伸筋腱脱臼 (手の指を伸ばす筋の脱臼)

手の指には曲げ伸ばしに関係する細かい筋肉があります。

指を伸ばすときには、それぞれの指についている腱が動いて指が伸びきるようになります。

ところが、腱が途中で脱臼すると、指の曲げ伸ばしの時に痛みを覚え、
なかなか治らないケースもあります。

ここでは、伸筋腱と呼ばれる指を伸ばす腱が脱臼した場合、
どんな症状をきたし、経過はどうなるのかということについて御覧いただきたいと思います。

ボクシングのパンチを打った時のような場合に受傷することが多く、強い痛みが生じます。

握りこぶしを作るように指を曲げると、
上の図の赤い丸で囲んだあたりで、腱が滑る感覚があり、痛みが生じます。

腱が脱臼しているとき、外見上どう見えるのか、下の動画で御覧ください。

画面でははっきりわかりづらいかもしれませんが、
右手の中指の付け根の部分に注目してください!

本来骨の上に乗っている腱が、脱臼して横へずれてしまったために、
右手中指の腱がへこんでいるように見えます。

受傷してから日にちがたってしまった陳旧例では下のような動きになります。

では、以下で伸筋腱脱臼のメカニズムや、症例について御覧いただきたいと思います。

左の図のように、
指伸筋腱はいくつかの骨にまたがって
1本の紐のようにピンと張っています。

さらにその横に矢状索と呼ばれる指伸筋腱を支える組織があります。

今度は指を横から見てみます。

指を軽く曲げた状態では、伸筋腱は延ばされた状態になります。

そして、フード状の矢状索に囲まれて、安定した位置にあります。

伸筋腱脱臼になった手を見てみましょう。
握りこぶしを作った状態で、指の付け根の骨が山状に浮き出てきます。

この写真の右手と左手を比べてみると、
左右の矢印の先で示した部分に違いがあることがわかりますか?

左手の伸筋腱の位置が右手と違います。  

上の写真状態をイメージしたものが左の絵になります。

正常な場合は、握りこぶしを作ったときに、
伸筋腱は骨の上に安定して乗っています。

しかし、矢状索が切れていると、
支えが利かなくなり、伸筋腱は脱臼してしまいます。 

左の絵は正面から見た伸筋腱脱臼の図です。

こぶしを作った中指の骨と伸筋腱、そして矢状索の状態を表しています。

左手の伸筋腱は矢状索が切れているため、左側へずれてしまっています。

左の動画は、上記の図で示した伸筋腱が、
脱臼した状態をエコー画像で見たものです。 

指を動かしていると、伸筋腱が画面の右側に移動して、脱臼し、
再び元の位置に戻ってくる様子がわかります。 

治療方法

左の写真は固定具を使った治療方法です。

外傷によって伸筋腱脱臼が生じてから1週間~10日ぐらいであれば、固定療法を行うことで損傷した矢状索部分を
修復できる可能性があります。 

ですので、怪我をした部分だけを固定する装具をつくって、
保存療法を試みます。

固定期間は5~6週間です。

装具を装着した手を横から見た図です。

指の付け根は曲がらないようにしていますが、
問題になっている指以外は曲げることが可能です。

こういった固定療法ができるのは、
受傷して間もない時期です。

受傷後かなり日にちがたっている場合には、
手術療法になる場合が多くなります。

では、実際の症例を見ていただきたいと思います。 

36歳、男性です。

握りこぶしをつくると、左中指の部分が痛み、来院されました。

エコーを撮ってみると、
指を伸ばした状態では青丸印で示したように
骨の上に伸筋腱があります。

ところが、指を曲げると、赤丸印で囲んだように、
外側へ伸筋腱が脱臼してしまいます。 

伸筋腱脱臼の手術に関しては、
左の図のようなイメージで行います。

脱臼してしまった伸筋腱をもとの位置まで引っ張って来て
傷んだ矢状索を縫い合わせて、
伸筋腱がずれないようにします。

29歳の男性です。

怪我によって右手握りこぶしをつくった時に痛みが生じ、来院されました。

エコーを撮ってみると、
指を伸ばした状態では青丸で示したように骨の上に伸筋腱がありますが、指を曲げると、赤丸で示したように、
伸筋腱がずれて脱臼していることがわかります。

手術は前に述べたものと同じ方法で行いました。

術後は固定装具を使って3週間の固定を行いました。

取り外しができるようにしてあるので、
術後の消毒も簡単にできます。

他の指の動きを妨げることなく、
極力日常生活に支障をきたさないように工夫してあります。

術後の手を横から見ています。

中指以外の指が自由に曲げられていることがわかります。

手術後、指を曲げても伸筋腱は脱臼せず、
きちんとあるべき位置に安定していることが確認できます。

伸筋腱脱臼はこぶしをぶつけるなどの外傷によっておこります。

受傷直後に腫れて痛みがあるので、なかなか気がつかないということもあり、
発見までに時間がかかることもあります。

しかし、早期発見すれば、装具による保存療法で治る確率が高まります。

ですので、おかしいなと思ったら、
なるべく早く整形外科を受診されることをお勧めします!

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