尺骨神経手背枝の知覚領域
下の図は、手背の一部分の知覚を支配している尺骨神経手背枝が支配している知覚領域を示したものです。
尺骨神経の手背枝は手首のあたりから手背の方に向かって走行しています。
小指側と、薬指側を担当する神経に枝分かれして、それぞれの知覚領域を支配しています。
その神経の走行を示したものが下の図です。
尺骨神経の手背枝が圧迫を受けると、上の図にある神経の担当領域で痛みや痺れ感として現れます。
しかし、知覚を司る神経なので、握力の低下や指先の動きが麻痺するなどの運動障害は現れません。
手首周辺にみられる疾患としては、手首の使い過ぎによって生じる腱鞘炎や軟骨損傷などとは違って、
手首の動作による痛みの誘発はありません。
以下で、実際の患者さんの例についてご覧いただきたいと思います。
症例1
20歳の男性です。
ボクシング競技をされている方です。
右手関節尺側部の痛みを訴えて来院されました。
2日前、ボクシングの練習中に痛くなったそうです。
写真は初診時の外観写真です。
赤矢印で示した×印の部分に痛みがあるそうです。
手関節をひねったり、強くついたわけでもなく、痛みが出てきたそうです。
問診や、徒手検査を行って調べたところ、
軟骨や筋肉が原因で痛くなっているのではないとわかりました。
握力の低下や、ADL障害などは特にありませんでした。
赤矢印で示した、痛みを訴えている×印の部分を叩くと、
写真の斜線部分に強く響くチネル様サインが見られました。
以上のことから尺骨神経手背枝の障害と考えました。
何が原因か、お話をうかがっているうちに、
手関節にバンテージをかなり強く巻いた状態で
ボクシングをされているという事がわかりました。
写真は、そのイメージ図です。
ちょうど、×印のあった痛みの部分に、
バンテージを強く締められていることがわかります。
バンテージを巻くときに強く締めすぎないように指導しました。
症例2
52歳の男性です。
左手関節尺側の痛みと痺れを訴えて来院されました。
1か月前、夜お酒を飲んでうつぶせで左手を下にして寝て、
翌日の朝、起床時に左手の痺れに気がついたそうです。
すぐ良くなると思い、様子を見ていたそうですが、
左手尺側部が、触れると痛く、症状の改善が見られないため来院されました。
上の外観写真は初診時のものです。
黒い斜線部分で示した所に、痺れを感じ、知覚低下も認められました。
上の外観写真は側面から見たものです。
赤色矢印で示した×印の部分を叩くと、斜線部分に放散痛が起こります。
手関節を動かすことによる痛みや痺れの増悪はありません。
また、×印の部分が当たったりしない限りは、特に支障がないという事でした。
左の写真は初診時のレントゲンです。
レントゲンでは、異常は認められませんでした。
以上のことから、尺骨神経の手背枝の麻痺であると考えました。
ですので、生活指導のみを行い、ひき続き様子を見ていただくことにしました。
尺骨神経の手背枝は皮膚のすぐ下を通っているので、外からの刺激に弱いので、
上記に示したテーピング以外でも、同じ様な部分が圧迫を受けて痛みや痺れが生じる場合があります。
なので、このページと同じ症状で手関節や指に痛みや痺れが見られる場合には、
×印の部分を強く押さえたりしないように対処してみてください。