赤色矢印で示した部分に仮骨が認められ、圧痛も消失したため、
治癒したものと判断しました。
橈骨近位骨端線損傷は、初診時の肘関節の腫れや圧痛、理学所見で判断できます。
たとえレントゲン写真に明らかな骨折線がなかったとしても、
上記のような疑わしい所見があった場合には、橈骨近位骨端線損傷を疑い、
骨折に準じた治療を行う事が大切です。