足関節の捻挫と同時に発生する障害の一つに「短腓骨筋腱縦断裂」があります。
足の捻挫は治ったと思って日常過ごしていても、
いつまでたっても外くるぶしのうしろ辺りに痛みが残る場合、
この疾患が疑われます。
この疾患はあまり一般には知られておらず、
足の外科の専門医ぐらいしかわからない疾患です。
以下、このページでは、短腓骨筋腱縦断裂について御説明したいと思います。
上の左の図は膝から下を外側から見たものです。
赤色で示した線が「短腓骨筋」と呼ばれるものです。
ピンク色で示した線が「長腓骨筋」と呼ばれるものです。
いずれも足首を外へ返す働きをします。
右側の図は足首周辺を外側から見て拡大したものです。
緑色の丸で囲んだ部分は外くるぶしの後ろ側を示していますが、
そこは長・短腓骨筋腱が並んで走っています。
しかし、足首を内側にねん挫した場合、長腓骨筋腱と外くるぶしの骨(腓骨)の間で挟まって
短腓骨筋腱にストレスがかかり、縦に裂けてしまいます。
また、短腓骨筋腱が外くるぶしの後ろで亜脱臼して、縦に断裂するとも言われています。
いずれにしても、外くるぶしの後ろで、短腓骨筋腱が裂けた場合は、
外くるぶしの後ろが腫れて、痛みが伴います。
左の図は、外くるぶしの後ろ側で短腓骨筋腱が走っている
部分を見たものです。
短腓骨筋腱は腓骨と長腓骨筋腱の間を走っています。
もし足首が内側にひねった状態になると、短腓骨筋腱は腓骨と長腓骨筋腱に挟まって傷が入ってしまいます。
その傷は縦に裂けるように損傷されます。
左の図を見ていただくと、短腓骨筋腱が腓骨と長腓骨筋腱に挟まって傷が入る様子がよくわかります。
赤丸印のところを注目してください。
上にある腓骨と、下にある長腓骨筋腱に挟まって
短腓骨筋腱が縦にさけて傷が入ってしまいます。
このような状態が慢性的に続くと、
外くるぶしの後ろがいつまでも痛むということになります。
診断時には、短腓骨筋腱に沿った腫れと、
押さえたときの痛みがあるかないかをみます。
また、足首を外側や内側に返すと、痛みとともに、
コリコリとした音がでる場合があります。
レントゲンでは骨しかうつらないので、
エコーとMRIで診断します。
左の図のようにエコーを撮ると、
短腓骨筋の周りで炎症を起こしていることがわかります。
赤矢印が指し示す部分が黒く映っていますが、このように黒くなっているのは、炎症を起こして浮腫が起こっているからです。
全体像を見るためにMRIを撮影します。
そうすると、左側の緑の丸で囲んだ部分をよく見ると、
赤矢印で示したように、短腓骨筋腱が2つに断裂しているのがわかります。
左の写真の緑の丸の中、水色の矢印の先端に見えるのが、
正常な短腓骨筋腱です。
このように、断裂しているMRI画像と、正常なMRI画像を並べて比較すると、違いがよくお分かりいただけると思います。
以下で、実際の症例をご覧いただきたいと思います。
20歳男性、某大学のサッカー部の選手です。
左足関節の外くるぶしあたりの痛みを訴えて来院されました。
1部リーグでプレーしているだけあって、筋肉の発達が見られます。
今回は、ハードなコンタクトプレーなどにより、
足関節の捻挫をした後、痛みが引かないので、
受傷から1週間後に当院に来院されました。
黒の点が付いている部分は、短腓骨筋腱を示しています。
腫れと押さえたときの痛みが点で囲んだ部分に認められました。
そこで、受傷から2か月後に手術となりました。
短腓骨筋腱は左の写真の白矢印の先が指しているように
縦に2本にさけていました。
右の写真は手術後、裂けた短腓骨筋腱を縫い合わされて、
1本になっているのがわかります。
手術後ギプス固定を3週間行った後、リハビリを行い、
疼痛もなく、サッカーのプレーに復帰されました。
56歳、作業員の男性です。
スキーで転倒し、外くるぶしの骨折でギプス固定を行って、
骨折は治ったのですが、5ヶ月経っても足首の外側が痛いので、
当院を再度受診されました。
左の写真は、初診時にギプス固定を行った時点のものですが、
骨折部分は全くずれることなく、しかりと治っています。
でも、痛みがあるというのはどうしてでしょう?
診断のためにMRIを撮影したところ、
左の写真のように短腓骨筋腱が赤矢印で示すように
縦に分かれていることがわかりました。
右の絵のように短腓骨筋腱が腓骨と長腓骨筋腱に挟まって
傷が入ったということがわかります。
再来院されてから2か月後に手術をされました。
左の写真の赤矢印で示した部分が
縦にさけて2つに分かれているのがわかります。
手術後の右の写真では、水色矢印の先が示しているように、
縫い合わされて、1本になっているのがわかります。
手術後3週間のギプス固定の後、リハビリを開始し、
その後痛みもなく、仕事に復帰されました。
26歳、女性。
階段で足を滑らせて、足首を内側にひねって受傷されました。
過去にも2回大きな捻挫をされていたので、
普段から階段昇降や運動時に足関節の不安定感を覚えていたようです。
左の写真は、足関節の不安定性を評価するために、
足首を持って内側にひねる状態をつくり、
撮影したレントゲン写真です。
ご覧の通り、足首から先が、かなり傾いているのがわかります。
これほどひどく傾いている場合には、
足関節の靭帯が断裂していると考えられます。
そして、外くるぶしの後ろ側にも痛みがあったので、
短腓骨筋腱断裂も疑っていました。
足首の靭帯を治す手術を行ったときに、
おそらく短腓骨筋腱にも傷があるだろうということで、
観察したところ、左の写真のように、縦に断裂していました。
そこで、断裂していた短腓骨筋腱を縫い合わせたのが右の写真です。
4週間のギプス固定と、装具固定を行い、リハビリの後、痛みもなくなって、スポーツも可能なレベルまで治癒されました。
足首の捻挫をした後で、くるぶしの後ろに痛みが残って、
なかなか痛みが引かないという場合には、一度、短腓骨筋縦断裂を疑ってみてください。
また、捻挫後にくるぶし後ろ側の痛みが残っていてお困りの方は、
足の専門医に受診されることをお勧めします。