手や指を怪我して、いざリハビリをしようとすると痛みが強く、
動かすと痛みが増長するので手を使わないでいる状態が続いたことはありませんか?
手全体が動かしにくかったり、いつまでも腫れが引かなかったりという症状が長く続く場合、
「肩手症候群(かたてしょうこうぐん)」という疾患を疑います。
この疾患は聞きなれない疾患ですが、
「複合性局所疼痛症候群(CRPS)」の、
上肢で起こるものと考えていただくといいと思います。
このページでは、どんな症状があって、
どうやって対処していくのかということを御覧いただきたいと思います。
では、どうして痛みが繰り返し発生したり、持続するのでしょうか?
その理由を図示したのが下の図です。
肩手症候群は上の絵にあるように、
一見、複雑なように見えますが、
こういった状態になった方は心当たりがあるかもしれません・・・。
まず、何らかの怪我をして、ある一定期間固定療法などを行うと、
怪我が治っていても、患部が腫れたり、痛みが残ったりすることがあります。
痛みや腫れがあるので、より長く固定するとか、
わかりやすい表現を使うならば、
過保護な状態になってしまい、
いざ動かそうとなると、
痛みが①の侵害刺激となり皮膚の感覚神経も興奮した状態が続きます(②の状態)。
その神経を介して、指ならば指周囲を動かす筋肉や血管が緊張した状態が続き(③④の状態)、
局所の血液が乏しくなり(⑤)、組織の酸素が少なくなり(⑥)、
発痛物質の生成が促進され、痛みが続く(⑦)という悪循環が続くことで発症します。
どんな症状なのか、具体的な説明は以下で患者さんの症例をもとにご説明したいと思います。
34歳の女性です。
右手の人差し指と中指を曲げることができないという訴えで来院されました。
実は5ヶ月前に自転車に乗っていて、
ハンドルで手を挟んだということで、
治療を続けていましたが、
痛みを強く訴えておられたので、
従来予定していた固定期間より長めに固定をしたそうです。
レントゲンを撮りましたが、
指に骨折や脱臼などの異常所見は見当たりませんでした。
ですので、もうしばらく関節を動かしたりすることで、
症状が改善するのではないかと経過観察することにしました。
2週間後、再び指の状態を確認したところ、
指の曲がりがまだ悪いようでしたので、
左の写真のように、可動域訓練を開始しました。
上の写真のように、しっかり指を動かせば、曲がります。
しかし、自分の力だけで曲げようとしてもうまく曲がりません。
そこで、今の状態としては複合性局所疼痛症候群(CRPS)の
状態になっているのではないかと判断しました。
そこで、CRPSの診断基準に基づいて、
症状を確認してみることにしました。
すると、多くの項目が診断基準に当てはまっており、
複合性局所疼痛症候群(CRPS)と判断できることがわかりました。
では、どうやって治療していくのかということですが、
「温冷交代浴療法」を行っていただきました。
これは、緊張をし続けている筋肉や血管の緊張を解き、
自律神経の異常な興奮を抑制するのに有効な方法です。
温かいお湯に3分間、冷水に30秒手を入れることを繰り返し、
4~5回これを繰り返します。
そして最後はお湯につけて終わります。
こういったリハビリを御自宅でもしていただくように指導させていただきました。
お家で自主的にリハビリを続けられた結果、
指の痛みに関する訴えはなくなりました。
次の方は、特別怪我をしたというわけではないのに生じた肩手症候群の方です。
81歳の女性です。
3か月前より、手の動かしにくさを自覚するようになられて、
当院へ来院されました。
写真のように左手の指は曲げられないので、
グーができない状態で、手首も反り返しができない状態でした。
問診で、お話を聞いていくと、
はっきりとした思い当たる原因はないとのことでした。
しかし、約1年前から、左肩関節の痛みのため、
左手全体を使うことが少なくなっておられたそうです。
左手の状態をレントゲンで確認すると、
過去に骨折している形跡もなく、
変形関節症の所見もありませんでした。
しかし、右手の骨の状態と比べると、
左手の骨は薄くすいたような状態になっていました。
いわゆる「骨萎縮」と呼ばれる状態でした。
さらに、肩関節もレントゲンを撮ってみたところ、
やはり、左肩の骨が薄く写っていて、
左肩も骨萎縮していることがわかりました。
以上のことから、肩を動かさなかったことが原因で、
手指も自然と動かす機会が少なくなって、
さらに痛みのためかばうようになり、
痛みの悪循環が生じていたのだということがわかりました。
骨萎縮が明らかであり、関節の可動域制限があるということで、
複合性局所疼痛症候群(CRPS)であると診断しました。
この方の場合、極端に痛みが強くならない範囲で、
左肩と左手の両方を動かすこと、できるだけ左手を使っていただくことを指導させていただきました。
肩手症候群に対する治療法としては以下の方法が有効です!
温冷交代浴
もともとは、しもやけなどの治療に用いられてきた自律神経の活動を促す治療法の一つです。
肩手症候群の自律神経のアンバランスを元に戻し、痛みを軽減させる効果があります。
その方法は以下の図のように行います。
まず、心地よく感じる程度(38度~40度ぐらい)の温水に患部を3分間つけます。
次に、極端に冷たくない程度の冷水(10度ぐらい)に患部を30秒ぐらいつけます。
これを4~5回繰り返して、痛みが緩和したら温水で終了します。
このとき、2回目以降に温水に浸しているときに、ゆっくりと関節を動かし、
こわばった筋肉をゆるめるようにします。
ときには、温水につけているときに患部をマッサージしたりするのも良いことです。
これらを症状が強い時には1日に4回ほど行いますが、1~2回でも十分に効果があるといわれています。
大切なのは、この一連の繰返しを温水で始めて、温水で終わることです。
これが肩手症候群にとって大切なリハビリとなります。
ミラーボックス療法
肩手症候群の治療法の一つに、鏡にうつした良い方の手を見ながら、
患者側の手を動かすという「ミラーボックス療法」があります。
これは痛覚や皮膚感覚をつかさどる脳の領域に生じた間違った感覚を再び元の正しい感覚に取り戻すため、
良い方の動きを目で見て真似て、正しい信号を脳に送ることで、
患側の元の感覚を取り戻し、正しい動きに結び付けるという方法です。
肩手症候群は、初めは患者さんご自身で自覚しておられなくても、
病院でリハビリなどで診せていただくと、
そうではないかなと思う節があります。
痛いと、かばって動かさなくなりがちですが、
あまりにもかばってしまうと、
今回問題になっている「肩手症候群」に陥る危険性があります。
痛くても少しは動かした方がいいのですが、
加減が難しいのも事実です。
ですので、こういった症状でお困りの方は、
当院へご相談にお越しください!